8. フラッシュバックする。
ソックリなんてモンじゃねぇ。
聡太が好きだった子は高校生だったが、その子が大学生になったらこんな感じだろうな。と言う感じだ。
…いや、まてよ。
俺(聡太)が死んだのは20XX年だ。
今は…、今は何年だ?
(本人でもおかしくねぇ…。頭良かったし、東京の大学に入ってても…)
色々な事が頭ん中を駆け巡る。
その間も俺はずっと、店に入って来た女から目が離せなかった。
「お待たせ、遅くなってごめんね。電車に間に合わなくて…」
「!!」
女はそう言うと、俺達の席にやって来る。
かなり可愛い。当然だが、男達の視線が集中する。
まさか合コンの参加者だったのか。
そういや気にしなかったが、女の数が一人少なかったな。
ずっと見続けたせいか、ばちっと視線がかち合う。
(…しまっ…、目が合っ…)
聡太だった時の嫌な記憶がよみがえる。
女達は俺が少し見てるだけで嫌がり「気持ち悪い」だの「見るな」だの、散々な言われようだった。
慌てて目を逸らそうとすると、女はニコッと笑顔を向けて来た。
(…あぁ、そうか。俺はもう…、聡太じゃねぇんだよな…)
女と目が合って、罵られる事は颯斗にはないんだ。
そう安心したのも束の間。
「初めまして、新見晴子です」
そう自己紹介された瞬間。
俺は目の前が真っ暗になった。
間違いない。
高校生だった聡太に、最悪の思い出を刻み付けた女だ。
告白した俺を、まるでゴミでも見るような目で見て、返事もせずに去って行った女。
せっかく生まれ変わったのに…。
まさか、聡太を女嫌いにした元凶が現れるとは…。
(い…いや、落ち着け。今の俺は真城颯斗。山岸聡太じゃねぇ)
バレないように深呼吸する。
「…あ…、はぁ…どうも…。…って!?」
なんとか動揺を隠しながら答えると、隣の千夏が俺と晴子の間に、強引に入って来る。
「遅かったじゃん晴子、来ないのかと思った…、あ。もしかして目立つためにわざと遅れ…」
「先輩、考えすぎですよ」
…おぉ、強いな。
遅刻の嫌味をさらっとかわしたぞ。
「…まぁ良いけど。…そろそろわたし帰んないと、お金置いとくね」
チャンスだ。
千夏とは一番話してたし、送っていくていで、このまま俺もフェードアウトしよう。
ちらっと晴子を見ると、さすがにもう男達に囲まれてる。
…あんな女がいる場所なんて、一分一秒でもいたくない。
「俺も帰らせて貰うよ」
そう言って、千夏と一緒に立ち上がる。
すると千夏がニヤーっと笑う。
なんか勘違いされてるかもだが、この際どうでも良い。
とにかく晴子から離れたい。
♢♢♢♢♢♢
店を出て、駅に着くまで、千夏はベラベラと話していたが、全然頭に入って来なかった。
考えているのは、晴子の事。
そしてフラッシュバックする聡太の悪夢だ。
あの日。
聡太だった俺は、本当は告白なんかするつもりはなかった。
ただ眺めてられるだけで幸せだったのに。
(思い出したら、腹立ってきたぜ…)
同じクラスの…いわゆる、スクールカースト上位の奴らが無理矢理に告白のお膳立てをしやがった。
そいつらが勝手に晴子を呼び出して、俺はそいつらが見守る中で告白する事になったんだ。
悪夢以外の何物でもない。
この事件のせいで、俺は女が大っ嫌いになったんだ。
俺の知ってる新見晴子は、あんな風に人を軽蔑した目で見たりしない、優しい子だった。
クラスの委員長で、成績優秀で、誰にでも優しくて、教師の信頼も厚い人気者の優等生。
告白なんかしなければ、きっと良い思い出だったんだろうな。
陰キャがクラスの委員長に片想いして、そのまま過去の甘酸っぱい思い出として終わる。
…そのはずだったんだ。
「…はぁ…」
つい溜息が出たらしい。
千夏が不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「飲み足りない?二人で二軒目行く?」
「…行かねぇよ」
「つれないなー」
そんな事を話しながら駅に着き、俺は千夏を見送ってから自分の電車に乗り込んだ。