表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/137

126 イリーシャを守れ  5

 まったく子供の王女に禁止薬物の「マインドコロン」を飲ませるなんて何を考えているんだ。まして今は王宮魔術師棟の薬草園で厳重に管理して、薬品としてわずかに使用されているだけのはずだ。


そんな重大事件を持ち込んだのがマロンだ。魔法で小人になって俺の執務室に転移してきたときは驚いた。王都にいるはずの人間が転移するだけでも驚きなのに、小人になって現れた。それこそ夢物語だ。


こんな便利な魔法ならと俺の思惑を先回りしてきた。スネとの契約だから他の人は転移できないと釘を刺された。マロンは頭が回り過ぎる。いずれはハリスの婚約者にと期待しているが確実に尻にしかれる。まあ、セバスのとこもそうだが上手くいっているから良いのだろう。


しかし、マロンには本当に色々驚かされる。辺境の街おこしをしたかと思えば聖獣を見つける。聖獣とも会話ができる上にユキという「ケサランパサラン?」何だか分からない綿毛の塊を保護者にしている。


 マロンは平民なのに魔力量が多いからか「生活魔法」がとんでもないことになっている。そしたらハリスから「マロンは四公の一つローライル家の「失われし双子の一人」だと言われた。すでにオットニー家の養女にしている。養子縁組の話をセバスが納得する訳がない。マロンを妻マーガレットととても大切にしている。マロンのためにと薬草園を聖獣たちと作っているほどだ。


ハリスの話ではマロンは今更公爵令嬢に戻る気はないらしい。知っているのはユリア夫人だけだと言っていた。それでもロースターの意向があるだろう。いつか時間を作って話をしなければならない。あくまでマロンの意向を大切にしないといけない。マロンが公爵令嬢だろうが男爵令嬢だろうがマロンの価値は変わらない。


何があったか分からないが双子の妹は学園に通っていたはず。「ロゼリーナは偽物だった」ととんでもない秘密をハリスが暴露した。公には妻とロゼリーナは領地で静養しているらしいが、ほぼ監禁状態だろう。さすがに実子虚偽は重大事件だ。今は前公爵夫人が屋敷に戻り後継の婚約者、俺の娘エリザベスの教育に当たっている。


俺の妻はエリザベスに母親らしいことを何もしなかった。俺もどうしていいか分からなかったが娘を愛していた。それでも優しい子に育ってくれた。ローライル家で暖かい家族を作ってもらいたい。マロンの縁でセドリックに出会えたエリザベスは本当に幸せそうだ。


辺境の森を守ってくれるジルやスネだってとても感謝してる。スネが頻繁に王都のマロンの所に行っているとは知らなかった。時々ユキが森の温泉に来ているのは知っていたがスネが送迎していたらしい。こんなことが出来る聖獣(?)たちを王都の欲深い貴族たちには知られるわけにいかない。それだけでも頭が痛い。


それなのに禁止薬物の「マインドコロン」なんていう「過去の遺物」を掘り起こしてきた。俺でも当主を引き継ぐときに渡された禁書で知ったくらいだ。それをマロンは学園の錬金術の講師を使って知った。まあ、その講師が出来る奴で良かった。普通の奴なら珍しい薬草で終わっただろう。さすがに名の知れた錬金術師の系統だった。


犯人と疑われた侍女は王宮勤務の長い信頼を置かれていたウエンディ家の息女だった。聖国にも留学経験があり王妃の側にもいたことがある。聖国のノーリア姫が妃教育を受けに来ている間も通訳として働いていたはずだ。


リーナッツが謀反を起す理由が分からない。聖国の留学で聖国に取り込まれ聖国の「情報員」として活動をしていたのか。とりあえず国王と騎士団、解毒薬が作れる王宮魔術師長に連絡を取り自分も王都に向かった。


王都に向かえば宰相が中心になりリーナッツの周辺を調べ始めていた。まだ学生のマロンが巻き込まれていることもあり、信頼のおける警護の選出を騎士団に依頼した。近衛兵はほとんどが王都出身の貴族であったためリーナッツと繋がっている者がいないか調査をはじめた。王家の影を使い「マインドコロン」をどこから調達しているか、リーナッツが出入りしている実家も調べ始めた。


王宮術師長は王宮薬草園でマインドコロンの薬草を治療薬として育てているが、管理は厳重にされている。枯葉一枚も記録に残されている。マインドコロンは気温が高い所で育つので、火の魔石で特別に高温にした温室で育てられ経費のかかる「金食い草」と魔術師の老人が言っていた。さらに水やりも加減が難しい。素人が育てるなど出来る物ではない。密輸なら少量でも大金がいる。


オズワルドは知識として「マインドコロン」を知っていた。「洗脳草」と言う言葉の方が理解しやすい。健やかに育ちはじめたイリーシャ王女の安寧を私欲で侵すものを許しはしない。それが聖国であってもだ。


ノーリア姫が私欲で生んだ娘を捨てて聖国に戻ったと知った時は驚いた。その相手が臣下降籍した王弟と聞いた時は頭が痛くなった。王家の色を強く残した娘を王弟が実子として婿入り先に引き取ることもできない。他の貴族家に養子に出すこともできなかった。そんな時王妃が実子として受け入れてくれた。これで無事収まったかと思えば今回の事件だ。イリーシャの出生の秘密を守りながら解決しなければならない。


ハリスは今回の件にマロンが関わっていることで肩に力が入り過ぎている。警護対象はあくまで王女だ。禁止薬物のことを教えることは出来ない。その中でハリスが警護の仕事を全うするかは本人次第だ。隠された情報をわずかな手掛かりから見つけ出すのも必要な訓練だ。


脳筋のように思われる辺境の騎士たちだが、いつも魔物の対応を考え行動している。機械仕掛けではない生き物は同じ行動をとるとは限らない。若いハリスはこれからが騎士としての始まりである。


 多方面からの調査の結果、リーナッツ個人の動機がはっきりしてきた。「マインドコロン」は聖国の友人からお茶として購入していた。聖国は過去の大事件の反省もなく興奮を治めるお茶として「マインドコロン草」を含んだ茶葉を他国から仕入れていた。「洗脳草」というほどの効果がないはず。しかし、リーナッツに贈られていたお茶は手が加えられていた。リーナッツがそれを知っていて茶葉を使った。


他国から輸入されているこのお茶は特に聖国の貴族に飲まれている。エディン国は輸入禁止にしている。高ぶる神経を治めてくれる。就寝前に飲まれることが多いようだ。気苦労の多い貴族には寝酒と同じように飲まれている。


マロンが茶葉を「浄化」したことで「マインドコロン」の薬効はなくなっている。体に入ったものは「解毒薬」で回復した。症状が重いのは体の小さな王女だった。それだからマロンが異常に気が付いてくれたのだ。


リーナッツ一人の犯行と断定した。彼女の実家は何も関わっていなかった。リーナッツの積年の憎しみが彼女を変えたようだ。リーナッツに「健康茶」を送った聖国のキュリア・エンドリアは聖国の侯爵家の当主だった。あくまで「健康茶」であって「洗脳茶」ではないことになっていた。これだけでは聖国に苦情を申し込むことが出来ない。


なんともすっきりしない事件だった。一人の女性の積年の恨みが引き起こした。男なら金だ、女だ、名誉だと欲のはけ口は決まっている。男はある意味単純明快だ。女とは摩訶不思議だ。過去にとらわれず生きていたら優秀な侍女長になっていたはずだ。その前に見初められ高位貴族の妻の座に収まっていただろう。


ただ彼女が長い年月「マインドコロン」の影響を受けていたのは確かだった。聖国に我が国の情報を流していた証拠はないが聖国の侯爵キュリア・エンドリアと通じていたことは確かだ。リーナッツが政の中枢にいなかったことにほっとした。


何処の国にも間者はいる。わが国でも他国に出向いていて情報を集めている。しかし、その道の専門でない者が間者として動いていることに気をつけなければならない。


リーナッツは王宮魔術師棟で隔離され薬の離断をはかり再聴取される。いずれは処罰が降りるがそれは国王の仕事だ。こんなに何度も王都に出向くのなら俺も転移したいと今回はつくづく実感した。

お読み頂きありがとうございます。

誤字脱字報告感謝です (^o^)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ