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124 イリーシャを守れ 3

 カリルリルは王女宮統括侍女長として今の状況に驚いていた。王女イリーシャが毒草に侵されている。マロンから聞かされた内容に声も出なかった。王妃の侍女として20年以上働いていたリーナッツが犯人だと言われても信じられなかった。


リーナッツは歴史ある宮廷文官の伯爵家だ。政に顔を出すことはないが堅実な仕事ぶりは代々変わらない。父親は財務に、兄は王太子の執務室で文官として働いていた。


リーナッツは聖国に留学した聡明な女性だった。聖国語が話せることで王妃の侍女として外交の手助けを一時期していたが、いつの間にか侍女専任になっていた。カリルリルもそうだが王宮で働く女性たちは長く務めるほど婚姻の機会はなくなる。


 貴族の結婚は家の繁栄のために子を産むことが大切な仕事だからだ。さらに、仕事を辞めることが条件になる。男性優位の王宮で女性として積み重ねた経験や職歴をそうたやすく捨てることが出来ない。カリルリルとて同じだ。だからこそ仲間意識を、侍女として先輩のリーナッツに親しみを感じていた。


リーナッツは職場が変わっても物腰が柔らかく年下の仲間に優しかった。自らお茶を淹れ自宅から送られてきたお菓子を振る舞うことも多かった。もちろん王女に対しても問題はなかった。だからこそ聖国との通訳までした彼女が侍女として自分の下に来たことに驚いた。本来ならもっと上にいて当たり前だった。


マロンに意見されるまでカリルリルは自分の変化にも気が付かなかった。他の侍女達に比べればリーナッツと共にする時間は少ない。しかし、それなりに経験のあるリーナッツと話すのはカリルリルにとって有益だった。そこに付け込まれコロン草のお茶を飲む機会があった。日常の業務に支障がないので自分の変化に気が付かなかった。


 毎日二度は王女の部屋に行っていたのにいつ頃からか、講義時間の訪問で済ませるようになった。王女の変化に気が付かないのも仕方がない。日誌を見直せば王女のお披露目の後から少しずつ自分の行動の変化が読み取れた。


 マロンが研修に来てから7日後、カリルリルは王宮魔術師長と面談をした。コロン草について詳しく説明を受けた。コロン草は怪我や病の疼痛緩和のための特別な薬草で一般には禁止薬物となっている。少量なら興奮状態を静めることが出来るが習慣性がある。長期の服用による副作用は薬の効果が切れると激しい落ち込みかまたは逆に興奮状態になる。薬を求めるか自死を選ぶ者もいると言われ体が震えた。


「皆さんは大丈夫ですよ。思考力が落ちて、相手の言うことを鵜呑みにする程度の軽い洗脳状態ですね。どこで調達したか今調べていますが大量には持ち込んでいないようです。こちらが解毒剤です。毎日1錠ずつ10日間服用してください。それで解毒されます」


気難しそうな王宮魔術師長はさもたいしたことではないと話し続けた。それよりも「マロンの浄化」を見て見たいと言い出した。付き添ってきたひょろりとした男性の付き添いが無理やりどこかに連れて行った。


「王女宮の毒入り茶葉は効果無効にしましたから安心してください。侍女長は責任感が強くても自分は傷つけないでください。貴女では防げない事でした。まあ、次回の王妃の面会時には異常に気が付かれたと思いますよ。


今は調査中ですから問題の侍女はそのまま放置しておいてくださいね。あと、これは偽薬で何の効果もありません。病気予防の薬とか言って侍女たちにも飲ませる時にあの侍女の分として使ってください。マロンを上手く使ってください」


何度も「マロン・・」「浄化が・・」と叫ぶ魔術師長を無理やり部屋から付き添いの男性は押し出しどこかに連れて行ったようだ。やはり魔法使いには変わった者が多いらしい。魔法に長けた者は良き夫にはならないと言われているのも分かる。マロンが攫われないよう気をつけなければと思った。


 ごく軽い洗脳状態ということで、解毒薬は10日分で問題ないらしい。今日の夕方に皆に、医師から配布された予防薬として飲ませること。王女には解毒薬を年齢に合わせ少量ずつ20日ほど飲ませることになった。マロンが担当してくれる。王女の好きな「アイス」で釣るようなことを言っていた。


 毎夕方の報告時「病の予防の薬」として解毒薬を服用させていった。元々気性の激しいものがいなかったので大きく様子が変わった者はいなかった。報告書が正確になり仕事の配置もリーナッツの思惑どうりにならなくなっていった。


誰もが順番に王女を担当し部屋の掃除が行われカーテンを取り換えることもできた。部屋全体が明るくなった。不審な物はカリルリルの所に集まり、報告も滞ることがなくなった。元々が優秀な侍女達だったが先輩のリーナッツに気後れしていたようで、何事もリーナッツを立てていたようだ。


侍女達はいつの間にかいろいろなことをリーナッツに報告し、指示を仰いでいた。

「そんなことは私が上手くやっておくわ」

「不審物は私が統括侍女長にとどけておくわ」

「疲れているでしょ。今日の王女当番は私が引き受けるわ」

「我儘な王女のことは任せて」


そんな日常がいつの間にか当たり前になっていった。しかし、解毒薬を飲み始めるとどうしてリーナッツの我儘を同僚として許していたのかと思うようになっていった。


「今週の衣装担当と王女担当を代わってくれないかしら」

「いえ、それは許されません。どうしてもなら統括侍女長の許可を貰ってください」

「そんな・・そこまでしなくても、以前は代わってくれたでしょう?」

「それはいけないことだと気づきました。規範に反します」

「・・・・」


「王女の食事は私が代るわ」

「いえ、今週は私です。先週もその前の週もリーナッツさんに任せきりでした。申し訳ありません」

「いいのよ。わたしは王女様が好きだし、王女様も喜ぶから」

「いいえ、私は仕事をおろそかにしたくありません。私に足りないところは直していきたいです」

「どうして」

「リーナッツさんは働き過ぎです。休んでください」

「・・・・・」


 徐々に解毒薬が効果を表すと侍女たちを支配していたリーナッツに彼女達は不満を感じるようになっていった。リーナッツの表面上の優しさに見え隠れする傲慢さを感じたからだ。リーナッツは苛立ちを隠せない。同僚侍女に「わたしが王女の食事を運ぶ」と言えば「今回は私の当番です」と言い返される。「マロンさんの研修はリーナッツさんしかいません。頑張って下さい」と逆に励まされていた。


その分マロンは嫌な思いをさせているようだが、彼女は何も言い返さず素直にリーナッツの言葉に従っている。思わずコロン草のお茶を飲んでいるのではないかと確認したくらいだった。


王女宮の侍女が解毒剤を飲み皆が回復し、王女は明るく元気になり食欲も出てきた。いつの間にか抱き枕の猫が新しくなっていた。今回は魔蜘蛛糸の布で作られていた。抱き枕の猫は騎士服を着て剣を腰に差している。王女を守るように寝台横に立てかけられた。仕舞われていた魔石ランプも元の位置に置かれた。


 王女のお披露目から三か月後の年末、リーナッツは家庭の事情で王宮を辞した。最後の挨拶はなかった。公にできない禁止薬物の使用だけあって内密に処罰を受けたようだ。マロンは欠員の侍女が埋まるまで今年は辺境に帰らず王女宮の侍女として研修を続けた。

お読み頂きありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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