24. 素直になれない距離。
それから高校の時に使っていた、汚れた自転車を出して来て神社へ行き、祭りの準備をしてる実行委員のオッサン達に挨拶する。
今日はもう、テントまで張り終えてるから、後は祭りの前日…つまり明日だな、最終的な確認をするだけらしい。
「それでもやる事は沢山あるからな、動きやすい格好で来いよ?暑いからってサンダルで来たら怪我するぞ」
どうやら雨が降った時の事を考えて、機材関係はまだ設置してないらしい。
本格的な準備は、明日の天気予報を見てからだとか。
「了解っす、じゃあ明日」
ぺこりと頭を下げて神社を出ると、ちょうど鳥居の下に愛莉が立っていた。
「愛莉、どうしたんだ?」
「飲み物の差し入れをしに来たの。アンタと帰ろうと思って待ってたのよ」
「そうかよ」
既に辺りは夕暮れて、オレンジ色だ。
さすがにまだ明るいが、歩いて帰るとなると、途中で真っ暗になるだろう。
なにしろこのド田舎には、電灯すら無いに等しい。
オマケ程度にポツンポツンと設置された電灯や、今は余り見なくなった公衆電話のボックスに、無数の虫が集まる様子を思い出して身震いする。
「自転車で来てるから、後ろ乗ってけよ」
「えへへ…、知ってるー。だから待ってたのよ」
「…ったく、ちゃっかりしてやがんな」
自転車に跨ると、愛莉は後ろに乗って、俺の腰に腕を回して来た。
「子供の頃を思い出すわね、小学生のときは、よくこうして颯斗の自転車の後ろに乗せて貰ってたっけ」
「…覚えてねェな」
「……そう」
それ以上は何も話さず、俺は背中に感じる愛莉の体温に、どこか懐かしさを感じながら、自転車を家へと走らせた。
#愛莉side ────
どうして素直になれないんだろう。
待っていたのは、純粋に一緒に帰りたかったからなのに。
颯斗の顔を見ると、いつも素直に慣れずに憎まれ口ばっかりになっちゃう。
無言で自転車を漕ぐ颯斗の背中に、強くしがみ付く。
苦しかったのか、颯斗は小さく「ぅげ…ッ」と言ったけど、文句は言って来なかった。
(明後日のお祭り…、一緒に行きたいけど…)
颯斗は祭りの準備の手伝いに来てるだけだし、もしかしたら祭りに参加せず、準備が終わった土曜の夜に帰っちゃうかも知れない。
(その前に誘わなきゃ…)
でも勇気が出ない。
(しっかりしろ愛莉!一緒に暮らしてるうちに、落とすって決めたんじゃない!少しでも今回のお祭りで、なんとか距離を縮めるのよ…!)
そう自分に叱咤して、私は深呼吸する。
「ねぇ颯斗?」
「あー?何だ?」
「あ…あの…」
…ぅああー!やっぱり言えない!!
子供の頃とは違うの!
簡単には誘えない。意識しているせいか、余計に誘えない!
「…何でも…ない…」
結局何も言えずに黙ると、颯斗は少しだけ首を動かして私を見た。
「…?なによ?」
「…お前太ったか?」
「…………は…、はぁ!?」
「いや、なんか…。背中に当たる肉が、記憶にあるより肉肉しいっつーか…」
「覚えてないんじゃなかったの!!…って言うか、肉肉しいって何よ!太ってるって言いたいワケ!?」
信じられない!
人がセンチメンタルになってるところを…!
…ん?背中に当たる肉…?
それってまさか…。
今私は、颯斗の背中に抱き付く形で自転車に乗っている。
つまり颯斗の背中に当たっているのは…。
(…胸!?)
そう思い至った私は、顔が真っ赤になるのが分かった。
「…馬鹿!!変態!!」
「はぁ!?急に何言い出すん…、っておい!暴れんな!!」
颯斗の背中から身体を離して、その背中を力任せに叩く。
…あぁ、ダメだ。
こんな事で動揺してるようじゃ、幼馴染以上にはなれない…。
(でも無理ィー!恥ずかしすぎる!!…って言うか、颯斗デリカシーなさすぎ!)
私は真っ赤になった顔がバレないように、顔を颯斗の背中にくっ付けた。
#颯斗side ────
愛莉の家まで送って行くと(っつーか、すぐ隣だけどな)、愛莉は不機嫌そうに自転車から降りる。
「…おい、何をさっきから怒っ…」
「怒ってないし!」
…いや、怒ってるじゃねーか。
ったく、コイツの不機嫌スイッチは何なんだ?
「…あ」
そこで帰ろうとした俺は、愛莉を振り返った。
「お前、祭りは行くのか?」
「…え?」
「せっかくだから祭りに参加して帰ろうと思ってんだが、一緒に回るか?」
わざわざこんな田舎まで帰って来たんだ。
祭りに参加せずに帰る理由がない。
だが一緒に回る友人もいないし、一人で回るのも味気ないもんな。
実は既に地元に残ってる奴らに連絡したが、ほとんどが予定ありか、祭りの手伝いに駆り出されていて捕まらなかった。
(でなきゃ、幼馴染とは言え、女なんか誘わねーがな)
断られる前提で誘ったんだが、意外にも愛莉は満面の笑顔だった。




