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五分間の死神

◆食はホーガンにあり

 豪快な食いっぷりであった。

 飲み物以外は齧り付き、手掴みで口の中に押し込んでいく。

 何がって?

 アクシアと、食卓を囲んでの感想だ。

 とにかくうまそうに幸せそうに食うのだ。

 とても、自分と同じ、食事を食べているとは思えない。

 だが、フォークもスプーンも使わない。

 このホーガン号はテラフォーミングした惑星に生態系を構築する事が目的であり、直接植民する事が任務の主眼ではないのだ。

 その為、ホーガン号の備蓄は、緊急避難として、一千人規模のコミュニティを一年間維持する程度しかストックはない。

 ともあれ、メモリーを解析し、テキストを読み込んでいく。

 技術論はHAL9に咀嚼してもらい、私はアクシアの観察日誌を中心に読み込んでいく。

 正直胸が詰まった。

 幼い少女が知育プログラムだけを外部を識るよすがに孤独に日々を過ごしている。

 考えてみれば本当の野生児ならば、服を着る習慣など存在しないだろう。

 知育プログラムの知見を頼りにアクシアの食事マナー改善を試みる。

 ポジティヴな反応の番組を探し出し、それに付随する要素を抽出する。

 ゲーム感覚で楽しめた…と、言いたいが、結局HAL9頼りになる。

「『マイ・フェア・レディ』を気取る気はないがな…」

 つい古典映画のタイトルが出てしまう。

「ひとつのパターンが出ました。アクシアの好みは“和風カレーライス”です」

 HAL9が分析を弾き出す。

 ディスプレイにはカレーライスの画像が浮かんでいた。

「作れ」

 我が指示は簡潔を極める。

 五分後、寝転んでいるアクシアの鼻口をカレールーの香りが襲撃した。

 さらにドアを開け放って、フレッドが顔を出す、さすがに口の端からよだれを垂らす、のは元が天使であっても絵にならない。

「こっこっこ、こ、この香りは」

 フレッドも食べ盛りの肉体年齢のためか、この誘惑に抗し得ない。

「初めてか? これがカレーだ」

 私自身も魂からよだれを垂らしつつ、精いっぱいクールを気取った。

 白い飯にルーをかけて、ふたりの前に差し出す。

「さあ食べなさい」

「かれーかれー」

「頂こう」

 自分も今日が金曜日なのを確認すると、ゆっくりとスプーンを手にする。

 アクシアもゆっくりとスプーンをとった。

 フレッドはもう、ひと皿たいらげている。

 スプーンだけでも手に取らせる、アクシアへの作戦は功を奏した。

 あとはここから、別の食器に幅を広げさせる。 その過程で相互理解を深めていくことを骨子としよう。 

 今日のカレーはアクシアが五皿、フレッドが四皿、私がひと皿をそれぞれ平らげた。

 次回は十五皿作ろう。

 たまには金曜日以外のカレーも悪くない。

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