91. 狙われた颯斗[2]
結局女が出す提案(ギャラリー曰くご褒美らしい)をことごとく一蹴して、最終的に負けた方が勝った方に飯を奢るっつー、無難な勝負になった。
(これで勝てば問題ねぇな、勝った後で飯は断れば良いだけだ)
いざゲームが始まってみると、この女バスケなんてやった事のない動きだ。
シュートもドリブルも…、いやそもそもルールすら知らないんじゃねーか?
挙げ句の果てにはボールを手に持ったまま、コートの中を走り回ってるぞ。
ギャラリーの男共は笑って見てるだけで何も言わない。
場合によっては、あの子可愛いな!と言い出す馬鹿までいる始末だ。
(…付き合ってられねぇ)
俺はボールを持って走ってる美穂からヒョイとボールを奪うと、そのまま立て続けにポイントを取り、ゲームを終わらせた。
…とまぁ、そこまでは良かった。
俺達のゲームを見届けていたギャラリーの一人が立ち上がる。
「よし、このゲームで終わりにして、そろそろ飲みに行こうぜー!!」
じゃあ俺も帰るか。
そんな気持ちでコートを出ようとすると、急に美穂がうずくまって、動かなくなったんだ。
「どうした?足でも挫いたか?」
そう聞くと、美穂は涙を溜めた目で俺を見上げる。
「…うん、真城君とぶつかった時に挫いたみたい」
「…………」
コイツ…さりげなく人のせいにしやがったな。
後から駆け寄って来た奴らに抱えられて立ち上がると、美穂はヨロヨロとベンチに座る。
「足痛い…」
「…腫れてはいないみたいだけどな」
足を見てみると、特別腫れてもいないし赤くなってもいない。
「ごめんなさい、私運動運痴だから…」
ホントだよ、このウンチ女。
何で俺のせいなんだよ、そもそもにおいて、バスケ出来ねぇんじゃねーか。
「…ま、これに懲りたら、もうやれるフリしてゲームに参加しねぇ事だな」
さて帰るか…と背中を向けると、美穂はまた「いたた…!」
と騒ぎ始めた。
周りの男共は我先に「送って行こうか?」「大丈夫か?」なんて声を掛けてるが、美穂の視線は完全に俺に向かっている。
(…クソ、油断した。無視して帰りずらい…)
結局、お前が怪我させたんだからお前が何とかしろとギャラリーに騒がれ、俺は仕方なく美穂と駅に向かっていた。
しかも、帰る為じゃなくて飲み会に参加する為だ。
怪我したなら帰れば良いものを、美穂は飲み会に参加すると言ってきかない。
それなら飲み会に参加する奴に任せるかと思っても、美穂は俺の腕に抱き付いて離れなかった。
「……はぁ…」
怪我をしてる美穂の歩くペースに合わせているから、自然と他の奴らから遅れて行く。
「もう少し早く歩けねぇか?連中を見失っちまうぞ」
「すみません…痛くて…」
「…はぁ…」
身に覚えはないものの、怪我をさせたのは俺らしいから、強く言えねぇ。
「あ、皆んなとはぐれちゃったら、無理して行かなくても良いんじゃないですか?良かったらこのままぁ…」
そう言うと美穂は俺に身体を寄せて来る。
…飲み会に参加したくて、痛いの我慢して歩いてんじゃねーのか。
「まぁ、確かにそうだな。怪我してるのに無理して行く事ねぇし、俺も別に行きたい訳じゃねーから、このまま駅まで送…」
「あ…、…いえ…行きますよ!」
「……さっき無理して行かなくても良いって言わなかったか?」
…全く何を考えてるやら。
飲み会に行きたいのか行きたくねぇのか、ハッキリしない態度だ。
(ホント…女ってのは気分屋だな)
長谷川にメッセージを入れて、飲み屋の場所を確認して向かうが、歩くスピードが遅い上、途中で「痛い」と座り込む女のせいで、飲み屋に到着する頃には皆んな出来上がっていて、少し飲んだだけでお開きになった。
…そもそもバスケで集まった時間も夕方だ、飲み会になだれ込む予定だったなら昼間から集まれば良いものを。
(……俺、飯奢って貰えるんじゃなかったか?)
いや、元は来るつもりなかったから別に構わないんだが、なんかモヤモヤすんな。
(ま、これでお開きなら、それはそれで良いか。帰りがけに弁当屋にでも寄って…)
頭の中で、駅からマンションの間にある弁当屋や、遅くまでやってそうな定食屋を思い浮かべる。
何を食うかとメニューを思い出していると、美穂が当然のように俺の隣にやって来た。
「駅までお願いしますね」
(……また二人きりはゴメンだな)
かと言って断る訳にもいかない。
仕方なく俺は飲みに来ている奴らを見回した。
「おい、誰か駅までタクシー使う奴いないか?俺が金払うから、コイツと駅まで一緒に行ってくれ」
「あ、俺!…金欠だし歩くつもりだったけど、金払ってくれるならラッキー!俺が駅まで付き添うよ」
そう言って手を挙げてくれたのは、誰の友達なんだか分からんが、俺の知らない奴だ。
…顔見知りなら良いが、ここで見知らぬ男に預けるのも気が引ける。
(つーか、そもそもこの女も知らねー女だ、俺には関係なかったな)
俺は財布を出すと、男に万券を渡した。
渡す金に色がついてんのは、「任せたぞ?後の事は俺は知らねーぞ?」と言う意思表示だ。
「え…ッ?、真城君…!?」
当然美穂は予想外の事に驚いている。
「悪いな、ここは俺のマンションの最寄駅なんだ。駅とマンションは反対方向だから、駅まで行く奴に付き添って貰ってくれ」
そう言って男を振り返る。
「来る時もほとんど歩けねぇみたいだった。歩く時は肩貸して、ゆっくり歩いてやってくれ」
金までもらって、女の子を送ってくなんて美味しい役どころだな。と喜んで美穂に手を貸そうとする男と、顔を引きつらせている美穂のアンバランスさが面白い。
俺は二人を尻目に、とっとと店を出た。




