表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/138

12 おばあ様の話 2

 公爵家の仕事は、2歳のお嬢様のお世話と行儀作法を教える侍女兼幼児の家庭教師だった。乳母はあと少しで公爵家を去る。両親と共に食事がとれるように、ご挨拶が出来るようにと、ゆったりとした時間が設けられていた。公爵様と夫人は愛情深くお嬢様を育てられていた。家族とはこういうものかと初めて知った。


 まだうまく話せないお嬢様は、「シャーシャー」とおばあ様を呼び、後を追いかけてくるほど懐いていた。おばあ様は自分が辛かったことは押し付けず、いずれは公爵令嬢として高位貴族として恥ずかしくないようにお世話をした。今思えば文官より自分に合った仕事だった。お嬢様の手が離れるころには弟様、妹様と引き続き仕事を続けることが出来た。


 実家からは最初は王宮をやめるなら家に戻れと手紙が来たが、そのうち手紙さえ来なくなった。仕送りは給料から天引きで送り続けていた。お子様が大きくなられたら、そのまま奥様付きの侍女として仕事をつづけ25年が過ぎた。お仕えした奥様が亡くなったことをきっかけに公爵家を辞することにした。


 実家の子爵家は弟が引継いた。妹は一度婚姻したが出戻っていると耳にした。ほとんど行き来のなかった実家に戻るよりかは、田舎でのんびりと余生を送るつもりだった。お仕えした奥様がおばあ様に領地の小さな家を残してくれていた。今の公爵様はおばあ様がお世話した子息だったので、退職金として結構のお金をもらい受けた。その中には25年実家に仕送りしていたお金も含まれていた。


「いつまで娘にたかって暮らすつもりか」と奥様が仕送りを貯めていてくれた。さすがに父や弟は、公爵家に催促できなかったようだ。両親も領地の田舎に戻りそちらで亡くなった。実家と縁を切り余生を過ごすために、おばあ様は教会に寄った。その際に孤児院の門の前に捨てられたマロンを見つけた。


「魔力がないからと双子の一人を捨てるか?」


「それでも寄付でよい暮らしは出来るだろう」


「それって、必要なら引き取るということか?」


「駒は多い方がいいということだ。貴族は恐ろしいな」


 おばあ様は夢中になって、マロンを抱きかかえ馬車に乗った。それからは無我夢中だった。宿屋でヤギの乳をお願いしたりおむつの手配をした。ほとんどは心配した宿の女将さんが采配してくれた。やっと王都の北に位置する公爵家の領地の小さな街にたどり着いた。こじんまりとした庭と部屋が三つほどある平屋の家が待っていた。住むに困らないようお隣のカリンさんが色々世話を焼いてくれた。


 マロンは本当に良い子で夜泣きもせず大きな病気もしなかった。家事炊事はカリンさんに教わったがおばあ様は上手くできず、そのままカリンさんを半日雇うことにした。マロンはおばあ様の基礎教育を施せば嫌がりもせずどんどん身に着けていった。おばあ様はそれがとても楽しくてならなかった。身に着けた刺繍技術も街で生かされるようになり、今までと違った生きがいを得た。


 ユキは「マロンの茶色の瞳には星が瞬いている。すごく綺麗だわ。どんな女性になるのかしら?楽しみだわ。それを見れないのは寂しいけど、とても幸せな人生だった」とおばあ様の言葉を伝えてくれた。おばあ様が焦がした鍋、ナイフで指を切ったこともあった。まねのできない刺繍に美味しいお茶、思い返すほどに涙があふれた。


「お茶はね。ポットを温め、適量の茶葉にポットのために少し余分に入れて、茶葉の種類によって、お湯の温度と蒸らす時間が大切なの。注ぐカップは必ず温めるのよ」


 マロンには茶葉の種類なんてよくわからない。砂時計が落ちるまで蒸らしてお茶を注げば、飲むことが出来るが、おばあ様のいれたものとは違う。それでもおばあ様は「美味しいわ」と言ってくれていた。それにおばあ様から教わることは本当に面白い。遠いい国の言葉だったり、国の歴史など聞いているだけでワクワクした。


「マロン、そこの棚の引き出しを開けて緑色の筆記帳を取り出してみて」


 綺麗に整頓された棚の中に筆記帳はすぐに分かった。パラパラとめくるとそこにはお料理のレシピが書かれていた。


「ユキ、お婆さま台所仕事苦手だったよね。お料理のレシピが書かいてある」


「それはね。おばあ様のもう一つの記憶。おばあ様は実家からの呪縛から解き放たれたのは、その記憶を思い出したからだと言っていた。マロンに役に立つか分からないけど、だいぶ薄れた記憶だけど、思い返して書き綴ったと言っていた」


 食べたことのないお菓子が絵付きで書いてあった。おばあ様は刺繍も上手いけど絵も上手かった。


「マロン、いつかその中のお菓子を作って。おばあ様は知識があっても技術がなかったから再現できなかった」


「そうだね。色々書いてあるわ。病気の予防なんて項目もある。刺繍の種類も見たことがないものがある。これらは魔力がなくても出来る事らしい。落ち着いたらしっかり読むわね」


「半年以上かけて思い出しながら書いていたから、読み応えあるな」


 マロンとユキは時が過ぎるのを忘れ、おばあ様のことを語り合った。ユキがいることでおばあ様が淋しくないようにと思っていたが、今はユキがいることでマロンは勇気づけられた。朝方おばあ様のソファーでユキとマロンはうたた寝をした。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おばあさまは転生者だったのか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ