78. 誤解はさらなる誤解を生む。
メニュー表を見ながら、さて何食うか…と思っていると、千代音がコソコソと財布の中を確認している。
(…言わんこっちゃねぇ)
カップルデーで安くなってるのは確からしいが、それでもメニューを見る限り、かなり高いぞ。
(親しくもねぇ奴にこんなモンを奢られるのは、奢られる方も結構キツいぞ?割り勘にしてくれねぇかな…。いやでも、ココを割り勘にしたら、また礼がしたいって改めて誘われるオチか?)
どうするのが正解なのか全く分からん。
もうなるようになれ…と、ぼんやりとメニューを見ていた俺は、デザートのページで手を止めた。
(…葛餅か、こんなカフェには珍しい感じもするけど)
美味そうだな、和菓子好きには下手にパフェやらスイーツやらとか出されるよりも心が躍る。
(おぉ、ちゃんと緑茶もメニューにあるじゃんか)
しかも他のメニューより、この2つは比較的安い。
これなら俺の分だけで1,500円くらいで済みそうだな。
(…緑茶と葛餅だけで、1,500円か…。正直、こんな所で食べるなら、同じ値段でちゃんとした和菓子屋で食いたいな)
そうは言っても、今回はこのメニューの中から選ばないとならない。
だったら安い順から食いたい物を選ぶと、この2つしかない。
千代音を見ると、どうやらまだ迷ってるらしい。
優柔不断な方なのか?
今度はどんなメニューで迷っているのかと、千代音のメニュー表を覗く。
すると見ているのは同じくデザートのページだった。
「……デザート?」
「…え?…あ…」
俺が聞くと、千代音はメニューから顔を上げて、焦ったように笑う。
「あの…お腹空いてなくて…、デザートだけにしようかと…」
「…飯食いに行くって分かってんのに?最初に言えば良かったろ」
そうすりゃ、ここにくる途中にあったクレープのキッチンカーで事済んだっつーのに。
…まぁ確かに二人ともデザートのみってのも、この店ではおかしくはないけどな。
(どう考えても、ガッツリと腹を満たすタイプの店じゃねー事は確かだ)
結局俺も千代音もデザートを頼むだけで終わった。
心なしか千代音もホッとしてるように見える。
…ぜってー無理してたな。
(礼がしたいって気持ちは、別に金額で示すもんじゃない、気にする事ねぇのにな)
わざわざこんな高い店を選ぶあたり、コイツの感謝の気持ちがとてつもない事は分かったが…。
(それだけあのオマケのコースター喜んでくれたって事か…、辛さはハンパなかったが、美味いのも確かだったし、俺としては結構気に入ったチャーハンだったけどな)
特に会話もなく俺がスマホを弄っていると、千代音は徐ろに自分のスマホを俺に出してきた。
「……ん?」
見るとそこには、誰かの部屋らしい写真が映っている。
沢山のアニメ?ゲーム?か何かのフィギュアやポスター、ぬいぐるみや…まぁ何か色々?と部屋中に所狭しと飾られて…、いや詰めるように並べられている部屋の写真だ。
…??何だコレ、まさか千代音の部屋なのか?
どう反応したら良いんだ?なんで俺に見せた?
言葉に詰まって千代音のスマホを見たまま固まっていると、千代音は私の部屋です…!と顔を真っ赤にする。
いや、…うん。それは分かる。
問題はなんで自分の部屋を俺に見せたのか?という事だ。
「あ…あぁ、……で?」
だから何なんだ?と首を傾げると、千代音は「ここ…」と写真の一部分を指差す。
(…んん?)
指差す場所を見てみると、そこはベッド脇に置かれたドレッサーだ。
もちろんそのドレッサーの上もフィギュアやら何やらが沢山置いてあって、正直ここで化粧してるとは思えない。
完全に"フィギュア置き場"になっている。
「…あ、…あぁ、これか…」
千代音の言いたいことが分かった。
このドレッサーの中央に、俺が食ってやった激辛チャーハンのオマケだったコースターが飾ってあったからだ。
…つーか、コースターって飾るもんなのか。
「真城君のおかげでコレクションが増えました!」
ズイ…ッ!と前のめりになって言ってくる千代音に、思わず吹き出す。
「…コースター飾るか普通?変な奴…」
でもそうか、よっぽど気に入ったんだな。
つーかだとしてもだ、それを俺に見せるか?
#千代音side ────
(笑った…!へ…変な奴…って…、こ…これってもしかして…!少女漫画あるあるの、"おもしれー女"枠に入ったって事?!)
特に俺様系のキャラは主人公の女の子を「おもしれー女」って言って気にいるパターンが多い。
でもこの流れの漫画だと、主人公は勝ち気で強気な性格の子多い。
私も少し気の強い女の子になった方が良いの?
(ど…どうしよう…!どうすればこの先に進めるの?)
乙女ゲームみたいに攻略本が欲しい…!!
何のヒントもないんじゃ、どう行動するのが正解なのか分からない。
せっかく仲良くなれそうなチャンスなのに…とアタフタしていると、背後から「千代音じゃない?」と声が聞こえた。




