38. 恋バナ。
「…え?何よ、急に…」
「えー?ただのぉー、恋バナ?」
軽口みたいに言ってるけど、目は本気だ。
間違いなく、私の本音を聞きにきてる。
「…私と颯斗はただの幼馴染よ、変な事言わないでよ」
「…ふぅーん?」
素直じゃない、分かってる。
きっとみゆりさんも気付いてる、私が颯斗を好きだって。
聞いて来たのは、単なる確認と…多分、私の反応を見るためだ。
でも口に出して誰かに言ってしまったら、何かが壊れてしまいそうで、素直に言葉に出せない。
「そう言うみゆりさんは?ずいぶんと颯斗にご執心みたいだけど?」
だったら私も聞いてやる。
どう返す?と思っていると、みゆりさんは笑顔で頷いた。
「えー?私は好きよ。真城クンかっこいいし、ぶっきらぼうで冷たそうに見えるけど、ホントは優しいし」
めっちゃ好み!と楽しそうに話すみゆりさんに、私は二の句が継げなかった。
何でこんなに素直に、人に好意を明かせるの?
戸惑うことも、恥ずかしがる事もなく、好き。と断言したみゆりさんが眩しく見える。
「…そう…なの」
やっとの事でそれだけ言うと、みゆりさんは首を傾げて私を見つめた。
「…何で隠すの?」
「…ッ…、…は…はぁ?」
「えー?だって見ててモロバレだよ?」
「勘違いでしょ?変な事言わないでよ」
「恥ずかしい?」
「…はぁ?」
「愛莉さんにとって、人を好きになる気持ちって…、恥ずかしい事なの?」
「…え」
「幼馴染なんでしょ?何でも言える仲なんじゃないの?」
何だろう、なんか…分かんないけど負けた気がする。
素直に言えない私と、素直に好意を認めて微笑むみゆりさん。
おんなじ人が好きなのに、こんなに違うもの?
(でも…付き合いが長すぎると、逆に言えなくなる事だってある…)
私は今度は何も言わずに、ざばっと湯船から立ち上がった。
「私…先にあがるわね」
返事を待たずにお風呂から脱衣所へ行くと、背後から小さく…でもハッキリと…、「弱虫」と呟いた、みゆりさんの声が聞こえた。
#颯斗side ────
大和が戻って来たのは、ちょうどゲームも飽きて来た頃だった。
「はぁー、疲れたー。イワオ兄さんは人使いが荒いんだよなー」
「何してたんだ?言えば俺も手伝っ…」
「それはダメだよ、バイトとは関係ない家の用事だからな。そこまでさせられねぇよ」
そう言うと、大和はそれより…とニヤニヤ笑いながら近づいてくる。
…コイツがこんな顔してる時は、大概変な事を考えてる時だ。
「水着姿の二人、可愛かったなー!」
(やっぱりか…)
「健康的な愛莉ちゃんと、グラマラスなみゆり、お前はどっちが良かった?」
「アホか、どっちも興味ねぇよ」
「またまたぁー、男なら気になるだろ?あの水着の下」
「黙れ、殴んぞ」
「えぇー、ノリ悪ぃなぁ、もぅ…思い返してみろよー二人の水着姿ぁー」
唇をとがらせて、ブーブーと文句を言う大和を尻目に、俺は昼間の愛莉を思い出す。
(ガキの頃と変わらなかったな、一緒に風呂入った時も、あんな感じで細くて日に焼けて…)
そうガキの頃を思い出していると、大和が俺の胸ぐらを掴んだ。
「…颯斗!お前まさか…、幼馴染って立場を利用して、愛莉ちゃんと一緒に、風呂に入ったりしてねーだろうな!」
「うるせぇな!何なんだよ、てめぇは!心が読めんのか!」
「…入ったのか!!」
「だからうるせーって!ガキの頃の話だろーが!」
そうだ、あの時…まだ幼稚園か?
愛莉と二人で遊んでた。
…追いかけっこに夢中になり過ぎて、馬糞を撒いた畑に二人で入っちまったんだ。
(…思い出しちまった…!馬糞の中に自ら入ったなんぞ、黒歴史だ!)
その時、愛莉の両親に馬糞の中で遊んでるのを見られて、二人で裸にされて、風呂に放り込まれたんだ。
(顔を歪めながら、俺と愛莉を洗ってくれた、あのおばさんの顔…傑作だったな)
…って違う!
あんな過去は忘れろ!俺!!
それから、先に風呂に入る。と言って出て行った大和を見送ってから、俺は少し散歩に出てみる事にした。
外に出ると、むわっと空気が熱い。
それに塩の香りがする。
(夏って感じだな…)
家の軒下にかかった風鈴が、風に揺れて心地良い音を奏でている。
何をする訳でもなく、ぼんやりと夜空を見上げていると、いつもよりラフな格好をしたみゆりが歩いて来た。




