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102 新しいレシピ

「マロン、あれはいいもんだな。髪はギシギシしない上に艶艶サラサラだ。母に少し貰ったが俺用が欲しい。エリザベスに言うべきか、マロンに言うべきかどっちだ?」


「マロンかな・・?」

「エリザベスさん」

「わたしは作れないもの・・仕方ないわ。王族だもの」

「何々、髪が艶々サラサラってどういうこと?」


レイモンドが女子生徒に向かって自慢の金の髪をふわりと撫でた。元々王族だから侍女により髪のお手入れは十分にされているんだから大きな変化がないと思っていたマロンはレイモンドの言葉を軽く考えていた。


「ちょっと、レイモンドさん、いつもと艶が違うわね。あら、手触りが良いわ。香油付けていない?」

「良く分かったな。香油付けなくても髪がきしまないんだ。俺なんて初回でこれだぞ。母なんて公務以外は髪を触るのも面倒なのに今はサラサラ髪を楽しんでいる。「まるで十代の頃みたいだと」大袈裟なことを言っていた。まあ十代は無理があるな」


「レイモンドさん、女性は髪を結いあげたり形を作るために香油や髪用の蝋で固めたりするのよ。凄く傷むんだから良い物があるなら誰だって知りたい物よ。婚約者様だって、教えてくれるわよね」

「俺だってやっと分けてもらったんだ」

「あら、婚約者に渡さず自分が使ったの?可哀そうなアルファリアさん」

「アルファリアの分は必ず確保するから、まずは俺の髪で試しただけだ」


レイモンドの情けない言い訳にクラス中が笑いで包まれた。マロンはきっとこうなると思っていたからこそグランド商会を巻き込んだ。とてもマロン一人で対応は出来ない。レイモンドのせいで王族以外の貴族家からの需要も高まる。今晩ロバートさんに急ぐよう伝えなければならない。間に合わなければしばらく生産に参加するしかない。


「マロン、どうするの?」

「グランド商会のロバートさんにレシピ渡して工房を立ち上げてもらうようお願いしたの。それでも間に合わなければしばらく生産に参加しないとならないかも」

「学業は大丈夫?」

「まあ、錬金科をさぼればどうにかですね」

「・・・・・」


マロンはグランド商会で近く販売になると説明した。「前からマロンさんもエリザベスさんも綺麗な髪をしていると思っていたわ。理由があったのね」「母におねだりしよう」「好きな香りがあるといいわ」マロンは女子生徒の美容に対する意欲は凄いことを初めて知った。


「エリザベス、匂いなんて必要?どうせ香水振りかけるんだから要らないよね」

「マロン、いつも香水を使うわけではないわ。自然にわずかに髪から好きな香りがするなんて素敵よ。それが彼の好きな香りならもう特別」

「ああ、恋する乙女はそうなるのね。まだ個人希望なんて聞ける段階じゃないもの」

「頑張れ・・」


マロンは「髪艶々洗髪剤」をどこで作るかだ。街の工房に出向くのにも限界がある。寮の部屋なら空いた時間にササッと戻ることもできるし薬草箪笥もすぐ取り出せる。あっ、匂いがあった。プーランク先生に頼んで放課後2時間ほど部屋を借りるしかないか・・。


『マロンなら部屋の拡張できるんじゃない』

「部屋の拡張?二部屋借りるのは無理だから」

『そうじゃない。部屋を空間魔法で拡張することだ』

「出来ないわよ」

「収納魔法ができるなら出来るはずだ。夜試してみよう」

「・・・・」


ユキは時々良きアドバイスをくれるが突飛な発言にはどう受け止めて良いか悩む。「転写」「複製」もそうだった。本来の生活魔法の領域を超える事ばかりだ。マロンは属性魔法のスキル持ちでないのにではないのに同じことが出来てしまうことが不思議でならない。初級なら全属性魔法が行使できる。


夕方部屋に戻りユキの話を聞きながら「もう一部屋欲しい」と念じる。ごそっと体から魔力が持っていかれた。ふらつきながらテーブルに捕まり目を開けると寝室の奥に新しくドアがついていた。


恐る恐るドアを開けるとそこには寝室より広い空間が出来上がっていた部屋と同じの木の床に白い壁紙、他は何もない。思わずユキの方を見た。「出来ただろう」と得意げに綿毛が揺れる。


「もっと広ければリリーから貰った家が置けるのにな」

「それは無理。今でさえ少し眩暈がする」

「ああ、無理させたか。とりあえず今日は眠れ。朝には魔力は回復している」


ユキの声を遠くに聞きながらマロンは寝台に倒れ込んだ。新しい部屋が増えた喜びや新しい魔法が使えた驚きを感じる間がなくマロンは眠りについた。


「無理はさせたが、魔力は増えるからいいだろう」ユキは独り言を言いつつごろりと向きを変え自分も寝ついた。


 マロンは翌朝早くにお腹が空いて目が覚めた。マロンは制服のまま寝台に寝ていたようだ。制服は皴皴になるし髪はぼさぼさだった。生活魔法の「クリーン」を重ねかけした。騎士科の早朝訓練にも対応している寮の食堂にマロンは向かった。


 食堂は騎士科の生徒が食事が終わり出払った後のようでひと時の静寂に包まれていた。焼いたパンとハムと目玉焼き、野菜サラダにミルク、定番であってもいつもよりじっくり味わって食べる。周りに人がいないのを確認してバターとベリーのジャムを取り出しパンに塗って頬張れば少し硬いパンも十分美味しい。


野菜サラダは定番の塩をやめてリリーの作ってくれた「卵ダレ」を掛けて食べた。この「卵ダレ」は魔法の調味料だ。おばあ様の筆記帳にも書かれていた。稀人ならだれでも大好きな物らしい。マロンはゆっくり食事をしながら新しくできた部屋を工房に作り替えることを考えていた。


「あの・・おはようございます。つかぬことを聞きますがその野菜サラダにかけた黄色いものは何ですか?」

「えっ、お、おはようございます」

「それを試食しても良いですか?」

「えっ、食べかけですが」

「見たことないので、それにあなたはとても美味しそうに食べていましたから、ぜひお願いします」


マロンの承諾を貰ったとばかりに食堂のおばさんがフォークでお皿に野菜と「卵ダレ」をとりわけマロンの向かいに腰かけ食べ始めた。


「美味しいわね。これは貴女のアイデアかしら?それとも実家かしら?あなた寮生よね。もしかして部屋で作った?作り方知ってるなら教えてくれない。今の若い子は野菜嫌いが多いいのよ。野菜を取らなければお肌は荒れるし便秘になるのに困っちゃうわ・・・・」


マロンの野菜サラダをバクバクと食べながら食堂のおばさんは日頃の不満を口にしていった。最後には食器や椅子、テーブルを大事にしないことまでマロンに告げてきた。


「ザーリン、何怠けてるの。もうすぐ忙しい時間になるわよ」

「丁度良いとこに来た。リンドレも食べてみてよ」

「何を?」

「この黄色いのが付いた野菜凄く美味しいの。あれ?こんなに少なくなってる・・ワァーー、ごめんなさい。リンドレこれ食べて、貴方の野菜サラダを持ってくるわね」


ザーリンと呼ばれたおばさんは小走りで厨房に向かった。残されたマロンとリンドレは向かい合ってしまった。


「騒がしい人でごめんね。悪い人でないけど料理好きだからちょっとね・・あれ?あなた前に食堂でお茶会した子じゃない。お菓子は手作りと言っていたわよね。とても美味しそうだったったしお湯沸かしポットは魔道具なの?どこで売っているの・・」


リンドレとザーリンはなかなか濃い人だ。マロンは学園があるのでまた時間があるときにと断わりを入れ急いで部屋に戻った。余裕があったはずの朝の時間は遅刻ギリギリだった。マロンは学園に下肢に身体強化を掛けて走って向かった。


午前の文科の講義で商業ギルドの役割とレシピ管理についての講義をマロンは受けた。発明者の権利と商品の安全を守るためのレシピ管理。マロンが作った「ぷ・り・ん」「黄金パン」「陣取り」「木札遊戯」などが既に登録されている。


またレシピを利用する者が一定の値段で使用権を購入する仕組みになっている。個人の値段と商売で使う値段が違うらしい。黙って真似た物を作って商売をすると「神罰」が下るらしい。「商業の女神の加護」から外れ、商売が上手くいかなくなるということらしい。女神信仰は特別のことではない。ただ商売に関しては「神罰」があることからさらに厳格に信仰されている。


「きみたちも何か新しい物を作って商業ギルドに登録すれば一生安泰かもしれないぞ」

「先生、本当ですか?自分で考えたと思っても実は以前に登録されていた場合は「神罰」は落ちませんか」

「悪意がなければ「神罰」は落ちない。こればかしは商業ギルドの「宝玉」に確認だな」

「宝玉?」

「書いたレシピを女神の水晶玉に照らすと燃えたものは以前登録があり、燃えぬものは登録可となる」

「先生はありますか?」

「残念だがないな。だからここで君たちに講義をしているんだろう」


教室中が笑いに包まれた。レシピ登録すれば15年はレシピ使用料を受け取ることが出来る。


「なんか一発逆転できるアイデアはないのか?」

「あるわけないだろう。先人が出し尽くしているはずだ」

「あ、あーー希望を失くすな。最近でもレシピはどんどん登録されている」

「どんなものがあるのですか?」

「詳しくは言えないが魔道具、料理、遊具、錬金薬などある。興味ある者は有料だが閲覧できる」


文科の堅苦しい講義の中で一番盛り上がった時だった。

お読み頂きありがとうございます。

読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、よろしくお願いいたします!

誤字脱字報告感謝です (^o^)


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