101 国宝級の錬金釜?
マロンはすべての錬金科の講義に出ることは出来ない。あくまでステップの空いた時間だけだ。そのため飛ばした講義はカーナリーとクロールがお茶会と言う名目でお菓子と引き換えにノートを見せてくれる。
さすがに錬金科の講義が4か月目になると錬金釜の準備を言い渡されていた。中古の錬金釜はお金がかかるが以前の馴染んだ魔力を抜いてもらうことを勧められた。初心者では馴染まない魔力に振り回され錬金術が上手くいかない。火属性の魔力は水属性や木属性、土属性とは相性が悪いからだ。
「マロンは錬金釜を持っていると言ったが今度持ってきなさい」
「わたし、容量は小さいけど収納持ちなので今持っています」
「分かった。錬金釜だが新規で購入したもの以外は一度俺に見せて欲しい。相性が悪いと爆発するからな。備品の破損に関しては自腹で修理だぞ」
「「「えーーー」」」
「当たり前だ。不可抗力なら仕方ないが事前準備不足は個人の責任だ。早く持って来いよ。点検するのは俺なんだから。ギリギリだと講義に間に合わないぞ」
クラスの半数近くは錬金釜を新規で購入している。残りの半数は身内や知人から譲り受けている。魔力の相性等はすでに確認済み。そしてマロンを含む5人ほどが中古品ということになる。
マロンは放課後錬金科の教室でプーランク先生に錬金釜を確認してもらうことになった。収納から机の上に錬金釜を出せば先生は珍し気に錬金釜を見つめた。
「これは・・また随分と凄いものを持ち込んだな。保存状態が良いから古さを見せないが、これだけの釜は見たことがない。どういうことだ?」
マロンはどう告げるべきか悩んだ。
『マロン、味方は多い方がいい。こいつは悪い奴じゃない。錬金馬鹿だからこの釜を見て喜んでいるんだ。上手く使えば後が楽だぞ』
ユキの助言を信じることにしたが、マロンはユキの綿毛の中に顔がないのに悪人顔が浮かぶ。
「先生、この錬金釜は知り合いから譲り受けた収納袋に入っていたものです。時期停止機能付きなので劣化することもなかったようです。知り合いも自分が使わないのでわたしに譲ってくれました。その袋の中には薬草箪笥や調剤に必要な備品もそっくり入っていました」
「ほおーー、薬草箪笥は今見せれるか?」
「収納するには大きいのでここにはありません」
「ああ、残念だ。凄く澄んだ魔力だな・・魔力を抜く必要はないだろう。待てよ。マロン、錬金釜使ったか?」
「・・はい」
「やっぱりな。複数人の魔力を感じるが皆澄んだ綺麗な魔力だ。一番新しいのがマロンか?俺がもらい受けたいが俺の魔力との相性は悪いな。俺だけじゃないこの釜はマロンしか使えないかもしれないな」
「わたしだけですか?」
「そうだ。見ていろ」
プーランク先生は 錬金釜に自分の魔力を流した。その瞬間錬金釜の底から「ボン」と言う音と共に灰色の煙を出した。
「この錬金釜は魔力認証されている。なぜかわ分からないがその魔力にマロンの魔力がぴったり当てはまっているということだ。凄いことだ。この錬金釜は魔鉱に魔鉄、魔銀・・他は分からないが微細金属が多数含まれてる。遥か昔の物だ。とうに朽ち果て消失していてもおかしくない」
プーランク先生は錬金釜を鑑定器にかけたが細かいことまでは分からなかったようだ。いつものいい加減な様子はどこかに投げやり研究者と言うよりマニアックな視線が怖い。
「残念だ。自分の濁った魔力ではこれを使いこなすことは出来ない。道具は使ってこそ生かされる。遥かな時を飛び越えマロンの手で錬金釜は命を繋げた」
『この大人は大丈夫か?』
「さっきユキが大丈夫と言ったじゃない」
『言った。確かに言ったが、あれはないだろう。「遥かな時を飛び越えマロンの手で錬金釜は命を繋げた」詩人か?』
「とりあえず、わたしだけしか使えないということで良いんではないかな?」
『まあな。さすがに国宝級の錬金釜と言われても誰も欲しがらないからな』
プーランク先生は錬金釜をしばらく眺めたあと急にマロンの方に向いた。
「マロン、おまえは錬金薬の手ほどきを受けているな。何が作れる?」
「ええと、薬草の種類や鑑別方法と傷薬や初級のポーション、解毒薬ぐらいです」
「師匠の名前は・・言えないよな。分かってる。もう聞かない。うんうん、分かってる」
『なんか勝手に納得してるからそのままにして置け。放置が一番だ』
「マロン、5学年の錬金薬学に進むか?」
「いえ、文科の方が専門科目なので無理に進めるつもりはありません。卒業までに錬金薬師の資格が取れればいいと思っています」
「う・・・惜しい。惜しすぎる。おまえが男なら無理しても転科させるのだがそうもいかないか・・」
興奮したプーランク先生が落ち着くまでマロンは待つしかなかった。
「すまん。つい興奮してしまったが仕方がないことなんだ。大事にしろ。後は盗まれるな。これからマロンが錬金すれば今のクラスの中ではずば抜けた成績を出す。仕方がないことだ。だが、良く分からないものは錬金釜のせいだと思う輩もいよう。気を付けるに越したことはない。これを無駄に破壊されるのを見たくはない」
マロンは錬金科の教室から寮に戻った。思いのほかプーランク先生の熱い熱量に充てられたようだ。明日は休講日なので久しぶりに街に出てグランド商会に出向くことになっていた。何か手土産と思い寝る前に会長のロバートは本店の奥で仕事をしていた。
「久しぶりだな。学園は上手くいっているか?」
「元気でやっています。文科で経済の勉強をしています」
「文官になるのか?」
「まだ分かりませんが王都には残らないと思います」
「辺境に戻るのか?セバス殿は自由にして良いと言っていたと思うが」
「はい、義両親はとても良くしてくれています。辺境で薬草を育てながら錬金で商品を作って販売しようかと思っています」
「昔と違って辺境は賑わってきているからな。俺にはちと遠すぎる」
マロンはロバートにハンカチ大の小さな転移陣を作ったことを話した。これも古代語から作られた物だ。ロバートは目を大きく見開き一枚のハンカチを手に取り目の上でかざしたり裏表を眺めた。
「何も・・何も書かれていない。どうやって使うんだ」
マロンはもう一枚のハンカチを出して両方にお互いの魔力を流す。その後、マロンはハンカチの上に机の上の文鎮を乗せて、再度魔力を流すとロバートの手前のハンカチの上に文鎮が移動していた。
「うっ、これは?」
「これはわたしとロバートさんだけの試作品の転移陣です。大きなものや重すぎるものは送れないと思います。距離は遠くなければ大丈夫です。今度辺境に行ったら確かめますね。今は寮から送ることが出来ます」
「これは商品化はしないのか?」
「しません。古代語をもとにして作りましたから大量に作ることが出来ないのです」
「古代語は読み解くのも書き写すのも難しいからな。マロンは書き写せたのか?」
「ほんの一部の魔法陣だけです。それに、性能や機能の評価はマロン基準ですから極身内の方にしか渡すつもりはありません」
「そうか・・きっと商業ギルドか国に取り上げられるな。ハンカチならポケットにも仕舞えるし何処にも持ち運べる。便利だな」
「魔力認証しましたからロバートさんしか送れませんし、ロバートさんの魔力が消えればただのハンカチにすぎません」
「魔法陣を調べることは出来ないのか?」
「できません。私が魔力を流すと魔法陣は布に溶けて消えてしまいます」
「ある意味凄いな。手紙や水や食料を送ることもできるなら冒険者や書類関係の職場は欲しがる」
「戦争に使われたくない」
「ああ、マロンの言いたいことは分った。このことは秘密にしておこう。俺はマロンが珍しい物を作るのを見るのが楽しいんだ。金儲けにする気はないよ」
そこでマロンは辺境で使っていた「髪艶々洗髪剤」を取り出し、レシピと共に増産をロバートに依頼した。辺境に王女が来たこと、「髪艶々洗髪剤」を大層気に入りお土産に持たせたこと、必ず購入希望があるからグランド商会で工房を立ち上げ量産してほしいとお願いした。
「マロン、商会を起せばよいのに」
「わたしそんな暇も時間も人脈もないです。王宮で使う分だけでも結構の量になります」
「良いのか?」
「ロバートさんほど信頼できる人はいません」
「そう言われるとやるしかないな。それでこの魔法陣か。試作品を送って確認してもらえるな」
「そればかりでなく今、錬金薬の勉強しています。出来たら商品を売りたいのです」
「ああ、しっかり確認して商品として良い物ならいくらでも引き受ける」
マロンはロバートにいろいろお願いしてグランド商会を後にした。その日の夜ロバートから「髪艶々洗髪剤」はぜひ売り出すべきだと手紙が届いた。
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