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117 マロンのファーストダンス

 デビュタントの会場に全ての招待客が入場した。あれほど広い会場が今は狭く感じる。イリーシャを見つけた薔薇の庭は会場の灯りで鮮やかに輝いていた。


最後に王族の入場となる。皆が頭を下げて陛下の入場を待つ。静々と広間の真ん中を歩む王家の人達が舞台に並ぶと一斉に右手を胸に置き王家に忠誠を誓う。招待客が頭をあげると王妃をエスコートしていた陛下は片腕に可愛い女の子を抱いていた。

デビュタントの開会宣言ののち、国王から祝福の言葉が発せられた。


「この良き日を無事に迎えられたこと嬉しく思う。我が息子レイモンドはオルリール公爵家のアルファリア嬢と婚約を交わし臣下降籍することになった。まだ若輩者だが貴族の一員として迎え入れて欲しい。そして私の腕にいるのは第一王女、イリーシャだ。体が弱く離宮で静養をしていたが無事快復した」


イリーシャは国王の腕から床に降りた。王妃に助けられながらも可愛いピンクのドレスの裾を摘まみ挨拶をした。レイモンドと並ぶことで髪の色や瞳からイリーシャを誰もが王女として迎え入れた。王妃はイリーシャを膝の上に乗せ、国王と共に招待客の挨拶を受けた。高位貴族から国王に挨拶に向かう。


中位から下位貴族は国王と面と向かって挨拶をするのはこれが最初で最後になることが殆どだ。マロンはイリーシャのことで両陛下の顔を見たことはあったが話したことはない。養父セバスは何の緊張もなく国王の前に進んだ。


「マロンさんデビュタントおめでとう。ガバネストから聞いておる。そちの転移の魔法陣は凄いのう。ガバネストが嫁に欲しいと言っていたぞ。その豊かな知識と発想でこの国をこれからも支えて欲しい」


国王の言葉にセバスがマロンの顔を見た。マロンは商業ギルドのガバネストに転移の魔法陣を売ったことを伝えてなかった。マロンは「あとでね」とセバスに無言で伝えた。


「あーマロンだ。今日は綺麗なドレスを着てる」

「本当ね。とても綺麗だわね」


幼子の高い声は良く響く。イリーシャの一声で招待客の視線がイリーシャに向かう。その後声を掛けられたマロンに視線が移る。


「イリーシャ、大きな声を出してはダメよ。マロンが驚くでしょ。後日お部屋に来てもらいましょうね」


王妃の言葉はマロンの助けにならなかった。男爵令嬢が王女と顔見知りで王妃の覚えが良い。ざわめきが広がる。イリーシャは可愛い手をひらひら振ってよこした。マロンは開き直ることにした。


「フライは元気にしていますか?」

「うん、はい、とても元気です」

「房飾りは喜んでいただけましたか?」


マロンの声にイリーシャは振り返り王妃の顔を見た。微笑む顔を確認してイリーシャは大きく頷いた。マロンはそのまま後ろに下がり次の方に場所を譲った。セバスとマロンはそのまま壁際に戻った。


「マロン、王都で何してるんだ。国王からおめでとう以外の言葉を貰う事などないぞ。それに「嫁」とは何だ。聞いていないぞ」


父の慌てた様子にマロンはどう言い訳するべきか考えこんでしまったが、黙っているわけにもいかない。


「そんな事言ったって、義父に渡した転移の布の権利を商業ギルド長に売ったの」

「あれか、あれは便利だが増産できないんだろう?」

「そうよ。ギルド長はああいった物の研究が好きなんですって。売ってくれと言われたから。そうじゃないと息子の嫁に来て研究しようと言われたの」

「あああ、それなら売るな。もう、辺境に帰ってこい」

「今帰ったら卒業できないから」

「余計な事しないで静かにしておけ。ところで回復ポーションに随分助けられているが、マロン以外でも作れるか?」


義父はあくまでマイペースだった。確かにポーションは回復師に声を掛けるより手軽だから便利だと思う。


「錬金薬を学んだ者なら出来ると思う。それ以外に辺境の薬師でも効果が少し落ちるけど作れるはず。薬師ギルドに相談してみたらどうかな。薬草持ち込みなら経費も安く済むと思う。私もポーションばかりは作れなくなるから」

「どうしてだ?」

「来年は最終学年ですから」

「ああ、そうか。就職先も考えないとな・・それより結婚か?いやまだ早い」

「早くないわよ。貴方は父親としてマロンの幸せを考えなさい。ポーションは辺境で作ればよいのよ」

「マーガレット・・」


義両親はマロンの事を置き去りにして話し始めてしまった。マロンは静かに義両親から離れた。そこにハリスが現れた。


「大変そうだな。俺と踊らないか?周りを見ろ。マロンに話しかけようと機会を待ってる。上手い具合いに逃げ出せるぞ」

「よろしくお願いします」


ハリスに手を引かれ多くの人が踊っている広間の中央にマロンは手を引かれダンスを始めた。国王から話しかけられ王女に名前を呼ばれ、さらに義父からの問い詰めるという苦難にマロンは冷静さを忘れ混乱した。ファーストダンスは婚約者か家族と聞かされていたがマロンの頭から消えていた。


「落ち着いたか?マロンは肝が据わっているのに珍しいな」

「学園内のことなら・・国王様ですよ。ガバネストさんは何を話したのでしょう?」

「俺でも直接話しかけられたのは数回しかない。仕方ないな」

「どうしたらいいかしら・・」

「まあ、このまま踊っていれば誰も声を掛けないよ。それにセバスさんが持ち直せばそこら辺の貴族など蹴散らせてくれる」

「それも困るけど・・」


マロンはハリスとダンスをしながら徐々に落ち着きを取り戻した。そのままマロンはハリスのリードで話しながらも優雅にダンスを続けた。


「ハリスさんはダンスが得意なんですね」

「おお、そうか?騎士は体を鍛えているから多少女性がぶれてもしっかり支えられるからだな」

「今日はここに居てくれて良かった」

「マロンのドレスは素敵だな。前の赤いドレスも良く似合っていた。でも赤いドレスはロバートさんからか?マロンは選ばない色だろ?」


マロンはハリスにスネやジルと共にジルの主だったライさんの屋敷に行った話を搔い摘んで話した。ハリスはジルやスネの事を知っているので話しやすかった。リリーの話をした時点でハリスさえ目を見開いた。


「マロンはライさんに仕えていたリリーさんにいろいろ託されたんだ」

「そうなるのかな?リリーさんはライさんが生まれ変わるのを待ちわびていた。そして1000年以上自分の消滅さえいとわず屋敷を守りぬいていたの。無碍には出来なかった」


「マロンらしいね。いいんじゃないかな。そのリリーさんから託された物を大切にマロンが使えばいい。もしかしたらリリーさんはマロンの近くに現れるかもしれないな」

「ううん、私の近くというよりジルやスネに会いに来るかもしれない」


「俺達には分からないが長い時を生きる精霊や妖精、ジルやスネは違う時を生きているんだ。俺たちは俺たちの時を大切にすればいい。そこにジルやスネが参加するのは構わないさ。辺境領で楽しく暮らしてくれればよい」


マロンはスネが辺境領から転移してきていることを話した。「俺の所にも来ないかな。マロンのお菓子をおすそ分けしてほしいな」ハリスの話に二人で顔を見合わせ笑ってしまった。


 マロンとハリスが数曲笑顔でダンスを続けていたことで周りはざわざわしていた。両陛下に覚えめでたいマロンと縁を結ぼうと待ち構えていた人や、話を聞きたい同級生たちはマロンは辺境伯家のハリスの婚約者と勝手に誤解をした。次期辺境伯に釣書を送っていた家は男爵令嬢であっても国王に声かけられた令嬢、さらに現辺境伯オズワルドがハリスの婚約者として受け入れていると深読みしていた。


お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)

次回更新を6月9日になります。

酷暑です。熱中症対策を怠りなきように。


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