39. 夏の夜の夢。
俺の姿を見るなり、みゆりは嬉しそうに駆け寄って来る。
「真城クン!見つけた!」
「…何だよ?」
「部屋に行ったら誰もいなかったからさー、探しちゃった。ねぇ、花火まだやらないの?」
「今大和が風呂だ、出て来たらやるだろ、…多分」
「真城クンは?お風呂まだ?」
「俺は寝る前に入りたいんだよ、関係ねぇだろ。…って、だからくっつくな!」
相変わらず、当然のように腕を絡めて来るみゆりから、逃げるように距離を取る。
風呂上がりのいい匂いがしたな。
…って!変態か俺は!
「ねぇ真城クン…」
「あぁ?何だよ?」
「真城クンって、私の事どう思う?」
…は?
急に何を言い出すんだコイツは。
「…な…、どう…って…」
思わず声が裏返る。
どうも何もねぇだろ?
女は嫌いなんだ、はっきり言えば良い。
それなのに…夏の夜の特別な雰囲気のせいか?
いつもは気にならねぇのに、みゆりの姿が妙に色っぽく見えて、上手く言葉が出ねぇ。
「前にも言ったけど…、私は真城クンが好きなんだよ?」
そう言うと、みゆりは俺に近づいて、来て正面から抱き合うみてぇに身体をくっつけて来る。
(…やめろ、何だよ?離れてぇのに…)
何故か離れられない。
みゆりの細い首筋と、そこからつながる、胸元の大きく開いた緩いTシャツから覗く、柔らかそうな二つの膨らみから目が離せない。
つい生唾を飲み込んでしまった。
ごくりと鳴る喉の音は、きっとコイツにも聞こえただろう。
「…離れろ」
「えー?やだー」
「…みゆり…、今俺少しおかしいんだ。…頼む」
「……」
素直に言うと、みゆりは少し黙ったまま俺を見つめて、ゆっくりと離れた。
「…わりぃ」
「え?らしくなーい、謝るなんて」
「……」
確かに、らしくない。
やっぱり少しおかしいんだ。
「…ねー、今動揺してたのってぇ…、私の事を意識してたった事よね?」
「…?…は…はぁ?!」
「あはは!一歩ぜんしーん!」
「何が一歩前進だ!何も進んでねぇ!!」
「可愛いー、真城クン顔真っ赤だよ?」
「…ッ!?」
クソ!からかわれてる!
「…ちッ」
こんな所にいつまでもいられるか。
俺は笑うみゆりを置いて、逃げるように部屋に戻った。
後ろから、「また花火でねー!」と言う声が聞こえて来たが、それは無視した。
♢♢♢♢♢♢
部屋に戻ろうと階段を上がると、ちょうど風呂上がりらしい大和がビールを片手に窓際に立っている。
「…お、風呂出たぞー」
「おぅ、花火すんだろ?みゆりがまだか?って言ってたぞ」
「お前風呂は?」
「寝る前に入る、せっかく風呂に入ってサッパリした後に、外になんか出たくないからな」
「そか、じゃあ女の子達に声かけて海行くか!」
行くか。と言っても、家を出て民泊の駐車場を出たら、もう目の前はすぐ海だ。
大和はサムが用意したという花火を持って来ると、女共の部屋に声を掛けた。
「おーい!みゆり!愛莉ちゃーん!花火行こーぜー!」
そう言ってノックすると、すぐにドアが開く。
顔を出したのはみゆりだ。
「はーい!」
(…?)
出て来たのはみゆりだけで、愛莉が出てこない。
少し部屋を覗き込んでみるが、中にはいないらしい。
「おいみゆり、愛莉はどうした?」
「…さぁ?」
「さぁ?…って…」
「散歩じゃないの?せっかくの海だもん、部屋にこもってるのは、もったいないし?」
「………」
愛莉は確かにアクティブな女だが、怖がりのアイツがこの初めて来た場所…。
しかも田舎で街灯なんかほとんどない、真っ暗な所を一人で散歩?
(らしくねぇ…気がするけど)
「おい、行くぞ颯斗、愛莉ちゃんは海に向かいながら探そうぜ」
「…あ、あぁ」
まぁ、確かにここで気にしていても意味はないな。
花火をやるってのは言ってあるし、スマホだって持ってる。何かあれば自分から連絡してくるだろ。
♢♢♢♢♢♢
だが海まで行っても愛莉は見つからなかった。
民泊の敷地もそんな広くねぇし、見つからないはずないんだが…。
(何してんだアイツ…、花火とか大好きなくせに)
そんな事を考えていると、大和が打ち上げ花火を砂浜に設置している。
「打ち上げ?大丈夫なのか?」
「そんな規模の花火じゃねぇって。それにこの辺は民家ないし、許可は貰ってるから大丈夫だよ。あ、手持ち花火もあるからな」
「えー、じゃあ手持ち花火からにしよーよ。打ち上げはラストに取っておこ?」
みゆりが手持ち花火を物色しながら言うと、大和はそう?と言って、袋から大量の手持ち花火を取り出した。
「好きなのどうぞ」
「あ、これ綺麗!七色に変わるって!…ね、真城ク…」
笑顔で話しかけて来るみゆりに、俺は軽く手を挙げると背中を向けた。
「わり、オレやっぱ愛莉探して来るわ」
「…そうか?この辺りは特に物騒じゃないし、心配する事ねぇと思うけどな」
愛莉が怖がりなのを知らない大和は、何でそんなに心配なんだ?と首を傾げている。
「見つけたらすぐ戻る」
そう言うと、俺は民泊へと戻った。




