81. 愛莉ちゃんはやっぱり怖がり。
本屋で好きな作家の新刊を見ていると、憂鬱だった気分が少し軽くなって来た。
(…続編出てるな。お?こっちも新刊じゃねーか、あ…でもクライムサスペンス…?コレ系は好きじゃねーな)
しばらく本屋に来てなかったせいか新刊が溜まってる、しかも読みやすい文庫版まで出てる。
ハード版は読みにくくて好きじゃないが、文庫版が出る前に見つけちまうと、我慢出来ずにハードで買っちまうからな、ちょうど良かった。
(コレと…コレ、…この作家は読んだ事ねーな、面白そうだし…試しに読んでみるか?)
文体が好みかそうじゃないかは実際に呼んでみないと、あらすじだけでは分からないからな…。
読んでいるとその場の雰囲気や空気感まで感じて、まるで自分も一緒に出掛けているような気分になれる浅見◯彦シリーズや、閉じされた村や閉鎖的な場所で起こる殺人、数え唄になぞらえた殺人など、おどろおどろしい金田◯耕助シリーズなどが好きだ。
ちなみに海外物だと、俺はシャー◯ックシリーズは得意ではない。
シャーロ◯クなら、断然ポ◯ロ派である。
…どうでも良いけどな。
結局、1時間半くらいはたっぷりと本屋をうろついて、一番好きなクローズドサークル系を数冊と、読んだことのない小説を数冊手にするとウキウキでレジへ向かう。
帰ったらとりあえずレポートは置いといて、時間が許す限り読みまくってやる。
夕方頃マンションへ戻ると、ちょうど雨が降り出した。
買った本が濡れないように、慌ててエントランスに走ると、その直後にバケツをひっくり返したような豪雨に変わる。
(ギリギリだったな)
少し濡れた肩を叩きながら部屋へ戻ると、大きな音が辺りに響き渡る。
…雷だ。
(雷雨だなんて予報で言ってたか?)
涼しくなるから雨は良いんだが、雷は停電の可能性もあるから面倒だ。
せっかく本を大量に買ったのに停電になんぞなられたら、たまったモンじゃねぇ。
部屋に戻ると、タイミングを見計らったように愛莉が訪ねて来た。
「ねぇ、ロウソク持ってない?懐中電灯とか。停電になりそうなくらい雷鳴ってるけど、ウチ何もないのよ。停電になったら何も出来ないわ」
「ない」
正確には貸せる物はない、だけどな。
「…即答するって事はあるのね」
「お前俺を疑いすぎだろ」
実際そうなんだが、頭から疑ってかかる愛莉をジロリと見ると、愛莉はサッサと俺の部屋の中に入って来る。
「おい…」
「貸してくれないなら良いわ、今夜はコッチで過ごすから。それなら文句ないでしょ」
「大有りに決まってんだろ、また人のベッド占領する気か」
「私は越してきて間がないのよ?颯斗はココで暮らして大分経つんだし、慣れてない部屋で過ごす私が優先されるのは当たり前だわ」
「取って付けたような事言うんじゃねぇ、今夜は絶対にベッドは渡さねぇからな」
これ以上ワガママ女にペースを乱されるのはごめんだ。
コッチで過ごすならそれでも良いが、俺は自分の生活リズムは変えんぞ。
買って来た本をリビングのテーブルに置くと、ソファに座ってどれから読もうかと積んだ本を眺める。
すると愛莉が隣に座って来た。
「推理小説?好きねぇ…、あ…コレ面白そうじゃない?」
「ネタバレしねーなら読んで良いぞ」
「あらホント?じゃあ子供の頃みたいに、2人で読書でもしましょうか」
そう言うと、愛莉は冷蔵庫から飲み物を出して来る。
俺にはビール、自分のはカフェオレだ。
ちなみにカフェオレは、愛莉がまだ一緒に暮らしてる時からあるヤツで、別に俺が愛莉の為に買い置きしてる訳ではない。
「何か軽く食べる物でも作ろうか?」
「いや、食ったばかりだ。どうせなら晩飯の準備してくれ」
ビールを飲みながら、俺は既に本を読み始めている。
この分だと夕飯を作る事すらせずに、読書に夢中になりそうだ。
愛莉は特に何も言わず、冷蔵庫の中を物色している。
…放っておけば、適当に何か作るだろう。
♢♢♢♢♢♢
それから少しして、腹が減ったら直ぐに食べられるような物を作った愛莉も、俺の隣で読書に没頭していた。
静かな部屋の中、窓を叩く強い雨の音と雷の音。それに本のページをめくる音が不規則に響いている。
本が面白くて夢中で読み続けていたせいか、まだ1時間も経っていないのに、もう一冊目が読み終わる。
(もう少しペース落とすか、あっという間に読み終わっちまうな)
そう思った時だった。
一際大きな落雷音が鳴ったと思ったら、辺りが暗くなる。
「…きゃ…!!停電!?」
隣で本を読んでいた愛莉が短い悲鳴をあげた。
本に集中したらしく、かなり慌てている。
その直後、再び大きな落雷音。
「……ッ!!」
あー、近くに落ちたな。避雷針どこだったか…。
と、のんびりと考えていると、暗闇の中愛莉が抱きついて来た。




