80. 空気読んで下さい。
すると千代音は俺の言いたい事が分かったらしく、慌てて口を開いた。
「美…美穂はどうしてここに?待ち合わせ?」
「違うよ?街をブラついてたら、たまたま千代音を見掛けたから声を掛けに来ただけ。…えー?もしかして邪魔だった?」
いや、明らかに邪魔だろ、どう考えても邪魔だろ。
こっちはデート中(実際は違うが)だぞ、普通たまたま見かけたらからって、人のデートに割り込むか?
両方とも知り合いで仲が良いとかなら話は分かるが、少なくとも俺の方は初対面だぞ?
図々しすぎるだろ。
なかなか立ち去ろうとしない女に痺れを切らし、俺はさりげなくスマホを取ると、千代音に『デート中だから邪魔すんなって言え、とっとと帰らせろ』とメッセージを入れた。
#千代音side ────
真城君が何か言いたそうに、私に向かって顎をしゃくる。
何かと思っていると、テーブルの上に置いたスマホをトントンと指先で叩く。
(あ…、もしかして?)
慌ててスマホを確認すると、案の定、真城君からメッセージが入っていた。
(か…帰らせろって…そんな事言われても…)
美穂は私の言う事なんか聞いてくれた事ない。
でも確かにこのままだと、ずっと一緒にいそうだ。
(…真城君を狙ってる?)
そんなの嫌だ、せっかく頑張ろうと思ったのに…。
私は勇気を出すと、メニュー表を見ている美穂に声を掛けた。
「あの…美穂?」
「んー?何?これ美味しそー。あ、こっちも捨てがたいかも…。ね、彼氏さんはどっちが好きですか?どっちも美味しそうですよねぇー」
「…そうだな」
話しかける美穂に、真城君は不機嫌そうに答える。
…お願い美穂…!空気読んで…!!
「やっぱりー、あ!じゃあ両方とも頼んで、2人でシェアしません?」
「ちょ…ちょっと美穂…、私たち今デート中で…」
「もー、しつこい千代音ぇー。そんなの分かってるよ?でも他ならぬ千代音の彼氏だもん、私も仲良くしたいし?あ…、もしかしてホントに邪魔とか思ってる?そんな訳ないよね?親友だもん」
「え…ぁ…」
…絶対居座る気だ。
下手すると奢らせるつもりでいる。
どうしよう、私…二人分だって払うのキツいのに…。
それでも真城君とお近づきになりたくて頑張ったのに、こんな形で邪魔されるなんて。こんなの酷い。
でもここで無理に帰らせたら、怒らせてしまうかも知れない。
どうしようかと黙っていると、諦めたように真城君が口を開いた。
「…悪い。俺らまだ付き合いたてで2人きりに慣れてねーし、いてくれるのは有難いんだが、それでも俺は2人で過ごしたいんだ。千代音とはまた今度、別の機会にゆっくり話してくれよ」
真城君にそう言われては、さすがの美穂も何も言えなくなったのか、小さく息を吐いてから立ち上がった。
…その顔は少し怒ってるようにも見える。
でも上げた顔はいつもの笑顔だった。
「ごめーん、そうだよね、私ったら気が利かなくて。ごめんね千代音」
にこやかな笑顔でそう言うと、美穂は私の耳元に口を寄せて来る。
「…また後でね」
その声は直前のにこやかな笑顔とは違って、すごく不機嫌そうに聞こえて、私は立ち去る美穂の背中に「ホントごめん…!」と声を掛けた。
#美穂side ────
気に入らない。
あのダサい千代音が付き合ってる男があの高スペック?
ルックスもそうだけど、持ち物とか着ている服とか、アレ完全に金持ちじゃね?
(ムカつくムカつくムカつくムカつく…)
今私が付き合ってるのは顔だけで、金も持ってないただのフリーター。
絶対にアッチの方が良いじゃん。
(あの彼氏欲しいなー…)
千代音の彼氏を思い浮かべる。
絶対私の方が隣に相応しいはず。
(…そうよ、奪っちゃえば良いんじゃん。あんな良い男、千代音にはもったいないもん)
となれば、まずは情報か…。
あれだけのイケメンなら大学でも有名なはず。
私はスマホを出すと、千代音と同じ大学に行っている友達のトーク画面を開いた。
#颯斗side ────
あれから結局、意気消沈しちまった千代音と、ほぼ無言でデザートを食べて解散した。
(…ったく…望み通り、彼氏役やってやったっつーのに、急に暗くなりやがって何なんだ?)
…まぁ大方帰り際、あの美穂って女に何か言われたんだろうな。
(千代音はずっとあの女に気を使ってたみたいだったな、実は大して仲良くねぇんじゃねぇのか)
…女ってのは、何で好きでもねぇ奴らとつるむんだ?
気が合うなら分かるが、1人が嫌だからっつー理由で、嫌な奴と一緒にいるとか、マジで理解に苦しむ。
(まぁ、関係ねーか。礼もして貰ったし彼氏役だってやってやった、もう俺に用はねーはずだ)
今度は彼氏役のお礼…とか言い出しそうだが、もうそれは断固拒否する。
千代音と会うのはもうゴメンだ。
帰り道、少し気分転換に本でも物色するかと、俺は本屋へと足を向けた。




