79. 颯斗の災難。
「…え?」
声のする方を見ると、そこには前回このカフェに一緒に来た友達…美穂が立っていた。
「み…美穂…?」
何でここに…。いや、私もだけど。
美穂は驚いた顔で真城君を見ている。
…嫌な予感がする。美穂は良い男に目がなくて、好みの男を見つけるとすぐに色目を使う事で有名だ。
「わ、奇遇だねー、この人が言ってた彼氏さん?」
「え…あの…違…」
彼氏役はハッキリと断られてる。
ちゃんと「違う」と言わないといけないのに、羨ましそうに見てくる美穂の視線が気持ち良くて否定出来ない。
(そ…そうだ…強気…強気…。少女漫画でもTLでも、主人公はハッキリと物事を言える子が多い。私も憧れの少女漫画の主人公みたいになるんだ…!)
そう自分を勇気づけた直後、私は美穂に「そうなの!!」と答えていた。
#颯斗side ────
…What!!?
何言い出すんだ?誰が誰の彼氏だ、このクソ女!!
彼氏役は断っただろうが!!
「お前…、ふざ…」
ふざけてんのか?と言いかけた俺は、千代音の顔を見て言葉を止める。
…なんか様子がおかしいぞ。
(…ふるえてる…のか?…は?何でだ??)
…友達なんだよな?
千代音が「美穂」と呼んだ女を見ると、女はニコッと笑いかけてくる。
(違う…と言ってやりたいが…)
…何だこの雰囲気。
どうするべきなんだ。
直感的に(色んな意味で)、否定してはいけないと、俺の中で何かが警告してる感じだ。
(この女はヤバい…)
陰キャの俺には分かる、この女は危険だ。
見た目はニコニコ可愛らしいのに、肉食獣みたいな気配と匂いがする。
初めて会うのに何でだ?と考えていると、女…美穂は俺の隣に強引に座って来た。
「…は?な…」
「ホントに千代音の彼氏なんですか?」
少し首を傾げながら、上目遣いに見て来る女が気持ち悪くて、反射的に目を逸らす。
その質問につい千代音を見ると、すがるような…期待してるような?そんな複雑な目で俺を見てる。
それから隣の女を見た俺は、二人の関係性にピンと来て目を細めた。
(この美穂って女…、ダチのフリして千代音を馬鹿にしてやがる)
これは千代音を信じてない目だ。
俺が否定すれば、…いや俺が否定するのを待って、千代音を馬鹿にしたい。そんな顔をしてる。
(なるほど…、なんか嫌な感じがしたと思ったが…)
聡太をからかってたクラスメートとつるんでた女が、確かこんな感じだったんだ。
…人を馬鹿にする事を楽しむタイプ。
(はぁ……)
彼氏のフリなんぞ絶対に嫌だ、絶対に嫌だが…。
(…このニヤついたクソ女の思い通りになんのも癪だ)
俺は諦めて深ぁーく深呼吸すると、美穂を振り返った。
「…付き合い始めたのは最近だけどな」
そう言った瞬間、千代音の顔がぱぁっと明るくなって、美穂の顔がきゅっと歪む。
(おお…、明らかにムカついてるツラだ。自分で言うのも何だが、ずっと見下してた女が俺みたいな男と付き合ってるってのは悔しいよな)
中身はどうあれ、今の俺はチートか?ってくらいに整ったルックスだもんな。
(…最近この外見にも慣れて来たな)
街を歩くたびに声を掛けてくる女達や、声を掛けてこなくても熱い視線を送って来る女達。
ヘアカットの誘いや、挙げ句の果てにはモデルに興味ないか?とか、颯斗として目を覚ました直後は、陰キャの俺には怖すぎて、外を出歩くのが嫌になったくらいだった。
(…慣れって怖ぇーな)
「…ですか?」
「…ん?」
ついぼーっとしていると、美穂が俺に身体を寄せて来る。
…みゆりタイプか。
「…千代音のどこが好きなんですか?」
別に好きじゃないんだから、どこと言われても答えようがねぇんだが、俺はチラッと2人を見比べてから顔を逸らした。
「大人しくて控えめなところ」
「…ッ」
どう考えても、今のは「千代音より私の方が良いでしょ?」という顔だった。
だから逆に、この女と正反対の部分を気に入った所として言ってみたんだが…、面白いくらいに効いてるな。
そそくさと俺から身体を離すと、美穂は少し佇まいをなおし、キラキラした笑顔を向けて来た。
「そうなんですねッ、千代音にこんな素敵な彼氏が出来て私も嬉しいな。私、千代音の親友の美穂って言うの、私とも仲良くして下さい」
…何の為に?と言いたい所だが、せっかくやりたくもない彼氏役を(結果的に)自ら引き受けたんだ、ここで千代音の立場を悪くしたら元も子もない。
俺は特に頷く事も断る事もせずに千代音を見た。




