10 おばあ様が残してくれた物
翌日、近所の人とカリンさん、ロバートさん、教会の司祭さんが家に来てくれた。葬儀を済ませおばあ様の希望だった家の裏の丘に安らかに眠ることになった。ロバートさんが裏の丘はおばあさんの私有地だと言っていた。パン屋さんの女将さんも顔を出してくれた。おばあ様の刺繍を取り扱ってくれたお店の方も顔を出してくれた。
おばあ様はあまり外には出向かなかったが、こんなに思われていたことがマロンは嬉しかった。おばあ様がいなくなった家の中は狭い家なのに広く思えた。最後にロバートさんが残ってくれた。
「マロンさん、まだ心は穏やかではないだろうが、私はシャーリーンさんから頼まれた最後の仕事をしなければならない。君も分かっていると思うが、シャーリーンは貴族の令嬢だった」
「裏の丘に埋葬してよかった?」
「ええ、大丈夫だ。少し前に実家から離籍してシャーリーンさんは平民になった。そしてマロンさんと養子縁組をしている」
「養子縁組?本当のおばあ様になったの?」
ロバートさんの話では、このままおばあ様が死んでしまうと、すべての財産を付き合いのない実家に奪われてしまうのは、おばあ様にはどうしても許せなかった。マロンに出会え生きる楽しさを貰ったからこそ、マロンにすべてを託したかったと、秋にロバートさんが来た時相談した。ロバートさんに王都で数々の手続きを代行してもらった。
すべての手続きが済んだことで、おばあ様は安心した様子だったと言われた。マロンに残されたのはこの家と裏の丘、以前おばあ様が購入した茶色のポシェットの魔法鞄とマロン名義の商業ギルドカードだった。
おばあ様は、マロンの「生活魔法」について、ロバートさんに相談したようだが、ロバートさんは魔法教育は受けていないので、助言は出来ないが、「初級魔法教本」を各属性分用意してくれていた。役に立つか分からないが、「水球」は生活魔法では出せないと言われた。時間はあるので教本を読んでみようと思った。
「マロンさんは、魔法カバンに個人登録をしてあるかい?」
「個人登録?」
おばあ様の魔法鞄はおばあ様がロバートさんに頼んで中古でよいので容量の多い物を頼んだ。おばあ様の予算の都合もあり2・3年かかって見つけてくれた。王都に行けば売られているが、マロンの街は王都のはずれの上に冒険者が少ないので、魔法鞄の需要が低い。それに元々の値段が高い。子供に持たせたら新品など盗まれるは必然。使用感のある方が魔法鞄と分からないとお願いしたようだ。
容量も小さい荷馬車ぐらいと言われたようだがかえって、小さすぎて余計見つからなかったとロバートさんは言っていた。結果、お婆さんの希望に沿った中古の魔法鞄は容量だけは大きい物になってしまった。「大は小を兼ねる」とロバートさんは容量は秘密にしていた。使用時に魔石から魔力を取り込むように工夫もされていた。
先日おばあ様から、マロンは魔法鞄をもらい受けた。「おばあ様が残せるものは少ないわ。貴方が大きくなるまでは見届けてあげられない。この鞄には私の本が沢山入っているわ。時間見て本を読んで勉強するのを忘れないで。「知識は貴女の武器になるのよ」と言われたばかりだ。
「それにもし良ければマロンさん、私と一緒に王都に出ませんか?仕事が決まっていないのなら王都の庶民の学校に通ってみるのも良い経験になります。それからでも仕事は見つけることが出来ます。王都の店で働いてもらっても良いですよ。シャーリーンさんは貴女に広い世界を見せてあげたいと言っていました」
「ここを離れるのは寂しい」
「急ぎませんよ。考えてみてください」
そう言ってロバートさんは店に戻っていった。一人ぼっちになったマロンはおばあ様のソファーに腰かけ夕日で赤く染まる空を窓越しに眺めていた。
「マロン、お婆さんは幸せだったと言っていたよ」
「えっ、誰?」
少し高い子供のような声がマロンの耳元に聞こえてきた。窓際にいたユキがふわりと浮かびながらマロンの頭の上に乗った。
「ユキだよ。やっと魔力が戻ってきたから、マロンと話すことが出来た」
「ユキは本物の「ケサランパサラン」?」
「そうだよ。マロンに出会った時はもう魔力切れで死にそうだったんだ。マロンから魔力が漏れていたからつい飛びついちゃったんだ。そしたら、ここはとても心地い。ゆっくり魔力を補充出来た」
「そんなに魔力漏れていたの?」
「そうだよ。シャーリーンは魔力がもともと少ないから漏れることはないけど、マロンは魔力を抑える方法を知らないから、駄々洩れだね」
「そんなこと知らないもの」
「ユキが教えてあげる。マロンに助けられたユキだから。それにシャーリーンからマロンに沢山の伝言がある。シャーリーンはマロンの買ってくれたソファーで、ユキに向かって色々話してくれた。きっとひとり言なんだと思うけどね。マロンが知っておいた方がきっと良いと思う」
マロンは「ユキ」が話しかけてくれたことを不思議に思うも怖いとは思わなかった。毎晩枕もとでマロンと過ごし、昼はおばあ様の相手をしてくれた家族の様なものだから。今夜はおばあ様のソファーでユキとマロンでお茶とお菓子を共に、ゆっくりおばあ様の話をすることにした。
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