54. 伝えたい思い。
#颯斗side ────
ベランダに出ると、愛莉が俺を黙って見つめている。
いつもと違う雰囲気だ。
こんな顔をしてる時は、決まって俺に言いたい事があるけど、素直に言えないパターンが多い。
最近でこんな顔をしてるのを見た時は、まだ地元にいた時だ。
俺が高校に入ったばかりで、通学用に買ってもらった原付を気に入って毎日乗り回していた頃だったな。
愛莉も原付免許を持っていたが、まだ原付自体は持ってなくて、遠出する時にどうしても使いたかったって、勝手に俺の原付を乗って行ったんだ。
(その時にアチコチ擦ったりぶつけたりして、ボロボロになって戻って来たっけ…)
俺は愛莉が原付を乗って行ったのなんて知らなかったから、誰かが原付にイタズラでもしたのかと思ってた。
何年もしてから、ずっと謝りたかったけど言えなかった。って、愛莉に頭下げられたっけ。
(その頃には原付なんてどうでも良かったから、大して気にもしなかったけど、あの時の愛莉も、俺と会う度にこんな顔してやがったな)
何か言いたい事があるけど、どうしても勇気が出なくて言い出せない。
つまりそんな時の顔だ。
(はぁ…、どうせ今回もなんかやったんだろ…)
俺は愛莉に近付くと、ベランダの手すりに寄り掛かりながら口を開いた。
「何だよ、怒らねぇから言ってみろ」
「…え?」
「……ん?」
違うのか?
愛莉はまるで何の話か分からないという顔で、首を傾げながら俺を見ていた。
#愛莉side ────
一体全体、何を言い出すの、この男は…。
何で私が何かやらかしたー、みたいな感じになってんの?
今から告白されるなんて、全く想像すらしていない颯斗に力が抜ける。
「…違うのかよ?言いたい事があるけど言いづらい…、みてぇな顔してるから、てっきり何か怒られるような事をしたのかと…」
「…はぁ!?私の事なんだと思ってるワケ!?」
「だってお前…地元にいた頃、悪さした時とかそんなツラしてたぞ?」
「もう子供じゃないのよ!って言うか、歳は同じでしょう!?子供扱いしないでよ!颯斗のくせに!!」
つい怒鳴ってしまった。
これじゃあいつもと変わらない。
私は冷静になろうと一つ咳払いをしてから、颯斗に向き直った。
「は…話さないと…いけない事があって…」
「話す?」
「あ…、えっと…伝えたい事…?かな?」
「…ふーん、…で?何なんだ?その伝えたい事ってのは」
どうせ大した事ないだろ、と言いたげに見てくる颯斗に、思わず言葉が詰まる。
このいつもの飄々とした顔が、どう変わるのか、怖くて身体が震える。
でも態度で示しても、この鈍感男は気付かないのは、昨日の事で分かってる。
ちゃんと、言葉にしないとダメだ。
「は…颯斗…、私…」
私を見つめる視線が全く逸れない。
颯斗は真っ直ぐに私を見つめている。
私はドキドキしている胸を押さえると、勇気を振り絞った。
「私は颯斗が…」
#大和side ────
颯斗もどっか行っちまったし、一人で部屋にいても暇だ。
愛莉ちゃんかみゆりでも誘って、少し飲むかーと女の子達の部屋に行ったけど、誰もいなかった。
(…あーあ、誰もいないのかよー。愛莉ちゃんどこ行ったんだろ?)
みゆりは完全に颯斗ロックオンで脈ないし、愛莉ちゃんと仲良くなれないかなーと思ってたけど、どうも愛莉ちゃんは俺を警戒してる。
(…そりゃ初対面で下着を漁ってたけどさー)
あれは事故だし?
バックの中を漁ってた時、別に下着だと思って手にした訳じゃない。
たまたま手に取ったのが下着だっただけだ。
(……可愛らしいブラだったなー、まだ子供っぽさが抜けてない感じが良いよな、愛莉ちゃん…)
みゆりのセクシーな感じも良いけど、彼女にしたいのは愛莉ちゃんだ。
良いなぁ颯斗…、あんな可愛い幼馴染がいるなんてさぁ。
俺だったら、あんな可愛い幼馴染がいたら、幼馴染という立場を利用して、あんな事やこんな事ヤっちまうだろうな、うん。
(颯斗に聞く限り、マジで兄妹同然の幼馴染みてぇだし…、頑張ってみよっかなー)
そんな事を考えながらキッチンに行き、冷蔵庫の中から缶ビールを2本取り出す。
とりあえず一杯、と言う事で一気に飲み干しながらリビングに戻ると、缶ビール片手にタバコを咥えて火をつける。
「…ふー…ッ」
深く吸い込んだ紫煙を吐き出しながら、何となく辺りを見回すと、ちょうどベランダに面した窓から、愛莉ちゃんの姿が見えた。
(…!!いた…)
俺は持っていた缶ビールをテーブルの上に置くと、ベランダに向かった。




