133 辺境に帰る前に
マロンの手を掴みエリザベスはローライル家であてがわれた南向きの庭の良く見える部屋に引っ張って行った。部屋に入るとマロンを逃がさないようにエリザベスはドアを背にした。
「どういうこと?」
「・・・・」
「言わなくていいわ。わたし分かっているわ」
最初は何の話かと聞いていたエリザベスだったが、マロンがエリーナと双子の姉妹だと分かったようだ。このままあやふやにしてはいけないとマロンは思った。ローライル家には花嫁修業中のエリザベスの部屋がしっかり用意されいずれはセドリックとこの家を守っていく。マロンはエリザベスに声を掛けようとした時、突然エリザベスがマロンに抱きついた。
「やっぱりマロンとの縁は繋がっていたのね」
「エリザベスは嫌じゃないの?」
「どうして?あなたがローライル家に戻ってきたらもっと嬉しいけどセバスおじさんが悲しむものね」
「辺境にはユキやスネ、ジルがいるから」
「マロンには貴族お嬢様の枠はいらないわね」
「というより、貴族お嬢様になれないというのが本当のこと」
「マロンは子供の頃から貴族の出だと知っていたのね」
マロンは魔力がないからと孤児院の前に捨てられたところを魔力なしの貴族令嬢として生きてきたおばあ様に拾われたことを説明した。祝福の儀の時、マロンのフルネームが表示されたことを話した。
「わたしも表示されたわ」
「誰でも表示されるのね。平民は名前だけだから何か特別なのかと思った。その時魔力量はとても少なかったし属性魔法などなかったから貴族に戻るなど考えなかった」
「でも、マロンの生活魔法は特別よ。ある意味全属性を扱えるわ」
「それは良く分からないけどとても便利だと今は感謝している。子供の頃はもっと手に職になるスキルが欲しかった」
マロンはおばあ様に育てられ幸せだったから捨てた親の所に戻ることは考えられなかった。今は事情も分かるしロースターやユリア夫人の優しさも分かる。だけど時間がたち過ぎて親子とか身内の感情が湧かないことを正直に話した。
「マロンの気持ちわかるわ。わたしも今は母のことを恋しいとか思わないもの。それより父や辺境のみんなの方が大切に思える」
「そして・・セドリックさんやユリア夫人が大切な家族になっていくのね」
「そうなのね。ところでエリーナや彼にはどう伝えるの?」
「わたしは関わらない。御当主様に任せるわ」
「そうなるわね」
「エリザベスも口にしないで。わたしは今まで通りエリザベスに会いに来るから」
「本当に来てよ」
マロンはしばらく会えないエリザベスに転送のハンカチを手渡した。手紙や小物が送れることを伝えるとエリザベスは目を見張った。もちろん「秘密」と伝えることを忘れなかった。マロンはしばらくエリザベスとお茶をしたのちローライル家を後にした。
マロンはそのまま街に出てグランド商会に向かった。以前から頼まれていた肌用の化粧品の試作品を届けしばらく辺境に戻ることを伝えに言った。
辺境のご婦人たちは冬の手荒れや肌の乾燥に悩んでいた。マロンが作った手荒れ軟膏はとても役に立った。それをもとにリリーから教わったことを参考に肌用の化粧品を試作していた。辺境の南側にオリーブの実がなる木を植え、東には甘い蜜が取れる木を植えた。これらはリリーが守った屋敷からジルやスネが持ってきたものだ。薬草ばかりか実のなる木々も沢山運んできていた。
なぜか寒い辺境でも植物はすくすく育ちエディン国の南で取れる常夏の果物以外は十分に楽しめるようになりそうだ。義父からの手紙には薬草も順調で辺境の薬師がそれなりの回復薬を作れていると喜んでいた。たまに果物や甘い蜜、薬草を盗みに来る者が人と魔物が現れる様だがたいしたことはないと手紙に書いてあった。
「ロバートさん、これが試作品です。いつもお世話になっている方に試してもらってください」
「少量でよく伸びる様だね。少しおしゃれな入れ物に入れることにするよ。返事はいつもの手紙で良いかな?」
「しばらく辺境に行きますがいつもの方法でいいです」
「急用かい?辺境で何かあったのか?」
「いいえ、義父が薬草を育ててくれるのでそれを見に行こうかと思って。来年は学園卒業だから」
「そういえばそうだ。どうするのかな?王都に残るのか、嫁に行くのか、はたまたどこかで働くか、夢が広がるな」
「まだ分かりませんがもう少し錬金術を学びたいと思っています」
そんな話をしていると店先で騒がしい声がした。「これは薬ではないですか」「こういうものは薬種商会で売るものではないですか」マロンが作った手荒れ軟膏に苦情を言っているようだ。それにこの声は聞き覚えがある。マロンとロバートが店先に顔を出した。ロバートは声の主を知っているようで穏やかな声を掛けた。
「どうしたのですかリリアナお嬢様?」
「あ、あなた誰?」
「申し遅れましたグランド商会の隠居のロバートと申します。何か気に障るものがありましたか?」
空欄
リリアナは突然現れた大物に驚いたようだが苦情を言い出した手前引っ込みがつかない。さらにマロンの顔を見て顔つきはさらにきつくなった。
「こ、これは家で取り扱っている薬よ。ここで売ることは出来ないはずだわ。おじい様に伝えれば商売できなくなるわね」
「リリアナお嬢様、それは逆です。この手荒れ用の軟膏はうちがおたくの薬種商会に降ろしているのです」
「そんなこと嘘よ」
「リリアナさん、その手荒れ軟膏のレシピは私の名前で商業ギルドに登録してあるから本当のことよ。この軟膏は傷に対する治療薬ではなく手荒れに対して保湿や傷の保護を目的とした・・化粧品の一種ですね。薬師が作る治療薬とは違います」
「貴女、学生でしょ。そんな事できるわけないじゃない。誰かの手柄を貰ったのかしら?」
「リリアナお嬢様、確かめもせずそのように男爵令嬢を貶めるのはいかがなものでしょうか?」
「わたしだって貴族よ」
そう言い張っていたリリアナの元にハリソンが現れた。「どうして外で待っていないのか?」と声を掛けた。
「だって、これ、うちの店で売っているものがここで売られているのはおかしいでしょ」
「失礼します。商品を見せていただいてもよろしいですか?」
ハリソンはマロンには気が付かずロバートに向かって声を掛け商品を手にした。
「リリアナ、これには薬種商会の印がないよ。その代わりグランド商会の印がある。おじさんが言っていたけどお店には薬だけでなくお手軽に使える小物も最近は取り揃えていると言っていただろう。店に戻って確認したらいい」
「だって、これをあの人が作ったって嘘を言うのよ」
リリアナの指さした方向にマロンがいることにハリソンは驚いた。
「リリアナ、マロンさんならこれくらいは簡単に作れる技術がある。何でも自分の思い込みで人を非難してはいけない。不審に思ったら自分の所の店の者に相談することから始めないとグランド商会にご迷惑をかける」
「だって・・」
「リリアナさんは私がグランド商会の身内の者と誤解されていませんか?それにハリソンさんとは錬金術の級友以上の関係はありません」
「・・・・・」
「マロンさん、冷たいですね。良きライバルと言ってほしかった」
「・・・ハリソンさんは私より鈍いお方ですね。とりあえず店先で騒いでも仕方ないです。リリアナさんは商業ギルドに行くか自分の商会で確認してください」
「悪かった。リリアナまずは自分の目で確認しろ。納得したらこのことを商会長に伝え正式に挨拶に来なければならない」
「どうしてよ。大袈裟な」
「店先でいわれのない苦情をリリアナが薬種商会の名の下で言い出したんだ。リリアナ一人の問題ではない。周りを見てごらん」
興奮状態だったリリアナは店先以外に通り迄人が集まっているのに驚いた。以前ハリソンと街で出会った時からマロンのことが気に入らなかった。マロンがグランド商会に出入りしていることからその身内と思って何かしら貶めようと思ったのだろう。ハリソンとまだ婚約してはいないようだ。ハリソンは婚約のことを意識していないから余計リリアナは焦っているようだ。
ハリソンはロバートに丁寧に挨拶しリリアナの手を掴んで大勢の人をかき分け大通りに向かっていった。その後ろをリリアナの付き添いのものが慌てて追いかけていった。ひと悶着あったのちマロンはロバートに声を掛けて寮に向かった。
お読み頂きありがとうございます。
酷暑に負けないように体調に気を付けてください。
誤字脱字報告感謝です (^o^)




