68. 誤解は解きたい。
「あの…、いつぞやは嫌な気分にさせてしまって、申し訳ありませんでした…」
「…は?」
一瞬何の事か分からなかったが、少ししてホテルの一件だと気付く(三話〜五話参照)。
いや、邪魔したのは俺の方だし、本来なら謝るのも俺のはずだ。
だが千代音は少し顔を赤くしながら、ズレた眼鏡の位置を直す。
「今更ですけど…、本当に真城君が思ってたようなつもりじゃなかったんです。ただ純粋に、私なんかより真城君にベッドを使って欲しかっただけで…」
「……」
…確かに。
冷静に考えれば、男漁りをするようなタイプには見えねぇな。
あの時の俺は頭っから決めて掛かっちまったが、違うんだとしたら、かなり失礼な勘違いをした事になる。
「…そうか、俺の方こそ悪かった。…その…失礼っつーか…侮辱に近かったよな」
「いえ…!!そんな…、勘違いするような行動をとったのは私だから!」
謝る俺に慌てたように両手を挙げた千代音に、俺は気になっていた事を聞いてみた。
「…えぇと…、そのホテルの事なんだが…。アイツ…みゆりに一緒にホテルに泊まった事って話したか?」
「…?…いいえ?」
「…そうか」
少しホッとする。
もし話していたら今は忘れていても、思い出した時にうるさそうだからな。
身に覚えのない事で文句を言われるのは気分が悪い。
取り敢えず安心して胸を撫で下ろすと、俺はみゆりが姿を消した方向に視線を向ける。
(しかし戻ってこねぇな…)
このまま二人きりにされるのは非常に困る。
女と二人きりなんぞ、何話して良いのか分かんねぇぞ。
愛莉やみゆりみてぇに、おしゃべりなヤツなら聞いてりゃ済むが、見たところ千代音は自分から話しかけて来るタイプじゃなさそうだ。
(…ま、良いか。気ぃ使う必要もねぇしな)
そう思ってボーっとしていると、千代音が「あの…」とおずおずしながら口を開いた。
#千代音side ────
久し振りに見た真城君は相変わらず格好良い。
みゆりが真城君と海へ泊まりに行ったと聞いた時も、実はすごく羨ましかった。
(私も…真城君みたいに格好良い人と友達になりたいけど…)
みゆりみたいに、男女問わずに素敵な友達が増えれば、地味な私も少し変われるかも知れない。
けどその前に、真城君と仲良くなるには初対面の時の誤解を、しっかりと解かないといけない。
…いや、全く期待してなかったって訳じゃないから、完全な誤解じゃないんだけど…。
(でも真城君は私が飲み会に参加したのは、男漁りの為だって絶対に思ってる。そこは訂正しておかないと…)
仲良くなる、ならない以前に、そんな事を思われていたのでは恥ずかしくてしょうがない。
私は緊張で生唾を飲み込むと、意を決して口を開いた。
「あの…、いつぞやは嫌な気分にさせてしまって、申し訳ありませんでした…」
そう言うと、真城君はきょとん。とした顔で私を見た。
「…は?」
…これは何の事だか分かってない顔だ。
どうしよう、覚えてない?
それとも私にそこまで興味ない?
でも一緒にホテルに行った…なんて、恥ずかしくて口に出せない。
どうやって伝えようかと思っていると、真城君は思い出したように頷いた。
…よかった。
「今更ですけど…、本当に真城君が思ってたようなつもりじゃなかったんです。ただ純粋に、私なんかより真城君にベッドを使って欲しかっただけで…」
今さら言い訳か?と怪しまれないか不安だったけど、真城君は「…そうか」と頷いた。
「俺の方こそ悪かった。…その…失礼っつーか…侮辱に近かったよな」
「いえ…!!そんな…、勘違いするような行動をとったのは私だから!」
まさか真城君の方からも謝ってくるなんて…!
なんて優しい…!!
これは誤解も解けた今なら、少し期待しても良いんじゃないかな…。
真城君は派手なみゆりタイプな苦手そうだし、私みたいなタイプの方が好みだったりして…。
ドキドキしながら俯いていると、真城君は辺りを見回してから、小声で口を開いた。
「…アイツ…みゆりに一緒にホテルに泊まった事…話したか?」
「…?…いいえ?」
急に何だろう?
みゆりと付き合ってるって話は聞いた事ないけど…、こうやって聞いてくるって事はもしかして…。
(真城君もやっぱりみゆりが好きなの…?)
そう思って真城君を見ると、真城君はみゆりが行ってしまった方を見ている。
私には興味なさそうだ。
(そう…よね、私なんか…)
…いや、いつもこうして恋愛を諦めてきた。
相手が真城君でも真城君でなくても、少しは勇気を出さないと…。
「あの…」
遠慮がちに声を掛けると、真城君は特に気分を害した様子もなく私を見る。
「…ん?」
…いやいや!!
あの…じゃないよ私!!何も考えてない!
話しかけたくせに何も言わない私を、真城君は不思議そうに見ている。
(どうしようどうしよう…!いつも友達と何話してたっけ…?)
話題話題…と思いながらテーブルの上を見た私は、(あ…)と思って顔を上げた。
「か…辛い物って…得意ですか?」
急に脈絡なく話題を変えたせいで、さすがの真城君もキョトンとした顔をしていた。




