45. 颯斗VS大和&みゆり。
その瞬間。
テーブルに突っ伏していた大和が、弾かれたように飛び起きる。
「あ…ぁわわ…」
「…?何だ?どうした大和」
すごい勢いで顔を逸らした大和の青ざめた顔は、何かとてつもなく恐ろしい物を見たかのようだ。
「おい…、何なんだ?」
何があったんだとみゆりを見ると、みゆりは小皿を用意しながら俺の前に座り込む。
「今日はぁ、なんか朝早く目が覚めちゃったから、朝ごはんを作ったの」
「…へぇ?お前が?」
みゆりに料理をするイメージはなかったな。
意外な一面だ。
「…ぅう…、颯斗…駄目だ…食べちゃ…、駄…」
大和が何かを言いかけると、みゆりが素早く大和の顔をテーブルに叩き付ける。
「…ふべッ!?」
「…?」
何だ…何なんだ?
今大和は何を言いかけたんだ?
どうしたものかと鍋を見ていると、みゆりが鍋のフタを開けた。
「…ッ!!?」
凄まじい臭いがする。
異臭だ、これは間違いなく人間の食い物じゃねぇ。
大和がなんで瀕死なのか、今さらだが分かった気がする。
…これは確実に、食ったらヤバいやつだ。
「ね?頑張って作ったのよ?大和は良いからぁ…、真城クン食べてくれるわよねぇ? 」
…ど…どうする?
これは断れない雰囲気だ。
ハッキリ言って食べたくねぇ、だけど大和みてぇに暴力に訴えられるのもイヤだぞ。
「…いや、俺は腹減ってな…」
「真城クン?せっかく早起きして作ったのよ?」
アホが!何が「せっかく」だ!
なんか早く目が覚めちゃったから作ったって、さっき自分で言ってただろうが!!
何で、わざわざ早起きしましたー。…みてぇに言ってんだ!!
「い…いや…」
「…良いからとっとと食えよ」
俺がなかなか手を出さずにいると、みゆりは低く呟く。
…おい、いつもとキャラ変わってんぞ。
(クソ…、逃げられねぇか…!)
食えば間違いなく、隣の大和みてぇに瀕死になる。
だけど食わないと後が怖そうだ。
俺は諦めて箸を手に取ると、深く深呼吸した。
──しばらくお待ち下さい──
「それで?どうだった?」
なんだ、その笑顔…!
美味しかったとでも、言って貰えると思ってんのか!
一歩間違えたら殺人事件だぞ!
「う…ッうぅ…うッ…う…、ま…ま…ま…」
…まずい……!!
言葉で説明できる味じゃねぇ…!!
「え?うまい?」
「…違うわ、このアホが!どうだった?…じゃねぇよ!殺す気か!!」
「えぇー!?みゆりオリジナルの煮物なのよ?」
「オリジナルっつーのは、基本が出来て、初めて作るんだ!」
間違いない。この女は料理が出来ない。
しかも壊滅的に、だ。
「何よぉ失礼ね!そんなに言うなら、真城クンは上手なんでしょうね?」
「なッ…お前…」
この俺に言うか?
自分で言うのも何だが、俺は家事全般は得意中の得意だ。
「…てめえ、馬鹿にしてんじゃねぇぞ?」
「じゃあ作ってみて?」
「面白ぇじゃねぇか、作ってやるよ」
そう言うと、みゆりは大和を振り返った。
「…アンタも散々言ってくれたわね…」
「…え?」
話を振られるとは思っていなかったらしい大和は、動揺したように俺とみゆりの顔を見比べている。
「俺…!?」
「そうよッ、人の料理にケチつけるんだから、まさか作れるんでしょ?」
「いや…、俺は料理は…」
だろうな。
大和は料理なんてやるタマじゃねぇからな。
アワアワしながら、泣きそうな顔で俺に助けを求める大和に溜息を吐く。
「…おい、大和は無理だ。勘弁してやれ」
確かに自分では何もやらず、人に文句だけ言うのは筋違いだけどな。
「ダメ!絶対作って!」
怒り心頭らしく、みゆりは大和を睨んでいる。
…このアホが。俺が来る前から、かなり怒らせたっぽいな。
…仕方がない。
「じゃあお前ら二人で作れよ。大和のアホに、料理がいかにクソ面倒くせぇかを教えてやれ。それで良いだろ」
三人寄れば文殊の知恵っつーが、二人でもアイデア出し合えば、何か食えるもんが出来上がるだろ。
「俺を唸らせる料理が作れたら、バカにした事を謝ってやる。せいぜい大和に手伝って貰って、美味いもんを作るんだな」
そうして、何故か朝っぱらから、俺VSみゆり&大和の料理対決をやる事になった。




