69. 激辛チャーハン食べて下さい。
#颯斗side ────
急に何を言い出すんだと思っていると、千代音はコラボメニューが載っているメニュー表を俺の前に出して来た。
「この牛魔王コラボのチャーハン…なんだけど」
そう言いながら指差したメニューを見ると、牛魔王の住む火焔城をイメージ!と書いてある真っ赤なチャーハンの写真が載っている。
…スゲェ色してんな。
「このチャーハンについてるオマケが欲しいんだけど、私辛いの苦手で…」
困ったように眉を寄せる千代音に、俺は「なるほど…」と呟く。
「…つまり俺にコレを食って欲しいって?」
「は…はい、そうです!苦手でなければお願い出来ないかな?もちろん支払いは私が…!!」
おぉ…、けっこう食い気味に来るな。
そんなに欲しいのか…。
(俺も辛いモンは好きだけど、得意ってわけじゃねーんだよな。…見たところスゲェ辛そうだが…、これ…俺に食えるか?)
メニュー表に載っているコースターには男のキャラクターが描かれている。
なるほど、これが千代音が欲しがってるオマケだな。
千代音を見ると、キラキラした目で俺を凝視している。
…期待に満ちた目で見られると、どうも断りにくいな。
「…あー、良いよ良いよ。食うし払う。辛いもんは嫌いじゃねーし」
「…ホント?!」
別にそんなに喜ぶ事なのか?と思うような事だが、千代音は余程嬉しいのか目をさらに輝かせた。
「でも支払いは私にさせて。申し訳ないので…」
「いや…つっても、食うの俺だしな」
そう言って断ると、根が真面目なんだろうな、千代音は困ったように目をキョロキョロさせ始めた。
…動揺しすぎだろ。
「…じゃ…じゃあ…、あの…代わりに今度何か奢らせて下さい」
「いやだから…、そこまで気にする…」
「それはダメ!あの…今度必ず何か同じくらいの値段…、いえ、お礼も兼ねて少し高い物を奢るから!…お願いします!!」
「…あ…あぁ…」
すごい剣幕だ。
この俺が思わず頷いちまった…。
「あ…、じゃあ…その…。…連絡先…教えてもらえる…かな?」
そう言うと、千代音は俺の前にスマホを出して来た。
「…こ…これ…、私のメッセージのQRです!!」
「…え」
真っ赤な顔でスマホ画面を俺に見せてくる千代音は、緊張しているらしく少し震えてる。
(…参ったな。出来たら連絡先は交換したくねぇんだけど…)
だけどこの状態で断るのも気が引ける。
千代音は既にQRコードの画面を出して待っているのだ。
(…クソ、この女もやりづれぇな。前はもっと大人しくなかったか?)
仕方なくスマホを取り出した俺は、気が進まないまま千代音のQRコードを読み取った。
「…みゆりには言うなよ」
「え?何で…もしかして、みゆりとは連絡先交換してないの?」
驚いたように言ってくる千代音に、溜め息を吐きながら頷く。
「…してねぇよ」
アイツは気づくと俺の生活圏に現れてやたらと関わってくるが、連絡先の交換はしていない。
…つーか、聞かれるが逃げている、が正解だな。
それでなくても鬱陶しいのに、連絡先なんぞ教えたらアホの子みてぇに電話やらメッセやらが来るに決まってる。
♢♢♢♢♢♢
みゆりが戻って来たのはそれからさらに10分くらい過ぎてからだった。
その頃には俺も少しだけ千代音と打ち解けていた。
…打ち解けたと言っても、千代音が好きなゲームの話をマシンガントークしてくるから、俺はそれを聞いていただけで、会話という会話はなかったんだが…。
俺が話す方じゃないから、こうして一人で喋り続けてくれるなら、むしろその方がありがたい。
ようやくみゆりを交えて頼むメニューを決めて、頼んだ激辛チャーハンが届く頃には、俺は既に食べるのも話すのも面倒臭くなっていた。
(あぁクソ…、とっとと帰って一人きりになりたい…)
そんな俺の思いなど知ってか知らずか、みゆりは楽しそうに話し続けていた。
話半分で聞きながら激辛チャーハンを(何とか)完食し、お開きになる頃には、完全に疲れきっていた。
(やっと解放された…、あー…唇いてぇ…)
人気店のメニューなだけあって確かに美味かったが、それにしたって辛すぎだろ。
女向けゲームのコラボって事はターゲットは女のはずだが、メニュー作った奴らの味覚は大丈夫なのか?
…いや、男女問わず、この辛さは余程の激辛フリークしか好んで食わねぇんじゃねぇのか?
これは間違いなくコアな激辛フリーク向けメニューだ。
コラボで出していい辛さじゃねぇぞ。
(…ったく、レポートをやる為に出掛けたはずが、わざわざ金まで払って、食いたくもねぇ激辛チャーハン食うハメになるとはな。これから図書館に戻ってレポートの続き…?いや無理だろ、帰りてぇ)
結局俺は、今回もほとんどレポートを進められないまま帰宅する事になった。




