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86. 同じベッドで目覚める朝。

このまま何とか寝ちまえば、さすがに朝までずっと抱き付いたままって事はないだろう。


だが寝ようと目を閉じると、ソファでの無防備な愛莉と柔らかそうな胸、そして生温かい舌の感触を思い出して、俺はくわっと目を開けた。


(無理だろ…!!この状況…寝れるワケねえ…!!)


ぎゅう…と胸へ回された愛莉の腕に力がこもる。


寝相が悪い愛莉は、俺の下半身に自分の足を絡めると、今度は背中に頬を押し付けるように、強く抱き付いて来た。


…トクントクン…と愛莉の心音が背中に響いてくる。


状況は相変わらず危機的状況だが、この懐かしい心音を感じていると何故か落ち着いて来て、俺は自分の胸に回された愛莉の手を握ると、愛莉の心音を感じながら目を閉じた。



#愛莉side ────



眩しい…。

騒がしい鳥の声…じゃなくて、車のエンジン音で目が覚めた。

そう言えばマンションの裏は大通りだ。


ゆっくりと目を開けると、朝日が眩しいベッドの上、私の目の前には颯斗の背中があった。

しかもその背中に抱き付いている。…私が。


「………え」


何…この状況…?

確か颯斗のベッドで寝てたら、私に気を使う事もなく颯斗もベッドに入って来て…それで…。


「は…はゎわわ…」


昨夜の事を思い出した私は、声にならない声を上げてベッドから飛び起きた。


(ソファで寝るのが嫌なら自分の家に戻れって言われて、私意地になって一緒に寝たんだ…)


寝る時はいつも抱き枕を使っている。

…と言うか、何かを抱えていないと落ち着かないタイプだ。

昨夜はどうやら颯斗を抱えて…、いや抱き付いて寝ていたらしい。


(だ…大丈夫、颯斗は寝てるし…気付いてないはず…)


そろーっとベッドから出ると、ずり落ちた肩紐を引き上げて、胸の辺りまで捲れた服を手早く直す。…我ながら寝相が悪い。


颯斗を起こさないように気を付けながら寝室を出ると、リビングのソファに置きっぱなしになっていた颯斗のカーディガンを羽織って自分の部屋へ戻った。


コソコソと部屋へ戻る自分に、何故か悪い事をしたような気持ちになり、私はバクバクしている胸を押さえる。


(…落ち着け…。何事もなかったような顔して会えば、颯斗だって寝てたんだから抱きついてた事は気付かれない。忘れよう…)


そう思うのに、抱き付いていた時の颯斗の温かさや背中の広さを思い出して顔が赤くなる。


(………!!!無理無理ィー!!)


私は心の中で悲鳴をあげると、洗面所に駆け込んで冷たい水で顔を洗った。



#颯斗side ────



朝起きると愛莉の姿はなかった。

ひと足先に起きたらしい。


(…良かった…、騒がれなかったな)


朝起きた時にはさすがに俺から離れてたんだろう。

いくら何でも一晩中、朝までずっとあのままだったとは思えない。


リビングでスマホを確認すると、愛莉から朝飯のメッセージが入っていた。

鍵はポストに放り込んであるとの事。

…うん、いつも通りだ。愛莉の事だから、抱き付いてたなんて気付いたら騒ぐはず。


俺は少し安心して玄関に向かった。


(…ん?)


郵便受けに入っている鍵を手に取ると、何故か鍵が一つ増えている。

見てみると俺の部屋の鍵と変わらないディンプルキーだ、すぐに愛莉の部屋の鍵なんだと分かる。


…こういう小さな事の繰り返しで、信頼されているんだって事が身に沁みて、余計に愛莉という存在が、俺の中で家族に近い存在になっていくよな。


(妹…、愛莉…。妹…か…)


自分に言い聞かせるように、妹という言葉を頭ン中で連呼する。


けど、どうにも「妹」と言う言葉がしっくりこなくて、昨夜見た愛莉の身体や、抱き付いてくる身体の柔らかさを思い出し、俺は玄関ドアに寄りかかって目を閉じると、深く溜め息を吐いた。






愛莉の部屋に行くと、珍しく洋風の朝飯だった。

テーブルにはちょうど焼けたばかりのトーストと、コーンスープ、それからマーガリンやジャム等が用意してある。


「…パンって珍しくねーか?」


サラダを用意している愛莉に声を掛けると、愛莉はいつも通りの顔で俺を振り返った。


「たまにはね、昨日駅前のパン屋で美味しそうなブレッドを買ったの。昨日は柔らかかったからそのまま食べたけど、今朝は一応焼いたわ」


柔らかかった。という言葉に、ガラにもなくドキリとする。

「柔らかい」という言葉に愛莉の身体を連想しちまうとは、俺は朝からおかしいらしい。


動揺を悟られないようにテーブルに座ると、大皿のサラダと

小皿を2つ持った愛莉が目の前に座った。

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