122 イリーシャを守れ 1
マロンには国と国との外交など分かるはずもない。今はイリーシャを守ることだけがマロンにできる事だと思った。政治的なことはカリルリルに任せよう。
『マロン、ユキも力を貸すぞ。フライと連絡取れないのは困る。警備も信頼できるものに変えた方が良い。とりあえず王女の周りは俺が調べてくるから、カリルリルに目立った動きはしないように伝えておいてくれ』
「カリルリル様は頼りになると思うけど・・他には誰に相談するのが良い?」
『両陛下が動くわけにはいかないからな・・それに問題が大きくなる』
「オズワルド様は?」
『イリの事情も知っているしいいかもな。なんか用事をつけて来てもらえ。護衛はハリスに頼んだらどうだ』
オズワルド様なら騎士団に手をまわして信頼できる騎士を選んでもらえるかもしれない。
「ユキは凄いね」
『まあな、俺はマロンより長生きだからな。スネにも手伝わせるか・・』
スネはやめてもらいたい。余計騒動が大きくなりそうだ。マロンは念話で「スネは・・やめた方が良いと思う」と伝えた。しかし、その時にはユキがマロンから飛び立っていた。ユキも近距離だけど転移が出来るようになっていたことをマロンは忘れていた。見失ったユキを追うことは諦め、マロンはこれからカリルリルとの話し合いに集中することにした。
マロンは王女宮に戻るとそのままカリルリルの部屋に向かった。自分の意識を鮮明にしようと自ら腕に傷をつけることにマロンは驚いていた。それ以上に王女を守れなかったことを悔やむ姿が痛々しかった。
マロンがカリルリルの部屋のドアをノックしようとした時ドアは内側から開き王女担当の侍女が出てきた。
「マロンさん、来てくれたのですね。王女様も喜びます。わたしはこれで失礼します」
何の変わりもなく顔見知りの侍女は廊下を歩いていった。入れ替わるようにマロンはカリルリルの執務室に入っていった。
「お帰りなさい。とりあえず王女の身近な侍女に事情を聞いたところなの。薬草は何か分かった?」
「はい、コロン草と言います。本来は病や怪我の苦痛を和らげるための特別な薬草です。ですが、使い方を誤ると他者の思考や行動を本人が気づかないうちに操作されるそうです。「洗脳草」と呼ばれ今では禁止薬物になっているそうです」
「そんな物がどうして?」
「分かりません。解毒薬はあるそうですから学園の錬金薬師のプーランク先生が王宮魔術師の所に向かってくれました。先生は口が堅いので公言することはありません。それに公言できる薬草ではないようです」
マロンの話を聞きながらカリルリルは腕に巻いた包帯の腕から刺し傷を擦った。マロンが学園に出向いている間にカリルリルが侍女から聴取したことを話してくれた。
どの侍女も大きく性格や行動が変わった者はいなかったがリーナッツの指示を受けて行動している様子があった。
「リーナッツさんが王女様のお相手をしているうちに掃除を済ませている」
「お食事は率先してリーナッツさんが担当してくれているので休憩時間が余分に取れて助かった」
「王女の入浴や身の回りの世話はリーナッツさんが率先してやってくれるので他の仕事をしていた」
「最近体が怠く動くのが辛いのでリーナッツさんに助けてもらっている」
一つ一つはたいしたことではないがこの一か月ほどの間に王女の身の回りの仕事をリーナッツが全て行っていた。起床から就寝迄他の侍女が入らないことはないが、いつもリーナッツが中心にいた。改めて書き出すと異変に気付く。
「わたしはどうして見落としていたのかしら・・・」
「カリルリル様自身もコロン草の入ったお茶を飲まされていたんだと思います。ただ他の侍女達よりお茶を飲む回数が少なかったのかもしれません」
「それでも自分が情けなくなりました」
「リーナッツの目的と薬草の入手方法が分かりません」
「リーナッツは宮廷文官の伯爵家の娘、二十年余り真面目に働いてどの職場でも問題はなかった」
「だから王妃様もリーナッツが王女の侍女になることを許した。それなのに今なぜ?」
「彼女に何か起きたのか?」
「それともリーナッツは誰かに指示されて仕方なく仕出かしたのかもしれない」
「どちらにしても王女を守らないと。誰を信頼して良いのか分からないわね。私が」
「カリルリル様、一時的に私を王女担当の侍女にしてもらえませんか?体調の悪い侍女の方の代理で」
「あなた学園は?」
「どうにかします。試験だけ学園に向かえば大丈夫です」
マロンは信頼できるものを選出してもらうためにオズワルドの助けを求めることを伝えた。オズワルドとは辺境の旅でカリルリルも顔見知りだ。詳しいことはマロンから伝えることで了承を得た。カリルリルは体調不良の侍女の休職とマロンの侍女採用をすぐに王妃に秘密裏に伝え了承を得た。
侍女の欠員で王女の世話に一時的にカリルリルが入ることでリーナッツは今までのような行動は起こせなくなった。マロンは学園長と寮監に簡単な説明をしてしばらく戻らないことを話した。学園長には王妃より連絡が来ると伝えた。学園長は「気を付けて、無茶しないように」と言われてしまった。マロンは寮に戻るとユキが待ち構えていた。
「マロン、オズワルドのとこに行くぞ」
「ええ、?」
「スネも待機している。手紙などでは伝わらないだろう。今回は仕方ない。マロンの部屋に転移してオズワルドと話をつける。それが手っ取り早い」
「それはそうだけど、、」
「マロン、僕につかまって」
マロンはユキとスネに急がされそのまま収縮の魔法を掛けられ辺境のマロンの部屋に転移した。そのままユキはオズワルドの執務室に向かいマロンの来訪を伝えた。ユキがオズワルドの執務室には時折来ていたので驚きはしていないが、「緊急事態だ。マロンが来てる。人払いしてくれればマロンを連れてくる」の言葉に声を失ったようだ。
どうにか再起動したオズワルドは執務室の事務官に休憩を与え部屋から追い出した。マロンはスネにより小さいままオズワルドの執務室の机の上に転移させられた。
「マ、マロンか?どうしてここに?なぜ小さい?・・・」
「ど、どうもすいません。突然こんなかたちで連絡するつもりはなかったのですが・・」
「今はそんなことはいいだろう。マロンは早く用件を伝えろ。イリの所に戻らないといけないだろう」
ユキの喝にマロンは色々諦めた。小人になったことも邸のことも落ち着いたら話すので緊急案件について説明すると宣言した。オズワルドは「緊急案件」と言う言葉で顔つきが変わった。マロンはコロン草でイリーシャを含め王女宮の侍女達に異変が現れていると伝えた。
「コロン草とは「マインドコロン」のことか?どうして今頃そんなものが使われたんだ」
「王女のお披露目の後からの様です」
「聖国か・・。ノーリア姫が出戻ったとは聞いていたが、、」
「出戻った?」
「ああ、素行が悪い上に懐妊できなくてな。体よく追いだされたようだ」
「もしかして、イリーシャを取り戻そうとして」
「いや、あれに母親の情などないはずだから・・」
オズワルドは騎士団長あての手紙をマロンに手渡した。王女のまもりをあつくすることの依頼だった。マロンがそのまま戻ろうとするとオズワルドは慌ててマロンを止めた。
「俺も転移できるのか?出来るならそのまま付いて行きたい」
「む、無理です」
「どうしてだ?」にやりとマロンを見るオズワルドにユキが体当たりをした。
「馬鹿なことを言うな。これは聖獣と契約したものしかできない。それにお前のような奴が勝手に転移してみろ、反逆行為とみなされるぞ」
「そ、そうか。そうだよな。簡単に転移出来たら王宮なんて忍び込むなど簡単だな」
「余計なこと考えるな。おまえもさっさと支度して王都に来い」
そうユキが叫ぶと同時にマロンは寮の部屋に転移していた。
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