97. 颯斗の親友?
バカップルの姿が完全に見えなくなると、愛莉は焦ったように俺の所へやって来た。
「…颯斗…!大丈夫?」
「……あぁ」
「ウソ、血ぃ出てるじゃない!信じらんない!なんて乱暴なの!!ちょっと来て、ほら…手当するから!」
言われるままに愛莉の部屋に行くと、愛莉は救急セットを出して来て、頬骨や口元など血が出てる所に絆創膏を貼ってくれる。
「はい、ティッシュ。鼻血はしばらく我慢するしかないわね」
…かっこわる。
渡されたティッシュを手に少し迷うが、その間も鼻血は流れて来ていて、仕方なく両方の鼻の穴に丸めたティッシュを詰め込む。
「何があったの?」
どう説明したものか…と思ったが、愛莉は千代音と面識はない。
面識がない相手にまで彼氏役を徹底する事ねーだろうと、俺はありのままを話す事にした。
「なるほどね、…災難だったこと」
…少し不機嫌そうだ。
愛莉は手当を終えると「口の中も血だらけでしょ?ゆすいできたら?」と救急セットを手に立ち上がった。
「おい…それより警察は?マジで呼んだのか?」
「嘘に決まってるじゃない、…まぁ諦めて帰らなかったら本当に呼んだけど。…それより私に何か言う事あるんじゃないの?」
「…あぁ…。…助かった、恩にきる」
そういや助けてもらって礼を言ってなかったな。
マジで今回ばかりは助かった。
あのまま彼氏の気の済むまで殴られてたらヤバかった。
「アンタ腕っぷしに関しては、下手すると私より弱いんだから気を付けなさいよね」
…それは言い過ぎだろう。
確かに力には自信がないが、さすがに女に負けるとは俺も認めたくないぞ。
改めて助けてくれた事と手当のお礼をしてから部屋に戻ると、テーブルに置いたままのスマホが光っている。
見ると千代音からストーキングじみた数の着信とメッセージが残っていた。
(連絡すんなっつったろーが、着拒してやれば良かったぜ)
仕方なくメッセージを開くと、俺を心配する内容のメッセージがトーク画面にズラリと続いている。
(……怖ッ!!!)
心配してくれるのは良いんだが、これではありがた迷惑だ。
この女はこの女で、人と接する時の程よい距離感ってのを学んだ方がいい。
着拒してやろうかと指が動くが、ふと千代音の顔が浮かんで指が止まる。
(………まぁ……、良いか…)
俺は千代音にバカップルは帰ったとメッセージを入れると、殴られて熱を持っている頬を手で押さえながら目を閉じた。
あんなバカップルの事で、いつまでもモヤついているのも癪だし、明日は愛莉の誕生日だ。
プレゼントは用意したし、後は明日…ケーキでも買ってやるか?
#愛莉side ────
誕生日が近い。
颯斗が部屋に戻った後、私はぼんやりとカレンダーを見ていた。
(…あの調子じゃあ、私の誕生日なんて覚えてないわね…きっと…、ま…別に良いんだけど)
…いや、それは嘘だ。少し期待してた。
さすがにロマンチックな誕生日ー、とまで思ってなかったけど、プレゼントやお祝いの言葉くらいはくれると思ってた。
だけどあんなトラブルがあった後じゃ、そんな事考えもしないだろうな…。
何となく、持っていたスマホのメッセージアプリを開く。
颯斗とのメッセージ画面を開くと、前に遡って颯斗がくれた誕生日のメッセージを探す。
(……最後に誕生日のメッセージをくれたのは一昨年…、去年は忘れてたのか興味がなくなったのか、メッセージくれたかったのよね)
…待ってたのにな。
他の誰のどんな豪華なプレゼントよりも、颯斗からの「誕生日おめでとう」の一言が嬉しかった。
(そうよね、去年何もなかったのに、今年覚えてるわけないわ…)
パーティと言えば高校の時、颯斗は仲良かった友達と結託して、一人じゃ持てないような大きなぬいぐるみを買ってくれたわね。
ウチは階段が狭くて、私の部屋までぬいぐるみを運べなくて、2階の私の部屋の窓を外して、そこから入れたっけ…。
(……ん?)
そう言えば、高校の頃に颯斗といつも一緒にいた友達(と言うか悪友?)…、何してるのかしら。
「俺と同じように東京の大学に通ってる」って前に颯斗から聞いたけど、私がこっちに来てから全然話題にも上がらないし、会ってる様子もないわね。
(私とも仲良くしてくれたし、元気にしてるのかしら?今度颯斗に聞いてみようかな)
それは本当に、何となく思っただけの事だった。
高校の時、颯斗がいつも一緒に過ごして笑ってた人、今でも顔も思い出せる。
(名前は……、確か…よ…よ…よしお…?いや違うな…、…何だっけ…)
当時の事を思い出しながら、私は名前の思い出せないその人の顔を思い浮かべていた。




