94. 相談相手は選びましょう。
#颯斗side ────
翌朝、珍しく愛莉の誘いもなかったおかげで昼頃まで寝ていた俺は、目覚ましにコーヒーを淹れながらスマホを見ていた。
いつも見ているニュースアプリを閉じてから、メッセージアプリを開く。
「………」
思い出すのは昨日の行動だ。
あんなとんでもない事になった時、どんな行動を取るのが正解なのか、自分では全く分からん。
(あの女は俺が自分に気がある…、または誘えば乗ってくると確信してる感じだった)
けど俺にはあの女に気を持たせるような態度を取った覚えはねぇし、そもそも初対面は千代音の彼氏役をした時…、つまりあの女にとって"親友の彼氏"だったはずだ。
(普通ダチの彼氏とか好きになるか?そこが既におかしいよな…)
誰かに…俺とは違う、普通の感性を持った奴に話を聞いてみたいが、こんな時に話を聞いてくれる相手が、俺には大和しかいない。
(あんま相談相手には向いてねーけど…、こんな時に仲良くしてる奴がいないってのは致命的だな)
かと言って、その為に友人を作るってのも何か違う。
「………」
俺は開いていたメッセージアプリを閉じると、大和に電話に掛けた。
『もしもし?お前が電話なんて珍しいなー』
いつもの事だが、奴は速攻で電話に出る。
いつもスマホ触ってんのか?という速さで出る。
「…あー…、もの凄く不本意なんだが…少し話聞いてくれ」
「俺としてはその言い方が不本意だけど聞いてやるよ、んで?何?」
実は…とまるでドラマみたいに切り出すと、大和は『ふんふん』と相槌を打ちながら話を聞いていた。
『なるほどなぁ…』
千代音の彼氏のフリをしている事は伏せて、昨日あった事を話すと、大和は『お前らしいなー』と第一声で笑った。
「…は?」
『その明らかに誘われてる状況で手ェ出さないとか、逆に凄いよな。それヤッちゃったって同意の上じゃん?断る理由なくないか?そりゃ女の子も怒るよなー、何か仕返しされねーようにしろよ?』
「断る理由ならあるだろ、俺はその女に興味もねぇし、何なら女は嫌いだ」
『据え膳食わぬは…って言葉があるだろ?俺ならヤルだけヤらせて貰うけど』
「……お前と一緒にするな」
「一緒にするな…って…、お前の方が変わってるんだからな?その辺理解しとけよ?」
…ぐうの音も出ない。
『それに女は嫌いってさぁー、いちおー念の為に言っとくけど、俺ノーマルだから。お前の気持ちには応えられないからな?』
「…何の話だ、気持ち悪ぃ事言うんじゃねぇ」
『あはは!冗談だってー、お前は女が嫌いなんじゃなくて、女が信用出来ないだけだもんな』
「信用も出来ねぇし、嫌いでもあるんだよ」
『何で?』
「…は?」
『いや、理由があるだろ?そうなった原因と言うか…、……まぁ良いや。何でもない』
一瞬だけ、大和の「何で?」に答えが出なかった。
きちんと冷静に考えれば原因として新見晴子の顔が浮かぶんだが、何故かそれだけじゃない気がする。
『颯斗?』
「あ…あぁ、悪い切るな。とりあえずお前は相談相手に向かない事が分かっただけでも有り難い」
『相変わらず扱いヒドッ!!』
まだ何か言いたそうな大和を無視して電話を切ると、俺はスマホをソファに放り投げた。
♢♢♢♢♢♢
千代音から電話が掛かって来たのは、大和と話し終えてからすぐだった。
昨日の美穂の事もあるし、嫌な予感を感じながら電話に出ると、千代音は第一声で『浮気したの?』と言って来る。
「………」
頭が真っ白になって、とりあえず言葉が出てこない。
浮気?浮気ってのは、特定の恋人がいる時に使うモンだ。
…つまり、俺に当てはまる言葉ではない。
「…誰に電話してんだ?人違いじゃねーか?浮気も何も…俺、女いねーし」
『……あ…、ご…ごめんなさい…。私つい…』
「俺がお前と付き合ってるってのは、お前の友達の前でだけ…、あの時だけのフリだろ?まさか本気で付き合ってるとか思ってねぇよな?」
『も…もちろん…。やだ…私ってば真城君に彼氏役なんてしてもらって、舞い上がって妄想と現実の区別が付いてなかったみたい』
……しっかりしてくれ。
「それで?何だ?」
『あ…あのね、実は美穂から電話があって…』
一瞬心臓が大きく跳ねる。
嫌な予感しかしない。
『美穂…って覚えてる?あの…彼氏役をしてくれた時に会った…』
当然だ、昨日も会ったからな。
だがそれを話しても、話が拗れるだけか?
「…あぁ、あの女がどうかしたのか?」
『実はね…その美穂から…、真城君に無理矢理マンションに連れて行かれて、襲われそうになったって、そう…聞いたんだけど…』
…………はぁ!!?
俺が無理矢理マンションに連れて来ただと!?
一体どうなっているんだと、俺はその後の千代音の話が全く頭に入って来なかった。




