◆電子レンジの福音
◆緊急事態
これはアクシアがスプーンでビーフシチューの食べ方を覚えたころのエピソードだ。
「怒らないで聞いてあげてくださいね」
ホーガン号の緊急警報だ。
それをHAL9が鳴らし、私、ラマンドラ・アシュグレイ宙佐が気密服を着込もうとしていると、当のHAL9から懇願とも聞こえる、メッセージを発してきた。
「? ホーガン号の質量0.1%が喪失だと。
光子魚雷が暴発でもしたか? 居住区近くが大半持って行かれているようだな?
ならばフレッドとアクシアは無事か」
下手をすれば、私も巻き込まれたかもしれない。
「ぼくは無事だよ」
私の頭の中にテレパスによる思念波が届く、フレッドだ。
「精神力で肉体を統御すれば、真空は生存の障害にならないよ」
よく言ったものだ。
「つまり、船外に出ているのか、なら何世紀か、そこにいてくれ」
だから子どもは嫌なんだ。
「アクシアはどうなっている?」
光子魚雷の直撃でも平気な頑丈さだ、きっと真空程度無事だろう。
「その前にこの映像をご覧ください」
HAL9は気密服の端末に一連の画像を流した。
◆検証画像
台所にアクシアが入ってくるところだ。
警備用のカメラからの定点映像だろう。
アクシアは前屈みになって、Tシャツの中に何かを入れているように見えた。
たぶん、最近味を覚えたビーフシチューだろう。
その冷凍パックに違いない。
そのまま、電子レンジの前に行きTシャツの中の何か冷凍された食事パックを放り込む。
「チン!」
適当な操作なしでレンジの中身が加熱されることはない。
「チン!」
アクシアが口で言っているのだ。
数度繰り返す。
無論、自然解凍ではアクシアの望んだ温かさは得られない。
そのまま、レンジを掴み、手から多分大電流を流し込む。
スパーク!
レンジは火花を散らした。
カメラは余波で破壊される。
後はモデル画像が流された。
◆スーパーパンチングマシーン
アクシアはパンチ一発、台所をはじめとするブロック、居住区を吹き飛ばす__居住空間がホーガン号から千切れていくモデル画像が流されるのみ。確保して、
「で、アクシアは?」
「フレッドが確保して無事です」
安堵すべきか、苦笑いすべきか、今の私では判断がつかなかった。
「HAL9、アクシアが何の実験対象となっていたか、まだわからないか?」
感情移入が度を越した段階になる前に、パンチ一発でホーガン号を破壊できる可能性を秘めた超生物はしかるべき、対処をする必要がある。
「分析によると、電磁エネルギーを吸収し放出、あるいは肉体的能力に転換するものを目指したもののようです」
「光子魚雷の直撃を吸収だと!」
アクシアが教育? されていた小惑星を吹き飛ばすのに使ったものだ。
「おそらくは…」
こういうべきか? 子どもは嫌いだ、と。
「HAL9、知育画像を作ってくれ。プログラム内容は電子レンジの使い方」