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29. 初恋は、切なく甘酸っぱい。

ムクリと起き上がって踏まれた顔をなでると、愛莉はずい、と花火セットを差し出して来た。


よくコンビニやスーパーで売ってるアレだ。


「ちゃっちぃな…、もっと豪勢なの買ってこいよ、打ち上げ花火が入ってるセットもあっただろ?」


「うるさいわね。私のお小遣いで買ったのよ?文句言うなら自分で買いなさいよ」


「俺が花火なんか買うわけねーだろ、お前が誘わなかったら、今年の夏も花火なんかやらずに終わってたよ」


そう言いながら、愛莉が買って来た花火セットを開ける。


ロウソクを用意してから花火を広げて、思い思いの手持ち花火を手に取った。


「…なぁ愛莉」


「ん?」


「亡くなった絢音って子、思い出したよ」


「やっと?あんなに仲良かったのに、薄情なんだから…。後で山下さんが帰って来たら、お線香あげに行かないと…」


「あぁ…、そうだな」


「…なぁに?なんか絢音ちゃんの話をしてから暗いわね…。もしかして好きだったの?」


そう、冗談めかして聞いてくる愛莉に、俺はさらりと頷いた。


「あぁ、俺の初恋の相手だ」


「ふーん、そうなの初恋の…、…って…は…初恋ですって!!?」


ギョッとした顔で、火がついたままの花火を落とした愛莉。

まぁ驚くよな。俺も驚くわ。


でも間違いない。

()()俺には恋愛感情なんぞ分からんが、確かにあれは初恋だった。


俺の思い出のはずなのに、他人の思い出のような気がする。

この妙な感覚は多分…。


(大事な初恋だもんな、聡太(オレ)と共有なんぞしたくねぇよな…)


まったく…、俺は颯斗なんだか聡太なんだか…。

そんな複雑な思いで、その夜は更けていった。



♢♢♢♢♢♢



その次の日、さすがに大学にも行かねーと…という事で、朝イチで早々に帰る事にした俺だったが、何故か愛莉も東京に戻って来た。


(…初心…、忘れるべからず…)


クソ、あのまま田舎に置いて来て、後から荷物を送り付けてやる予定だったのに。

つい流れで一緒に帰って来ちまった。


長旅に疲れ切って、ぼすんっとソファに倒れ込む。

…何故ソファなのか?

当然、ベッドは愛莉に奪われたからだ。


(まぁ良いか)


何日か田舎に帰って、愛莉と過ごしたガキの頃を思い出した。

あの頃は、一緒にいるのが当たり前で…。


(ホントの妹みたいに思ってたな…)


少しだけ、このまま一緒に暮らしても良いか…と思い始めてる。


(あとはあの、クソ生意気な減らず口さえなければな…)


そう思いながら、ちらっと寝室を見た時、玄関のチャイムが鳴った。


「…?誰だ?」


宅配便か?

いや、俺は頼んでない。


もしかしたら愛莉が何か頼んだのかも知れないと、とりあえずモニターを見ると、そこには大和が立っていた。



♢♢♢♢♢♢



「…で?」


手土産のケーキを持ってやって来た大和を招き入れ、第一声でそう言うと、大和はキョロキョロとリビングを見回している。


ちなみに…、コイツはマンションの入り口まで来た事はあるが(帰り道、後をつけて来た)、部屋に入れるのは初めてだ。


「…おい」


…無視か!


「大和!何しに来た!」


頭に来て怒鳴ると、大和はやっと俺を見た。


「何しに来た…って、遊びに来たんだよ」


「招いた覚えねーぞ」


「友達だろー?」


「いつからだ」


めんどくさくて流して聞いていると、大和は目ざとく愛莉の荷物を見つけた。


「…!!!女の子の…荷物…?」


しまった。

コイツには幼馴染が来ている事を教えてねぇ。

ぜってー勘違いしてやがるぞ。


「おい…、アレは…」


「彼女か!?なんで黙ってたんだよ…!」


「はぁ?彼女じゃねぇよ」


「じゃあなんで、女物の生活用品があるんだよ」


「あれは…、えーと…。お…俺のだ!」


…ってアホか!

焦りのあまり、バレバレな事を言っちまった。


「嘘つけ!!」


そう言うと、このバカは愛莉の荷物に手を出した。


「おい!やめろ!」


他人に荷物を触らせたなんて事、愛莉に知れたら、待ち受けるのは死、のみだ。


慌てて止めようとするが、時すでに遅く。

騒ぎに気付いた愛莉が、寝室から眠そうな顔で出て来た。


そして大和を見た瞬間、顔を真っ赤にする。


「…何…してんの…?そ…それ…私の…」


そう言いながら、大和の持っているブラジャーと、俺を見比べる。

そして大和は、愛莉を見て目を見開いた。


「か…可愛い…!!てめぇ…ふざけんなよ颯斗!!」


「ふざけてんのはお前だ!!」


そう言った直後、愛莉の情け容赦のないパンチ(パーじゃねぇぞ)が、飛んで来た。


…俺、完全にとばっちりだろ。

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