22. 懐かしい蝉時雨。
○○駅から電車で数時間。
俺の地元はかなり田舎で、おそらく都会の人からすると、想像以上に辺鄙な場所だ。
コンビニも駅前まで行かなきゃねーし、ショッピングモールなんて、噂しか知らない連中ばかり。
おまけに観光地にするには何もなさすぎて、何の見所もない、本当にただの田舎だ。
まぁ、そんな田舎に嫌気がさして都会に出たわけだが…。
久し振りに戻ってみると、空気は美味いし、空は広いし、最高だ。
駅から出ると、待ってました!と言わんばかりの蝉時雨と、小川のせせらぎが聞こえて来る。
うーん、…夏だ。
これぞ日本の夏だ。
あとは縁側で風鈴の音を聞きながら、スイカでも食えたら、それでもう日本の夏は満喫したと言って良いだろう。
ガキの頃、虫取りとか虫相撲とか探検していた山も見える。
懐かしいなー。
まさに、都会人が考える田舎のスローライフには、もってこいのシチュエーション。
(たまには良いな…)
都会の喧騒に疲れ切っていたせいか、昔は嫌だった田舎特有の虫の洗礼が心地いい。
久し振りの地元に癒されていると、隣にいた愛莉が両手を広げた。
「…ッあー!!帰ってきたァー!!」
…アホ。
お前はそんな久し振りじゃねぇだろ。
ついこの間まで、ここに住んでただろ。
無視してバス停に向かって歩き出すと、愛莉も慌てて付いてくる。
そしてバスの時刻表を見た俺は、思わず持っていたカバンを落とした。
「…田舎のバスを甘く見てた…」
都会に慣れすぎて、すっかり忘れていたが、ここは田舎。
都会の駅前みたいに、小刻みな時刻表じゃねーんだ。
「クソ…、しまった…。どうすっか…」
次のバスが来るのは2時間後。
いくら何でも、店もない場所で2時間も待ってられるか。
あるのは、古くさいバス停だけだ。
「ねぇ颯斗…、2時間も待ってるなら歩こう?1時間くらいで着くよ」
「…は?このクソ暑いカンカン照りの中をか?途中で倒れるだろ」
「情けないわねー。飲み物ならあるし、水分補給しながら、日陰を歩いて行けば平気よ。いつからそんな貧弱になっちゃったの?」
カチンとくる。
これでもガキの頃は、この自然の野山の中を走り回って育ったんだ。
たった数年離れていた程度で、女に体力的な面で引けを取るほど衰えてねぇ。
「…舐めんなよ?歩いてやろうじゃん」
こうして、俺は愛莉の口車に乗せられて、自宅までの道を歩く事になった。
…別にバス停で待たなくても、駅まで戻ればクーラーの効いた店があったのだと気付くのは、歩き出して30分程してからだった。
♢♢♢♢♢♢
しかし…、この女の無尽蔵の体力は、何処から湧き出てくるんだ。
…魔法の泉か?
それとも何か?薬○か、ポー○ョンでも持ってんのか?
(…田舎道の歩きにくさと、勾配を甘く見てた…)
我ながら自分のアホさが情けない。
(知ってた…!知ってたはずなのに…!!)
上り坂はキツいし、下り坂は転びそうになる。
よくもまぁ、ガキの頃の俺は、こんな道を全速力で走り回ってたモンだ。
「…はぁ…、…は…。…?」
息も絶え絶えに坂道を上がっていた俺は、坂道を上り切った所にある鳥居に気付いて足を止めた。
「あれは…」
「あ、覚えてる颯斗?あそこが今週末のお祭り会場にもなる、○○神社だよ」
「…あぁ…、覚えてる…」
一歩…、また一歩と神社に近付くにつれ、厳かで澄んだ空気に変わっていくような気がする。
古くても立派な鳥居の前まで来ると、中を覗いてみる。
すると、広い境内では祭りの準備をしているのか、テントが沢山張られ、提灯やらライトやらが吊るされていた。
「ほー…、屋台が沢山出てんだな」
まだやってはいないが、屋台に書いてある【たこ焼き】や【カキ氷】、【チョコバナナ】や【あんず飴】の文字に、テンションが上がる。
「…おっ!?型抜きの屋台もあるじゃねーか!」
「そういえば颯斗、型抜き好きだったね。…成功したところ見た事ないけど」
「うるせーな、難しいんだぞ?」
「あんなの出来る人いないって、子供がやる遊びじゃないわよ。プロがプロのアイテム使って、かなり本気でやらないと…」
…確かに。
型抜きといえば、縁日でよく見かける、縁日の風物詩だ。
…と、思う。
壊れやすくて脆い板状のお菓子に描かれた絵柄を、壊さないように繰り抜く単純な遊びだが、成功した奴を見た事はない。
上手く出来ると点数が貰えて、点数が貯まると景品が貰える。
(…まぁ、点数が貯まる頃には、カタ屋は消えてたけどな)
今思うと詐欺に近い。
(またチャレンジしてみてーな)
そんな事を考えながら、とりあえずは荷物を手放すため、俺は愛莉と一緒に実家へと足を向けた。




