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75. 愛莉の朝ごはん。

明日は何を着て行こう?

いつも地味な服だけど、せっかくのデートだし、やっぱり素敵な真城君の隣にいて恥ずかしくない姿で行きたい。


じっとしていられずに、ソワソワと立ち上がると部屋の端に置いてある鏡の前に立つ。


(…やっぱりスカート?あ…、でも大学からカフェまで歩くし、もしかしたら他にも行くかも…。動きやすい服の方が良いかな)


真城君はどんな服装が好きだろう?

色々想像しながら、一人鏡の前でファッションショーをしていた私は、ふと鏡の中の自分の姿を眺めた。

…そこには眼鏡姿の野暮ったい女が映ってる。


(眼鏡…、やっぱり外したいな)


いつか使おうと思っていたけど、なかなか使う機会のないコンタクトがある。


運動したり走ったり、つまり眼鏡が邪魔になるようなシチュエーションでしか使わなかったコンタクトだ。


(使ってみようか…)


それで明日、真城君がコンタクトの私を見て「似合うよ、可愛いよ」って言ってくれるかも知れない。

…そうしたら、もうずっとコンタクトにしよう。


(あぁ…でも真城君は、そう言う事を口に出すタイプじゃないよね)


どうしよう、ワクワクが止まらない。

真城君も明日を楽しみにしてくれてるかな。


(そうだ、明日は昼に図書館でっ事にしたよね。…って事は時間的にカフェでお昼を食べてから、どっか遊びに行く時間もある…)


…うん、やっぱりどこに誘われても良いように、動きやすいパンツルックにしよう。


そうして私は鏡の前で、再び一人ファッションショーを始めた。



#颯斗side ────



翌日、千代音と待ち合わせた時間ギリギリまで寝ていた俺は、目覚ましじゃなくて愛莉の電話に起こされた。


「…何だよ?」


半分くらい脳が寝たまま電話に出ると、耳元で愛莉が怒鳴る。


『寝てたの!?何時だと思ってるのよ!もう7時過ぎてるのよ!いくら長期休みの真っ最中だからって、だらしなさすぎよ!』


…おい…正気か?まだ7時、の間違いだろ。

クソ、9時半まで寝てるはずが…目が覚めちまった。


「それより何だよ、用があるから電話したんだろ」


「あ…そうそう朝ごはん作ったの、父さんが送ってくれた野菜が沢山あったから、大量に作ったんだけど…一緒に食べましょ。待ってるから、顔洗って早く来てね」


そう言うと、愛莉は俺の返事を待たずに電話を切る。

俺は仕方なくベッドから出ると、愛莉の部屋…つまり隣の部屋へ向かった。


隣の部屋の前に行くと、いかにも女の部屋です!と言った雰囲気のデザインの観葉植物が玄関脇の窓際に置いてあり、危機管理のなさに溜息が出る。


(まぁ、すぐ隣は俺ん家だしな…)


何かあれば直ぐに俺が行ける距離ではあるし、この辺りは治安も悪くない。


(…っても、さすがに女の一人暮らしはバレないようにしている場合が多いし、一応用心するように伝えておくか…)


インターホンを押すと、少しの間があって愛莉の声が聞こえる。


「颯斗?開いてるから入って来ていいわよ」


…鍵も掛けてねぇのかよ。

確かに俺たちの住んでいた田舎は、夜寝る時でも鍵を掛けない家が多く、日中なんぞ留守にしてても鍵を掛けない事もあった。

そんな平和な田舎町のクセが出ているみたいだな。


部屋に入ると、煮物の良い匂いがする。

トントントンという包丁のリズミカルな音と、美味そうな匂いが懐かしい。


当然と言えば当然だが、間取りは俺の部屋と同じだ。

キッチンへ顔を出すと、オシャレな内装とテーブルには不似合いな、全体的に茶色い[the田舎!]という料理が並べられていた。


(お、美味そう…、やっぱこういう実家の味!って感じの料理は、俺より愛莉のが器用に作るな…。作り方は同じはずなんだが…)


俺の部屋とは違い、テーブルの置き方で対面キッチン風になっている流しで何かを切っている愛莉に声をかける。


「おい愛莉、留守の時は勿論だが、部屋にいる時も鍵は掛けろよ」


「…分かってるわよ。さっきはアンタが来るから開けておいただけ。それよりこの漬物切ったら持って行くから、食べてて良いわよ」


「おう」


言葉に甘えて椅子に座り、早速煮物に箸を伸ばす。

この小さな丸っこいジャガイモを甘辛くした煮っ転がしは、俺の大好物だ。


(…うん、よく味が染みてる)


それに煮物と言えば、大根を唐辛子と一緒に煮込んだ奴も好きだが、今の時期は大根はあまり美味くないか…。


よそった白いご飯を二人分持ってきた愛莉に、テーブルの上にあった麦茶を注いでやると、愛莉は「いただきます」と行儀よく言ってから箸を手に取る。


「味はどう?煮っ転がしなんかは味が染みるように、昨日の夜から作っておいたんだけど」


「あぁ、美味い」


それだけ言って、次々とごはんとおかずを口に運ぶと、愛莉は穏やかに笑って自分も箸をすすめ始めた。

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