闇より恐いものはないのだから
◆夜來る
アクシアとフレッド、ふたりのイレギュラーを連れてホーガン号は終わりのない夜の中を突き進んでいた。
なお、私ラマンドラ・アシュグレイ宙佐と人格型コンピュータHAL9はレギュラーメンバーである。
「多分あるだろうな、だが西瓜など、何をするんだ?」
フレッドの問いへ、私は過不足無くこたえる。「西瓜でコミュニケーションを少々」
「無駄使いはするなよ」
フレッドは天使、あるいは悪魔のような笑みを浮かべる。
「あと、固い棒」
「ステッキアクションの演技用にあるだろう。だなHAL9?」
「はい…模擬用の耐衝撃セラミック製のものが五ダースあります。収蔵場所は__」
「ありがとう、じゃあ、全部集めたら、アクシア にも声をかけるか」
__一時間後
暖房を故意に効かせた会議室で、アクシアを加えた、三人は一個の西瓜を前に、それぞれセラミックスタッフを手にしていた。
「何をするんだ」
嫌な予感しかしないが、私はフレッドに問うた。
「はいはい、棒を持って、この目隠しをして、その場で三回転します。
そこから声とかテレパシーとかで西瓜の前に誘導して、棒を振り下ろします。
西瓜を粉砕できれば拍手喝采。
割れたスイカをみんなで食べましょう。
失敗したら次の人に。
割る順番はサイコロ振って決めましょうか」
「しかし、フレッド、お前、気遣い痛み入るな、例を言おう」
レクリエーション用の一抱えあるさいころをふり、栄えある一番手はアクシアとなった。
ルールはフレッドがテレパシーでレクチュアしたらしく、目隠しをしても、彼女は騒がない。
その場で自分から三回転する。
「アクシア 、ちょい左! 少し右に戻して。よし、そのまま前進だ!」
しかし、興奮が覚めて、気づいてしまった。アクシア は言葉がわからず、フレッドのテレパシーによる誘導しか、意味がないのではないか、と。
「大丈夫アクシア、左に一歩だ、そこ!」
フレッドの声が私の右耳から左耳に虚しく駆け抜けていった。
その一方、アクシアはスティックを振り下ろす。
小さな手から放たれた一撃は、見事にスイカの正中線を捉えて、粉砕した。
飛び散った赤い果肉と果汁が、一堂に降り注ぐ。
その時、アクシアの歓喜の想いが私の脳に飛び込んできた。
アクシア? なぜ、この初体験でアクシア のものと分かったのだ?
__やっと、認める気になったんだね。
受動テレパスさん。
フレッドの想いが伝わってくる。
この狭いコミュニティでもテレパスであることを否定するなんて、なんとまあ強情なんだろう。
元気元気!
アクシアの初めての会話はこれだった。
だが、それでも私は、アクシアとフレッド、ふたりの超能力者に対し主張する。
私は子どもという、生きものが大っ嫌いなんだ。