87. 翌朝は、お互い何となく恥ずかしい。
「トーストまだ食べるなら切るからね」
焼いたパンにマーガリンと砂糖を付けながら、愛莉は美味しそうにサクッと頬張る。
「んー、うまー」
確かに美味そうだ。
俺も愛莉を真似て、最初の1枚目はマーガリンと砂糖で食う事にする。
「…お、うまッ!」
「でしょう?また買っておくわ」
そういやコイツ、収入はないはずだが、まさか家賃だけじゃなくて、生活費までおじさんから貰ってんのか?
「…駅前のパン屋って高かったんじゃねーか?」
「え?あぁ、そりゃそれなりに高かっ…」
急に何を言い出すんだ?という顔をしていた愛莉は、何かを察したように言葉を止める。
「…心配しなくても、私にだって収入源くらいあるわよ。…まぁ、…多少は?父さんに仕送りしてもらってるけど」
「収入源?」
「原稿の合間にネットで依頼を受けて、簡単な漫画やイラストを描いてるの。けっこうな金額になるわよ」
「へぇ…」
意外だ。
ちゃんと漫画家デビューを目指しながら、自分の特技を活かした仕事をしてんだな。
「あ…、そうだ。私の部屋の鍵…」
そう言うと、愛莉は少し言いにくそうに顔を逸らす。
「…何かあった時、直ぐに助けに来れるように、颯斗に合鍵を渡しておけって父さんに言われて…その…、返したキーケースに私の部屋の鍵も付けてあるから」
「あぁ、気付いた…が、お前それでいいのか?」
「…何が?」
「確かに幼馴染で兄妹みたいに育ったが、兄妹じゃねーんだぞ?部屋の鍵なんぞ俺に渡して…」
…渡して…なんだ?
別に何もないだろ?
おじさんも愛莉も、何かあった時の為って言ったんだし、普通に考えれば使う事のない鍵だ。
「……別に?確かに女の一人暮らしは危険だし、何かあった時に部屋に入れるように、鍵を渡しておくくらい何でもないわ。…でも何でもない時に勝手に入って来ないでよね!!」
「だ…誰が入るか!!いつも人の生活にズカズカ侵入してくんのはお前の方だろーが!昨日だって人のベッドで寝やがっ…」
そう言った瞬間、愛莉の表情が変わる。
真っ赤な顔でパンを見つめながら固まっている愛莉に、まさか?という思いが脳裏を掠めた。
「あ…愛莉…お前起きた時って…どういう風に寝てた?」
「は?何でそんな事聞くわけ?ふ…ふふ…普通に寝てたわよ!」
…メチャクチャ怪しいぞ。
まさか一晩中ずっと俺の背中に抱き付いてて、朝起きた時もあの状態だったなんて事はねぇよな?
何故か気になるが、特別確認するまでの事でもない(…よな?)。
俺が「そうか」とだけ言ってスープに手を伸ばすと、愛莉は安心したように、またパンに齧り付いた。
#愛莉side ────
颯斗の「お前起きた時ってどういう風に寝てた?」という言葉に思わず固まる。
まさか私が抱き付いていた事を知ってるんだろうか。
いや、知ってなくても何となく気付いてて、それを確かめようとしてるとか?
「は?何でそんな事聞くわけ?ふ…ふふ…普通に寝てたわよ!」
気付かれていたとしても、抱き枕と勘違いして抱き付いていたなんて、とてもじゃないが私から言えるわけがない。
平静を装っていると、颯斗は少し腑に落ちない顔はしていたけど「そうか」とだけ言って頷く。
安心してパンの残りを齧っていると、昨夜の事を思い出して顔が熱くなってきた…!!
(……ごめんなさい、嘘です!抱き付いてました!!)
目を覚ました時に抱き付いていた颯斗の背中を思い返すと、今すぐ穴を掘って入りたくなる。
(無意識に抱き枕だと思ってたから、全身で抱きついてた…)
恥ずかしすぎる。
夢だと思って、そのまま忘れて欲しい…!!
その後、少しギクシャクした雰囲気の中で朝食を済ませると、颯斗はそそくさと自分の部屋に戻って行った。
#颯斗side ────
部屋に戻った後、俺はソファでテレビを見ていた。
色々とトラブルもあったが、この際全部忘れる事にする。
俺にとっても愛莉にとっても、お互い何もなかった事にした方が良いに決まってるからな。
違う事を考えようと朝の番組をぼんやりと見ていた俺は、番組内で紹介していたプレゼント特集を見て、あ…と声を出した。
(プレゼント…、そういや愛莉の誕生日…)
慌ててスマホで日付を再確認する。
…しまった、愛莉の誕生日がもうすぐだ。
すっかり忘れていて何も考えていない。
(いやでも…、プレゼントをあげていたのはガキの頃だけで、途中からはメールやメッセだけになったな)
少し考える。
正直鬱陶しい事もあるが、愛莉が家事をやってくれて楽は出来ているし、礼も兼ねて今年は久々に何か用意するか…?
だがガキの頃とは違う。
昔はぬいぐるみやらステーショナリーセットやら、ハマってる漫画やら買ってやったが、この歳でそれはねぇよな。
(プレゼントか…、暇だし少し見に行ってみるか?)
俺は少し迷った後、愛莉が前に気に入ったと話していた雑貨屋へと行ってみる事にした。




