25. 夏の幻。
そして、あっという間の日曜日。
日中は予定があると言う愛莉に合わせて、夕方から祭りに行く事になり、俺は暇つぶしに近所をぶらつく事にした。
(この町は変わらねぇな…)
…っても、まだ数年か…。
ガキの頃、仲間達の溜まり場だった駄菓子屋もそのままだ。
まぁ、さすがに閉店してるけど。
(中学に上がる頃までは、駄菓子屋の婆ちゃんも元気で現役だったな、まだ生きてんのか?)
高校に上がってからは、さすがに駄菓子屋なんぞ行かなくなってたけど、その頃はまだ営業していたらしい事は知ってる。
その駄菓子屋の角を曲がると、あとは田舎道が続くだけで何もない。
強いて言えば山がある、麓の森によくカブトムシを捕まえに行ったなー。
(都会じゃカブトムシなんか滅多に見られねぇけど…、いるかな?)
別にガキの頃みたいに捕まえはしないが、ちょっと見てみるか…。
(…そういえば)
森にカブトムシを捕まえに行くと、良く会う女の子がいたな。
(森でしか会わなかったけど、同じくらいの歳だった…。俺がカブトムシを見つけてるのを、よく眺めてたっけ…)
誰だったんだ?
学校の同級生じゃ見ねぇ顔だったし、夏しか会わなかった。
(どっかの家の親戚とかが、夏休みの間だけ田舎に来てた…とかか?)
夏のイメージを絵に描いたような女の子だった。
真っ白なワンピースと麦わら帽子、ワンピースと変わらないくらいの白い肌に、日傘をさしてたな。
(今の俺からすると考えられねぇが、俺の初恋だったな)
田舎の町では滅多にお目に掛かれない、都会的な美少女。
間違いなく俺の…いや、颯斗の初恋だ。
男と見分けも付かないような女しかいない田舎だったから、見た時は衝撃的だった。
こんな美少女がいるのか…と。
(会話…した気がするな、んー?何か忘れてるような…)
ぼんやりと当時を思い出しながら歩いていると、あっという間に森に着いた。
カブトムシがいそうな木を探してみるが、なかなか見つからない。
(やっぱ早朝じゃねーと見つからねぇか…、…ん?)
森の中、舗装された散歩道を歩いていると、森の中には不釣り合いな、白い何かが見える。
「…?何だ?」
目を凝らしてみると、薄暗い森の中に、白いワンピース姿の女が立っていた。
#愛莉side ────
本当は日中の用事なんてなかった。
ただ縁日デートなら、やっぱり日が暮れてからの方がロマンチック…と言う事で、夕方から行く事にしただけ。
自分の部屋で、全身鏡の前に立って色々な服を身体にあててみる。
(何を着て行こうかな…)
女の子らしくスカートにするか。
それとも歩くだろうから、動きやすさを重視してパンツにするか。
(うーん…、迷うな)
鏡の前で、アレでもないコレでもないと悩んでいると、一階からお母さんの声が聞こえて来た。
「あんたお祭りに行くために帰って来たんでしょー?浴衣とか着る?」
その言葉を聞いた瞬間、私の今日の勝負服が決まった。
#颯斗side ────
本当に一瞬の事だった。
白い何かを見つけて、何だ?と思った直後、木々の影から白いワンピース姿の女が現れたんだ。
「……え」
麦わら帽子と、森の中には不釣り合いな日傘まで同じ。
ついさっき、子供の頃に出会った、同じ姿の女の子の事を思い出していたせいか、まさか?という思いで身体が硬直する。
だけどその女は、目があって微笑んだかと思うと、ゆっくりと口を動かした。
「…え?」
何だ?なんか言ってる?
何とか聞き取ろうと耳を澄ませると、何故か耳元で声が聞こえた。
鈴みたいに澄んだ声で、「約束、守ってくれたんだ」…と。
「……え?」
さっきから、え?しか言ってねぇな。
何の事なんだと聞き返そうとすると、一瞬にして女の姿が森の奥へ消える。
どこに行ったのかと辺りを見回すが、さすがに森の中。
隠れる所が多すぎて、見つける事は出来なかった。
♢♢♢♢♢♢
それから夕方になる前に帰った俺は、家で愛莉との約束の時間を待った。
約束の時間は6時だ。
現時刻は5時半。愛莉の家はすぐ隣だし、テレビを見ながら残り時間を潰す。
(……あのワンピースの女は誰だ?)
俺と目があって微笑んだのは分かったが、何故かついさっきの事なのに顔が良く思い出せない。
(約束…?)
俺と?あの女が?
「……んー……。うーん……」
ひたすらうなる。
思い出せん。
約束なんかしたか?
記憶力は良い方だ。
何か約束したんなら、忘れるわけねーんだが…。
「…っと、そろそろ時間か」
考え事をしていたせいか、30分があっという間に過ぎた。
遅れると愛莉はうるせーぞ。
俺は考えるのをやめて家を出た。




