77. あゝ憧れの少女漫画。
図書館に入ると、ひんやりとした空気が肌を指す。
暑い野外にいたせいで、少し汗ばんだ肌に冷たい空気が心地良い。
辺りを見回すと人の少ない壁際の席で、スマホを弄っている真城君の姿を見つける。
緊張しながら近付くと、真城君は私に気付いて(ん?)と首を傾げた。
…眼鏡をしていない事に気付いてくれたんだろうか。
「…早いな、まだ11半にもなってねぇぞ」
…そっちか。
ガッカリしながら頷く。
「うん…その…、用事が早く終わったから…」
…嘘、用事なんてない。
でもそれは言わずに、私は真城君の隣に腰掛けた。
さりげなく下ろした髪をさらりと真城君の前に見せると、私は勇気を出して口を開いた。
「あの…今日カフェの後…」
何処かに行かない?そう言おうとすると、真城君はさっさと立ち上がって私を見下ろした。
「早く行こうぜ、昼になったら混むんじゃねぇか?」
「……あ…うん。そ…そうだね」
髪を下ろしてる事も気付いて貰えなかったか…。
でも大丈夫、カフェでゆっくり話す時間はある。
カフェにいる間に、この後の予定を決めれば良いんだから、焦る事ない…。
(きっと真城君だって、食事して「はい、サヨナラ」なんて思ってないはず…)
私を待たずに歩き出した真城君の後を追った私は、図書館を出た後でさりげなく隣を歩く。
横目でコッソリ真城君を見ると、完璧に整った横顔に心臓がまたしても跳ね上がった。
(か…かかかかっこいい…!!)
私は大学で真城君を見かける度、ずっと見続けてきた。
少し足が速いのも、足が長いから歩幅が大きいのも知ってる。
(それに…)
歩く時、よくズボンのポケットに両手を入れているのも…知ってる。
「……あ」
珍しく今日はポケットに手を入れていない。
しかも、左手はポケットに入れているのに、私が歩いている側の右手だけ出していた。
(ここここ…これは…!!もしかして手を繋ぎたいアピールだったり…!?)
ちらりと手を見ると、大きくてゴツゴツしてる手に、手フェチの私はまたしても心臓を射抜かれる。
(うぅ…、長い指…!!さわりたい…!!)
いや…さすがにここまで来ると、自分の都合の良い方に考えてしまってるだけなのは、冷静になれば分かるんだろう。
だけど今の舞い上がった私はそれに気付けなかった。
ドキドキしながら真城君の右手に手を伸ばす。
もう少しで指先が触れそうになった時、真城君は歩いていた足を止めて私を振り返った。
「…きゃあ!!」
その瞬間我に返った私は、真城君の手を握ろうとしていた手を背中に隠した。
「………」
真城君は不審そうに私を見ている。
…そりゃそうだろう、急に悲鳴を上げれば、誰だって怪しむに決まってる。
「…何かあったか?」
「い…いえ…!ごめんなさい…何でも…」
手を握ろうとしていたなんて、口が裂けても言えない。
「そ…それで?どうしたの?」
慌てて話題を変えようとすると、真城君は「どっちなんだ?」と聞いてくる。
…道順の事みたい。
そうだ、私が案内するって事で大学で待ち合わせる事にしたんだ、浮かれていて忘れてた。
「こっちよ、ごめんなさい…ボーっとしてて」
「いや別にいいけど、…目の下とかクマがスゲーぞ?寝てねぇのか?」
もう、…私のクマを気にするなら、コンタクトにした事とか、いつもと違う髪型とかに気付いてよ…!
何とか気付いて欲しいけど、自分から「コンタクトにしたんだけど、どうかな?」って言い出すのは負けな気がする。
やっぱり真城君の方から気付いて、その事に触れて欲しいもんね。
何とか緊張を隠しながら真城君をカフェまで案内した私は「この店だよ」と真城君を振り返った。
#颯斗side ────
どうにもこの女はさっきから挙動不審だな。
自分から無理に誘っておいて、心ここに在らずの状態だ。
(ま、関係ねーけどな。どうせ飯食ったら終わりだ。むしろボーっとしてんなら、話さずに済むから楽なくらいだ)
とっとと飯食って、とっとと解散したい。
店内に入ると、なるほど女達が好みそうな雰囲気だ。
野郎だけじゃ絶対に入れない雰囲気とでも言おうか…。
どうやらタイミング良く昼時の混雑を避けられたらしい。
待たされる事もなく、案内されるまま席に着くと、カフェ店員はメニューの説明をして去って行った。




