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61. さらば、名残惜しき海の家。

4人揃ったところで一階の大和の家族に挨拶を済ませて外に出ると、すでに駐車場にはサムの赤いスポーツカーが停まっていた。


マリンも来たがっていた(正確には俺に会いたがってた)

らしいが、車に乗れる人数的にアウトという事で自宅にいるらしい。


「颯斗、これはウチにあるパソコンのアドレスだ。暇な時にでもマリンにメールやってくれないか」


「…はぁ、メールくらいなら…」


サムには世話になったし、まぁマリンにメール送るくらいなら、特に手間でもない。


アドレスが書かれたメモを受け取ると、サムのメッセージIDも書かれている。

…何でお前の連絡先も書いてあんだよ。

まさかマジで俺を娘の婿にしようとか考えてねぇよな?と思いつつ、黙って手帳型のスマホケースの中にしまう。


全員がサムのスポーツカーに乗り込むと、みゆりが名残惜しそうに口を開いた。


「あーあ…、これで海もしばらくお別れねぇ…」


「そうね、バイトは忙しくて大変だったけど、楽しかった。…連れて来てくれてありがとう大和さん」


みゆりに続いて愛莉がそう言うと、大和は嬉しそうに頭を掻く。


「愛莉ちゃんだけなら、俺がまた連れて来…」


「サムさん、もう2度と来ないかも知れないし、私もマリンちゃんにメール送っても良いですか?」


……2度と来ない。をさりげなく強調する愛莉の言葉には、大和を拒否する意図が完全に見えている。

ここまで拒否されてるのを見ると、哀れを通り越して笑えて来るな。


可哀想に、サムも苦笑いしてるぞ。


(…それにしても…)


窓の外を通り過ぎて行く海を眺めると、砂浜には海水浴客が集まり始めていて、遠目にはしゃぐ奴らを見ていると俺たちだけが日常に戻るのが少し悔しい気がしてくる。


俺も少し浮かれていたのか…。

明日からはまた、いつものクソみてぇな日常なんだと思うと気が滅入るな。


そんな俺の心を見透かしたように、大和が大袈裟な溜め息を吐いた。


「いいなぁ…、海水浴…。俺も海に入りたかったー」


「遊びに来たんじゃねーだろ、バイトに来たんだ」


「そうだけどさー、せっかくなら海で女の子捕まえて、一夏の恋とかしたかったよなー」


…大和、お前…そういうとこだぞ、愛莉が嫌ってんのは。


「それでさ、東京に帰って再会なんかしちゃったら…それはもう運命だよな!?」


「妄想は大概にしろ、ドラマの見過ぎだ」


白い目を向けると、サムが豪快に笑う。


「相変わらずなんだな、大和」


「…ん?」


何の事だとサムを見ると、サムは前を向きながらチラッと大和に視線を送った。

その目はからかっているようにも見える。


「大和は子供の頃から少女漫画が大好きで、漫画みたいな恋愛を夢見て…」


「うわぁああ!兄さん!それは秘密って言ったのにー!!」


…少女漫画?

少女漫画って言ったのか今?

少女漫画みてぇな恋愛って…、アレか?


「…パンをくわえた転校生と曲がり角でぶつかって、学校で再会するとかいうやつですか?」


「転校生初日なのに寝坊して、目覚まし時計止めながら遅刻遅刻ー!!とか言って家を出るやつー?」


俺が考えた事と似たような事を愛莉とみゆりが聞くと、大和は「アハハ…」と乾いた笑いを見せる。


「…それ古いよ二人とも…、ネタが昭和だよ。今の時代、パンくわえて走ってる女の子なんかいないよ」


元ネタ知らねぇけど、昭和だっていねえよ。


そもそも目覚まし時計に起こされてんのに、もうこんな時間!?とか、そこからおかしいよな。

その時間にアラーム設定したの自分だろ。


あれか?

昭和の目覚まし時計は、設定した時間通りにアラームが鳴らなかったのか?反乱でも起きてたのか?


愛莉とみゆりにからかわれている大和を見ながら、つい笑ってしまう。


(…っと…)


笑った顔なんぞ大和が見たら、チャンスとばかりに(いじ)りのターゲットを俺に変えて来るに決まってる。

慌てて窓の外に顔を向けて真顔を作る。


だが窓の外には、もう海も砂浜も見えなかった。



♢♢♢♢♢♢




駅に着いて車から荷物を下ろすと、サムが大きな手を出して来る。

最後だし、断るのも無粋だろうとその手を握り返すと、サムは俺を強く引き寄せて、耳元で小声で話しかけて来る。


「…じゃあな息子、大和を頼む」


…このネタいつまで続くんだ。

連絡先の交換しちまったし、まさか定期的に連絡来たりしねぇよな?

いらねぇぞ?お前の娘は。


大和や愛莉にみゆり、それぞれがサムと挨拶を交わすと、サムは白い歯を見せて笑いながら、赤いスポーツカーで去って行く。


(…それにしても夏が似合う男だな)


…わざわざ来る事はないが、来年大和が誘って来たら、またバイトに来てやってもいいな。


そんな俺にしては珍しく後ろ髪引かれる思いで、海の家のバイトが終了した。

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