46. 続・颯斗VS大和&みゆり。
さすがに客商売だけあって、キッチンは広い。
お互いに別々のテーブルを使って、それぞれ具材を用意する。
因みに材料は魚介類だ。
今朝早くに届いた新鮮な魚介類を、大和の叔母さんが2階にも分けてくれたらしい。
「材料は同じ、つまり条件は同じだ。この材料でどれだけ美味い物を作れるかの勝負だ」
「楽しそうね!頑張りましょ大和!」
そう言って腕まくりをするみゆりは、もうあまり怒ってなさそうに見える。
元が単純だからな、怒ってる理由を忘れさせちまえば簡単だ。
「よし、始めるか」
その言葉で、それぞれが思うままに調理を始める。
俺は料理は得意だが、細かい事は気にしないタイプだ。
適当に捌いた魚を、煮だった鍋に放り込む。
一見、乱暴に見えるが、材料に合った味付けや方法で調理すれば、意外と美味くなるもんだ。
(あいつらは…)
チラッと二人を見ると、案の定、悪戦苦闘してやがる。
「きゃあ!大和!このイカ動いてる!」
「おぉ、新鮮だね!」
「美味しいかしら?」
「新鮮なんだから美味いだろ?…よし、そのまま鍋に放り込もう」
「このまま?ハラワタとか取るんじゃないの?」
「え?そうなの?俺取れないよ?」
「私も無理ぃー」
「じゃあこのまま入れようぜ、珍味って事で」
「そうねぇ。あ、野菜はどれを入れる?」
「いっぱいあると迷うな…」
「全部入れちゃおうか?色んな味がして美味しいかもぉ」
「良いね!調味料も沢山入れれば、その分美味しくなりそうだよな!」
「あ!冷蔵庫に栄養ドリンク入ってるー!コレも入れない?朝ごはんだし、一日元気で過ごせるようにさー」
「さっすがみゆりちゃん、良いアイデア」
次から次へと、耳を塞ぎたくなる会話が聞こえて来る。
正気なのか?
(バカなのか…!?冗談じゃねぇぞ、あのアホコンビが…!)
あまりの恐ろしさに、隣の二人を見てみる。
そこには、和気あいあいと材料を刻む、大和とみゆり。
そして、二人の間にある鍋からは、必死に逃げようと暴れるイカの足が見えている。
(本気で丸ごと入れやがったのか!!)
怪しげな物を作っている二人の口からは、次々ととんでもない発言が飛び出し、寒気がする。
勝負を捨ててんのか?それとも素なのか?どっちだ?!
(俺も味見すんだぞ…!わざとやってンじゃねぇだろうな、あいつら…!)
勝負の結果よりも、お前ら二人が作ったモンを食うことの方が恐ろしいわ!!
そうして、思わず手を出してしまいそうになるのを我慢して、俺たちはそれぞれの料理を作るのだった。
♢♢♢♢♢♢
数十分後。
やっと出来上がった料理を並べて見比べる。
あぁ…、ダメだ。無理だ。
バカ二人が作ったモンは、料理じゃねぇ。
「さ、試食にしましょ?今回は美味しく出来たわよ、ね?大和」
そう言うと、みゆりは自信作らしい鍋を覗き込む。
何処をどう見れば、美味そうに見えるんだ?
「そうそう!俺も美味しく出来たと思う!」
そう言うと、二人は作った料理を俺の前に出して来る。
「見て?具材盛り沢山にしたのッ!どんな味がするのかしら」
(…味見してねぇのかよ!!)
楽しそうに頷き合う二人を見る限り、味見をしてなさそうだ。
…本気か?食わせる気か?それ!?
「じゃあ真城クン食べてみて、私達は真城クンの料理を食べるわねぇ」
具材が盛りに盛られた皿を、諦めて受け取る。
同じく大盛りに具材を乗せた皿を二人に差し出す。
「…良い匂ーい、私達のとは匂いが違うわね。私達のはもっと独創的な匂いだし?」
「匂いより味だよ、大丈夫。俺たちのも美味しいよ」
俺の作った料理をじろじろ見ながら話していた二人は、お互いに顔を見合わせる。
「そうよね、よしッ!いっただきまーす!!」
今度はみゆりの言葉を合図にして、お互いの料理を口にする。
その瞬間、潰れた蛙のような悲鳴が辺りに響き渡った。
…俺の声だ。
「…えッ!?ど…どうした颯斗!?」
「ぅ…ぐぐ…、ぅうう…」
どうした?じゃねぇ…!
怒鳴ってやりたいが、あまりに衝撃的な味のせいで、声が出ない。
すると、みゆりが嬉しそうに大和を振り返る。
「やったぁ!!勝ったわよ大和ぉ!」
「勝ったな!」
「…ッぐ…、てめ…ら…!目的…変わって…ンじゃね…か…」
何を勘違いしてやがる!
こんなモン作っておいて、勝った気でいやがんのか!
震える声で何とか抗議すると、二人は顔を見合わせた。
「何だよ颯斗、素直に敗けを認めろよー」
「そうよぉ?最初から真城クンを唸らせれば私達の勝ちって話だったじゃない」
「唸るの意味が違ぇんだよ!!!」
自分達の勝利を微塵も疑ってねぇ二人は、あまりの不味さで悶絶してる俺を見下ろしながら、俺の作った料理を食っている。
後から起きて来た愛莉がキッチン内の惨状を見て、悲鳴をあげたが、俺はそのまま動く事が出来なかった。




