67. 推しは尊い。
結局、みゆりに引きづられるようにして図書館を後にした俺は、そのまま二人とカフェに来ていた。
(苦手だ…、この妙に洒落た雰囲気…)
しかもみゆりは、もう一人の女ではなく、しっかりと俺の隣に座っている。
…俺をボックス席の窓際奥に押し込んで、その隣の廊下側に座っているから逃げようがない状況だ。
(クソ…、何の因縁なんだ)
仕方なく諦めて窓から外を見ていると、二人はメニューを見ながら騒いでいる。
ちらっとメニュー表を見ると、二人は別々のメニューに騒いでいるようだ。
みゆりが見ているのは写真映えしそうなスイーツ。
…ぜってー食い切れなそうなボリュームのパフェだ。
(なるほどな、そういや愛莉がSNSで人気のスイーツカフェが大学近くにあるって言ってたな。みゆりはSNSやってそうだし、目当てはスイーツの写真か…)
そしてもう一人の女が見ているのは…。
(…ん?コラボメニュー?)
そのメニューにはデカデカと【異世界戦国恋歌コラボ!】と題してある。
イケメンのイラストが大量に描かれたメニュー表を、食い入るように見つめている女は、牛魔王様…!と呟きながらニヤニヤしてやがる。
つまりコイツらは利害一致でカフェに来たわけだ。
「…ゲームか何かとのコラボメニューか?」
つい声に出して言うと、目の前に座った女は目を輝かせて俺を見た。
俺を見る女の目は、人間こんなに目を輝かせる事が出来るのか?と言うくらいに輝いている。
「そう!真城君知ってる!?異世界戦国恋歌!」
「い…いや…、知らねえけど…」
つーか、こいつ名前なんだっけ。
さっきから考えてるんだが思い出せねぇ。
「いま人気の乙女ゲームなの!ゲームから始まって、今はアニメとか2.5次元とか…。全キャラ好きなんだけど、中でも私が一番好きなキャラはラスボスキャラ。この牛魔王様がそうなんだけど、このルートは悲恋であまり人気がなくて、今までグッズとかが出てくれな…」
「ちょっと千代音暑苦しい、こんな所でオタクみたいな話やめてよね」
…ナイスみゆり。そうだ、千代音だ。
一度会ってる手前、名前聞けねぇから助かったぜ。
だがみゆり、友達にそれはなくねぇか?
「まったく…、せっかく素敵なカフェなのに、ゲームとコラボなんてさー。さっきの女見た?ジャラジャラとアニメキャラのキーホルダーなんかつけちゃ…」
「おい、みゆり」
聞いていてムカついてくるぞ。
他人に人様の趣味をとやかく言う権利はねぇだろう。
そう思って止めようとすると、千代音がクスクスと笑った。
「…あ…良いのよ、真城君」
「…は?」
「みゆりはいつもこうなのよ、でも文句言いながらも私の趣味に付き合ってくれるし、今回カフェに来たいって言ったのも私だから。このカフェのスイーツなら、前に他の友達と来ていて食べているし写真だって撮ってるのに、わざわざ付き合ってくれたの」
「…へぇー…、お前がなぁ…」
「は…?何よ?その顔…、…ッと…、ん…ンン…ッ、あ…当たり前じゃない。千代音は私の一番長い友達だもんー」
一瞬だけ、いつもの俺に対する口調とは、全く違う話し方で言いかけて、慌てて甘えた口調で言い直すみゆりに、俺は溜め息を吐く。
(…いま少し地が出たな)
「…一番長い?大学で知り合ったんじゃねぇのか?」
「そうなの、千代音とは小学校からの付き合いなのよねぇ」
「へぇ、幼馴染ってやつか」
幼馴染と聞いてつい愛莉を思い出すと、みゆりが笑顔のまま俺を見た。
「…いま誰を思い出したの?」
「…い…いや、別に誰も…」
…つーか、それこそお前に関係ないだろ。
なんで俺が悪い事してるみてぇにドギマギせにゃならんのだ。
とは言え、何となく目を逸らすと、間近で着信音が鳴り出した。
「…あ、私ー。友達からだ、ちょっとごめんねぇ」
そう言って立ち上がると、みゆりはスマホを手に席を外す。
(…帰るならチャンスだが…)
ちらりと千代音を見ると、推しらしいキャラクターのコラボメニューで迷っているようだ。
「んー、ホントは描き下ろしイラストのオマケがついた激辛チャーハンが良いんだけど…、でも辛いの苦手だし…、ドリンクのコラボは美味しそうだけど、オマケのコースターが既存絵だからなぁ…」
俺の姿なんぞ目に入らない様子でメニューと睨めっこを続けている。
(今のうちに帰りてぇけど、どうも話しかけにくい…)
かと言って、このまま帰るのもどうもな…。
さてどうするか…と、千代音を見てると、視線を上げた千代音と視線がかち合う。
「あ…、すみません!メニュー見るよね?…あ、これ通常メニューです!どうぞ!」
「…あ…あぁ…、悪い」
特に何かを食おうなんて思ってなかったが、手渡されるままメニューを受け取る。
すると千代音はメニューを閉じて俺を見つめてきた。




