76. 恋せよ乙女!?
食事の後、飯の礼に洗い物をしてやっていると、愛莉はさっさとテーブルを片付けて原稿と筆記用具を並べている。
(そういや漫画家志望だったか、ちゃんと描いてんだな…)
洗い物をしながら見ていると、視線に気付いたらしい愛莉が顔を上げた。
「……何?」
「いや?諦めずに頑張ってんだなーと思っただけだ」
素直にそう言うと、愛莉は「当たり前でしょ」と言ってから、また原稿に視線を落とす。
「どんな話なんだ?」
「うっさいわね、教えないわよ」
「少女漫画なら大和が好きだぞー、読ませてやれよー」
「うっさいって言ってるでしょ!!邪魔しないでよ!洗い物が終わったら、とっとと出てって!」
…自分から誘っておいてこの仕打ち…、なんてワガママな女だ。誘われなきゃ、今頃まだ夢の中にいたはずだってのに。
とは言え、朝から美味い飯を食わせて貰ったのも事実だ。
俺は洗い物を終わらせた後、冷蔵庫の中から適当な飲み物を出すと、原稿に集中している愛莉の前に出して自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると、ソファに投げ出してあったスマホが光っている。
確認すると千代音からだ。
(…今日の食事楽しみにしてます…か)
意味が分からん。
初めて行く店なら分かるが、一度(しかも最近)行ったカフェだろうが。
わざわざ返信する内容じゃねぇと勝手に判断してソファに座ると、俺はテレビを付けた。
まだ千代音との約束まで4時間もあるぞ。
クソ…飯は美味かったが正直寝ていたかった。
♢♢♢♢♢♢
さすがにゴロゴロしていると眠くなるな。
見ようと思いつつ、なかなか見る機会がなくて溜まっていた海外ドラマを数話見終えた。
時間を確認すると、千代音との約束にはまだ少し早い。
(どうするか、このままダラダラしてると寝ちまいそうだな)
そう考えてはいるものの、面倒臭くてなかなか起き上がれない。
(はぁ…、すげー行きたくねぇけど仕方ない)
相手は大和じゃねぇんだ。
約束しちまった以上、バックれる訳にもいかん。
俺は動きたがらない身体に鞭打って立ち上がると、その足で着替えを済ませてそのまま部屋を出た。
またゆっくりしちまったら、絶対に外出したくなくなる。
立ち上がった勢いのまま、出掛けちまうしかないからな。
幸い天気も良く、駅まで歩いているうちに目も覚めてきた。
この感じだと11時過ぎには大学に到着しそうだ。
(1時間くらいなら、図書館で涼みながら待ってりゃいいか)
そうして電車に乗った俺は、珍しく混んでいない電車内でゆっくりとドア付近の端っこに腰掛けて、猛スピードで流れていく景色を眺めていた。
#千代音side ────
11時を少し過ぎた頃。
私は大学構内にあるベンチで、ソワソワしながらスマホを見ていた。
(…楽しみすぎて早く来ちゃった…!)
ここからなら図書館へ入って行く人達の姿が見える。
真城君が来たらすぐに分かるはずだ。
待ち合わせの時間は昼頃だし、さすがに真城君は来てないだろうけど、何度も真城君からの連絡を確認する為にスマホを見てしまう。
(早く来ないかな…)
真城君も楽しみにしてくれてると良いんだけど…。
そんな事を思いながら図書館の方を見ると、真城君の姿を見つける。
(…え…!?嘘!真城君…?だよね?え?こんな早く?)
心臓がバクンッと跳ね上がる。
ドキドキが止まらなくて息が止まりそうだ。
(まさか真城君もこんなに早く来るなんて…)
…でも分かるよ?
楽しみすぎると前日はなかなか寝られないし、落ち着いてられないから早く出掛けちゃうんだよね。
私はバックに入れていた鏡を出して、ササっと前髪を整えてから数回瞬きする。
(うん、大丈夫。コンタクトも痛くないし、髪も乱れてない)
いつもは癖っ毛を気にして後ろで一つに束ねている髪も、今日は下ろして念入りにストレートアイロンを掛けてきた。
(いつもより可愛い…はず…)
メイクはした事がないからメイク用品を持っていなくて出来なかったけど、両親には「アンタは元が良いから化粧なんて必要ないよ」と言われてる。
(…よし!)
私は勇気を出してベンチから立ち上がると、真城君の待つ図書館へ足を向けた。




