表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/160

23. 颯斗の家族と、聡太の家族。

実家に着くと、やっと愛莉と別れて家の門をくぐる。

…つい忘れる事もあるが、実家は金持ちだ。


田舎の金持ちらしい、無駄に広い庭を通って玄関まで行くと、迷う事なく戸を開ける。

…俺の田舎は日中、家の鍵を掛ける事がない。

下手すると、夜も鍵を掛けずに寝る。


都会に暮らし始めると、それがいかに凄い事だったのか分かるよなー。


田舎っつーのは、近所の人たち…いや、地域の全員が知り合いで、泥棒だとか事件だとかの概念がない。


家族でもない人達が、勝手に玄関を開けて、勝手に入って来て「雨が降ってたから、洗濯物をとりこんどいたわよ!」って事後報告してくるような場所だ。


いや、都会の生活になれると怖い。


ガラガラ…ッという音と共に戸が開くと、懐かしい匂いがした。


「颯斗?」


玄関が開く音が聞こえたらしい。

お袋がパタパタとスリッパの音をさせながらやって来る。


「ただいま」


「おかえり、疲れたでしょう。麦茶用意してあげる」


そう言って背中を向けた後、お袋は思い出したように振り返った。


「お父さんなら仏間で寝てるから、声かけに行ってあげて」


「…はいよ」


スリッパをはいて、長くて薄暗い廊下を進む。

何で田舎ってのは、こんな無駄に敷地が広いんだ。


(使ってねぇ部屋ばっかだもんなぁ)


しかもボロで薄暗いから、子供の頃はこの廊下が大っ嫌いだったな…。

…あ、俺にも幽霊が怖い頃があったんだな。


ふと、廊下の途中で足を止める。


「まだあるのか、この全身鏡」


幼くてまだ純粋だった俺は、この鏡が怖かった。

理由なんぞ覚えてない。


ギシ…ギシ…と古い家特有の足音を立てながら仏間へ行くと、襖越しに声をかけた。


「…親父?颯斗だけど」


「…!おぉ!入れ入れ!!」


襖を開けると、うつ伏せ状態でクッションを抱えている情けない…と言うか、面白い格好の親父が布団にいた。


「……」


「…いや、そんなマジマジと見んでくれ。わかってるんだよ、年寄りの冷や水ってのは」


「そこまで言ってねーよ」


返事して、布団の傍にあぐらをかく。


「そんな痛ぇのか?」


「…うん、痛い」


…ザコか。

うん、って何だよ。うんって。

オッサンが可愛くねーんだよ。


「…とにかく、安静にしてろ。祭りの準備で終わってねぇ所は、他の実行委員に聞きながら俺がやる」


「すまんな、助かるよ。小遣いはいるか?」


「ガキじゃねーんだ、小遣いって何だよ。仕送りで十分な生活させて貰ってるよ」


そろそろ行くかと立ち上がると、親父は少し寂しそうに俺を見上げる。


「…あー、何だ、その…。しばらく泊まってくし…、今夜は夕飯は一緒に食うだろ?動けないなら、ここで食っても…良いし?」


何だか照れ臭くて、顔を逸らしながら言うと、親父は嬉しそうに微笑んだ。


「…あぁ、もちろん。一緒に食おう」


らしくなく俺まで微笑んでしまったのは、田舎に帰って、少し気が緩んでるのかも知れない。



♢♢♢♢♢♢



感情って不思議だな。

家族に会ったとたん、子供の頃に時間が戻ったみたいな感じがする。


お袋が出してくれた麦茶を飲みながら、開け放たれた縁側から庭先を見つめた。


風が吹く度に風鈴が音を鳴らして、蝉の声と合わさって、良い感じに眠気を誘う。


カラン、とグラスの中の氷がなる音も心地良い。


「…はー…、とりあえず神社に挨拶に行って、それから誰かに連絡してみるか」


つっても、地元の友達なんか、ほとんど残ってねーんじゃねぇか?

俺の知る限り、みんな都会に出てるはずだ。


(…せっかく地元に帰って来ても、遊ぶ友達もいねぇかー…)


これじゃあ本当に、祭りの準備のためだけに帰って来たみたいだな。


(まぁ親父もお袋も喜んでたし、…良いか)


そこでふと、聡太の顔が浮かぶ。

あいつの家族は今どうしてるんだろう?


(聡太は一人っ子だった…、一人息子を事故で失って…、親はどうしてんだ?)


いや、俺には関係ないよな。

俺はもう聡太じゃなく、真城颯斗。


両親は今ここにいる二人だ。

俺が帰って来た事を、あんなに喜んでるじゃねぇかよ。


中身は別人だなんて…、んな訳あるか。

俺は真城颯斗だ、山岸聡太じゃない。


「…山岸聡太とは…別人…なんだ」


そう言い聞かせるように呟くが、脳裏に焼き付いた聡太の記憶は、消える事がなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ