だからカサンドラは嫌われる
◆終わらない熱帯夜
現在、ホーガン号居住区の生命維持機構にトラブルあり、気温は三十三度、湿度八十パーセント。
有体に言って蒸し風呂だ。
私、ラマンドラ・アシュグレイ宙佐は、マニュアル通りのハードウェア修理を行った。
迷路の如き、回線、基盤を辿り物理リセットに成功したのだ。
残るソフトウェア修復といった面を人格型コンピュータのHAL9に委ねている。
そんな現状を、歯痒く思っているところであった。
いかにして、修復までの時間を消化するか…。今晩はサファリルックですごすとしよう。
アクシアは水を張った、ビニールプールの中でのびてしまっている。
水着を着るよう、誘導が上手くいかない。
シャワーを浴びるように、という躾はうまくいったのだが。
なので、アクシアはTシャツにハーフパンツのいつもの出立ちだ。
一方、フレッドは電子レンジでかけそばを作っている。
そう、冷やしそばではない。
熱々のあれだ。
トッピングはコロッケのみ、ネギは抜き。
こんもりと一味唐辛子が載せられている。
口をつけるごとに、フレッドの白色人種の肌が汗を吹き出し、赤く染まっている。
汗で髪の毛もぐっしょり濡れていた。
「暑そうだが、本当に大丈夫か?」
さすがの私も、心配でフレッドに声をかけてしまう。
「大丈夫、ナニも問題はない…。
というより、この光景れベストに思える」
「光景って__未来予知でもしてるのか」
「八時間前にこの未来が見えた」
フレッドの淡々とした、肯定の言葉。
数時間限定の未来予知か__。
もし、自分のしたいことが見た未来と食い違ったら、どうする気だろうか。
「大丈夫、これが初めての未来視。
これで未来がどうなるかの資金石となる」
「未来でも、何でも無理はするなよ。
__見えたからといって、無理に未来を変える必要性はないし。
逆に臍を曲げて変えないことを選ぶ必要性もないからな」
だが、明日は自分で斬り拓くべしが、このアシュグレイ宙佐の信条なのだ。
「ソフトウェア修復まであと五分」
HAL9の声が響く。
この暑気もあと五分と思えば、愛しさすら感じる。
五分…。
四分…。
三分…。
二分…。
一分…。
エアコンから生暖かい吐息が末期の息のように吐き出された。
そして涼風が頭の天辺から、爪先まで駆け抜けていく。
エアコンは人類の至宝だ。そんな故事が脳裏によぎる。
だが、寒すぎやしないか?
サファリルックの襟を合わせ、せめて歯が打ち合おうとするのを押さえる。
「HAL9! 寒過ぎる、気温を二十度前後にしてくれ」
「ハードウェアの一部にトラブルあり、気温設定の±が逆転している模様です、エアコンを物理リセットしてください」
もう一度あれをやれというのか。
フレッドはナニも言わず、かけそばを出してくれた。
一味唐辛子が目に染み、胃の腑に染み渡っていく。
…だから、子どもは__。