41. いつも通りに。
だけど、いくら待っても颯斗からのキスが来ない。
(……?)
どうしたのかと目を開けると、颯斗はさっきと変わらない顔で私を見つめていた。
「…颯斗?」
ここまできて、何を迷ってるの?
やっぱり私からもう少し勇気を出さないと駄目かしら…と思っていると、颯斗は「そんなに…、怖かったのかよ…」と、よく分からない事を言い出した。
#颯斗side ────
どうしたってんだ。
ずっと俯いて黙りこくりやがって…。
「…愛莉…?」
起きてんのか?
まさか寝てんじゃねぇだろうな?と名前を呼ぶと、愛莉は顔をあげて、いつもの顔を見せた。
「何よ?」
……?
いや。いつも通り、だな。
「あ…、いや…。…花火行こうぜ、アイツら待って…」
そう言って歩き出そうとすると、後ろから愛莉が抱きついて来た。
予想外の出来事に、身体が固まる。
「…???」
…なんだ?
何が起こってる?
(さっきのみゆりもそうだが…、なんだ?どいつもこいつも…!!)
ここは日本だぞ、アメリカじゃねぇぞ。
スキンシップもアメリカでは普通だが、日本ではやらねぇぞ!
いくら夏とはいえ、盛り過ぎじゃねぇのか!?
(……ッ!?…いや…まさかコイツ…)
ギュッと目を閉じて、俺の背中に抱き付いている愛莉を振り返る。
「愛莉…、お前…」
思ったとおりだ。
愛莉の小さな身体が少し震えてる気がする。
「そこまで…だったのか?そんなに…怖かったのかよ…」
「…は?」
思えば、辺りは真っ暗だ。
いや、民泊の明かりは当然あるが、辺りは一面暗闇。
今にも林の中から、何か恐ろしい物でも出て来そうな、そんな雰囲気は確かにある。
怖がりの愛莉がこんな場所に一人でいるとは…。
悩みの原因は知らねぇが、余程深い何かを考えていたのか。
「…ったく、怖がりのくせに一人で…、とっとと大和達んトコ行くぞ」
背中に抱き付く愛莉の腕を掴んで、歩き出そうとすると愛莉は俺の手を物凄い勢いで振り払った。
「…ッ!?いって…」
「バッカじゃない!!?」
「はぁ?おま…」
「誰が怖がり?え?誰が?別に怖くないわよ!バッカじゃないの!!?」
いやお前…、バッカじゃない?って、2回も言うか?
俺にも傷付く心があるんだぞ?
「幽霊なんかいないって言ってるでしょ!?バカ!このバカ!」
「そ…そんなに怒るか?」
「アンタがバカだからよ!この鈍感バカ!!」
「ど…どんか…」
「行くわよ!」
そう言うと、愛莉は俺を置いてスタスタと行ってしまう。
何なんだよ。
いつもと違って、随分しおらしいと思えば、急に起こり出して…。
ほんっと分からん女だな。
けどまぁ、いつもの愛莉に戻ったみてぇだし、とりあえずは安心か。
あんな、らしくない姿は見たくねぇからな。
俺は小さく息を吐くと、愛莉の後を追いかけた。
♢♢♢♢♢♢
花火をしてる大和達の所へ戻ると、大和が手を振ってくる。
「あ、やっと来た。愛莉ちゃーん!!」
名前を呼ばれた愛莉は、少しだけ頭を下げてから二人の所へ寄って行く。
「すみません、あの…時間見てなくて…」
「あー、良いよ良いよ。それより好きな花火どーぞ」
気にもしてない様子で花火を差し出してくる大和に、愛莉はホッとしたようだ。
どれにしようかな…と言いながら花火を選んでる。
すると、みゆりが愛莉に近づいた。
#愛莉side ────
気を取り直して花火を楽しもうと選んでいると、隣にみゆりさんがやって来た。
「……」
視線だけを向けると、にこやかな笑顔で私の耳に唇を寄せて来る。
「ハッキリと言ってやったのに、全然平気そうー」
「…貴女の言う通りだったし、けっこう効いたわよ。でも大丈夫」
花火を選びながら答えると、みゆりさんは「ふーん…」と私から離れた。
「なら良かったぁ」
「…は?」
「実はぁ…、言いすぎたかかなー?って気になってたの」
随分と勝手な事だ。
好き勝手に言っておいて、後から言い過ぎた事を気にするなんて…。
黙ったまま選んだ花火に火を付けると、大和さんが耳ざとく話を聞き付けて割り込んできた。
「何々?何の話?」
「別に何でもありませんよー」
そう言って花火を向けてやると、大和さんは「うわッ」と背後へ飛び退いた。
「愛莉!花火を人に向けるな!」
離れた所から颯斗が怒鳴る。
だけどその颯斗の顔も、花火を向けた大和さんの顔も。
…そして私の顔も、みゆりさんの顔も、皆んないつもの笑顔だった。




