13 マロン王都に行くことを決意する
マロンはドアを叩く音で目が覚めた。慌ててソファーから起き上がり、ドアを開けるとそこにはカリンさんとロバートさんが心配そうに立っていた。
「マロンちゃん、泣き明かしたのね」心配そうにカリンさんに声を掛けられた。
「大丈夫です。ロバートさん、王都に連れて行ってください」
「決意が出来たのかい。この家は?」
「誰か借りてもらえれば、、」
「商業ギルドに頼んでおくか?あと二日ほどで王都に戻る。荷物は纏められるか?店の荷馬車の空きがあるから乗せて行ける」
「はい、お願いします」
その時カリンさんから娘夫婦が戻ってくるので良ければ借りたいと申し出てくれた。カリンさんならこの家を大切にしてくれる。いつかマロンが戻って来るかは分からないが、今は手放したくなかった。手続きは商業ギルドでロバートさんを交えカリンさんと契約した。マロンはまだ9歳になったばかり、未成年だった。ロバートさんがいることと養子縁組のおかげで、いろいろな手続きが問題なく済ませることが出来た。さすがに大商会の大旦那様だ。
商業ギルドカードに家賃は振り込まれることになった。ソファー以外の家具や調理器具、食器などはそのまま残していくことにした。いらなければ捨ててもらえばいい。王都の生活がどうなるか分からないから余分なものは置いていくことにした。
ギルドカードには魔法鞄を買ったのに5金貨残っていた。いつも鉄貨や銅貨しか見たことないから驚いてしまった。おばあ様は働くだけ働いて、使うことを知らなかったのかもしれない。
おばあ様ほど優雅で教養があって綺麗だから求婚者が多くいただろうにとマロンは思った。それを口にすれば、ロバートさんは「家に縛られていたからな、そのせいかもしれない。でも公爵家で働いている姿はとても素敵でしたよ。皆に頼られていましたね」と話してくれた。
二日後にロバートさんの商会店舗に行くことを約束して、マロンは家に戻った。ほとんどの物を残していくが普段使いのコップやカトラリー、使いかけの食材、おばあ様の刺繍が入ったカーテンやタペストリー、テーブル掛け、クッションなどは持っていくことにした。ポシェットに収納しているとユキが声を掛けた。
「マロン、魔法カバンの中見ておいた方が良いよ」
「でも、何が入っているか分からないから出せない」
「ああそうか。マロンの「生活魔法」はいつもパンしか入っていないから思い浮かべるのは簡単だったな」
「そんな言い方しないで。時間停止機能はなかなか優秀よ」
「それはそうだが、沢山持ち運びするのにいちいち紙に書いておく必要はないんだ。鞄に手を当てて、「収納一覧」と言ってごらん」
「えっ、なにこれ?本の名前が種類別に並んでいる。おばあ様が購入した布地や刺繍糸も沢山入っている。色や材質別になってる。すごく分かりやすい。他にはおばあ様の服やマロンの服に下着、生活に必要なものがいろいろ入っている。それに砂糖、胡椒?、小麦粉、ぶくぶくの実、、、洗濯のあわあわの実まで入っている」
おばあ様はマロンが一人になっても困らないように色々ロバートさんに準備してもらっていたようだ。「収納一覧」はマロンの生活魔法でも同じことが出来た。マロンは砂糖などの食材はマロンの収納に移し替えた。さすがに生ものではないが劣化しない方がいい。その代わりカーテンなどの時間停止が要らないものをポシェットに移動した。明日はパン屋に仕事をやめることを伝えなければならない。家の中も掃除をしてカリンさんに引き継ぎをしなければいけない。
「マロン、君の魔力はこれから増えていくよ。ユキがもう満腹になったから」
「どういうこと?」
ユキがマロンと出会った頃は、ユキはもう死にそうなほど魔力が無くなっていた。魔力が駄々洩れのマロンを見つけ、これ幸いとユキはマロンにくっついて少しずつ魔力を補充していた。マロンは子供なので魔力が少ない。だからユキの魔力が満杯になるには時間がかかった。
「わたしの魔力は「小」のうえに「充魔中」なのはユキのせい?」
「そうとも言えるしそうとも言えない。マロンは子供の頃から魔力は少なかったんだと思う」
「それはそうよ。平民だもの。それでも「充魔中」でなければ他のスキルが貰えたかもしれない」
「それはないだろう。とりあえず魔力は少しずつ増えていくから、「生活魔法」は良い働きをするよ」
ユキの話を聞いても残念には思えなかった。今、ユキが側にいてくれる方が嬉しいからだ。おばあ様の話も聞けたしこれからの王都での生活もユキがいれば淋しくない。それにポシェットの中にはたくさんの本が入っている。庶民にとって本は高価な物だ。公爵家で働いたお給料は本代になっていてもおかしくない。
おばあ様は知識欲?と言うか学習意欲が高かった。残してくれた筆記帳は随分厚い。これを読み解くだけでも時間がかかるが楽しみだ。おばあ様のレシピでお菓子も作ってみたい。マロンは王都での生活が楽しみになってきた。
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