83. 愛莉ちゃんは欲求不満。
1時間ほどで戻って来た愛莉と飯を食って、俺は洗い物をしながらテーブルを拭いている愛莉に背中越しに声を掛けた。
「今朝なんか原稿やってたよな?俺が寝た後ならルームライト持って行って、リビングで続き描いてても良いぞ」
「…結構よ。よほど〆切間近でなければ徹夜ではやらないわ、夜はきちんと寝ないとお肌に悪いし」
テーブルを拭いた布巾を流しに持って来てゆすぐと、愛莉は丁寧に畳んでテーブルの上に戻す。
すると流しに寄り掛かるようにしながら、俺の隣に立った。
「…大和さんからメッセージ来たわ」
「…ふーん」
一瞬どきりとするが平然を装って返事をすると、愛莉は少し俺の顔を見つめてから「内容気になる?」と聞いて来た。
「…何でだ?…まさか俺の事でも言ってたのか?」
「違うけど…、………」
そう言うと、愛莉はつまらなそうにリビングに戻ってソファに腰掛けた。
「……?」
何か言いたそうだったな。
だけど俺が首突っ込むのも変な話だよな?
(告白とかされたのか?)
…まさかとは思うが、大和はけっこう相手の事を考えずに強引に行く方だからな。
大して親しくもなかった女とも、その強引さでなし崩し的に付き合い始めた事もあった。
(……いやいや!俺には関係ない!!)
チラッと横目でリビングの愛莉を見ると、スマホで何かしている。
大和に連絡してるのか…?と何故か気になり、俺は首を振って洗い物に集中した。
#愛莉side ────
大和さんからメッセージ来たって伝えたら、もう少し動揺するかと思ってたけど、颯斗の奴め…気にもしてなかったわね。
(ふーんって何よ…、ふーんはないでしょう?ふーんは…!少しも気にならないワケ?)
私が東京に来てから、どれくらい経ったかしら。
しばらく颯斗と2人で暮らしたけど、颯斗が私を意識した様子は全くない。
(やっぱり女としては見てもらえないのかな…。颯斗にとって私は、本当にただの妹…?)
素直になれない私も私だけど、それ以上に颯斗が意識すらしてくれないんじゃ話にもならない。
「…はぁ…」
この様子だともうすぐ私の誕生日だって事も覚えてなさそうね。
地元にいた頃は、毎年忘れずにプレゼントをくれたけど、颯斗が大学の為に上京してからはプレゼントもパッタリとなくなった。
(…東京に行ってからもお祝いメッセは来てたけど…、今年もメッセージくらいはくれるかしら?)
でも地元にいた頃とすっかり性格も変わっちゃったし…。
やっぱり人って変わるのね。特に東京に出ると人が変わるって聞いたけど、颯斗なんか別人みたいになっちゃって…。
(前はもう少し優しかったのになぁ…)
いつの間にかキッチンに颯斗の姿がない。
シャワーでも浴びに行ったんだろうと思った直後、部屋の電気が消えた。
「…えっ!?」
また停電か…とつい天井を見上げると、今度は直ぐに明かりが点いた。
(あ、点いた…)
するとまた激しく落雷の音が響き渡り、パッと電気が消えた。
…これは…落ち着かないわね…。
これならずっと消えている方が目にも精神的にも良さそうだ。
そんな事を考えてる間も、電気は消えたり点いたりを繰り返している。
(目がチカチカする…、仕方ない…)
私は颯斗が用意した懐中電灯を手にすると、部屋のドア付近にある室内電気のスイッチをオフにした。
…当然部屋の中は真っ暗になる。
暗闇は嫌いだけど、点いたり消えたりが繰り返されるよりはマシだ。
暗闇の中ソファに戻り、少し前に颯斗が寝ていたように横になる。
(颯斗のシャンプーの匂いがする…)
少し前までは私も同じシャンプーを使っていたから、きっと同じ匂いがしただろう。
(…良い匂い…、私も同じシャンプーシリーズに変えようかしら…)
好きな人と同じ香りって言うのは、恋する乙女としてはトキメキ要素じゃない?
私は今頃颯斗も使ってるであろうシャンプーシリーズを思い出しながら、小さく笑った。




