18. 色じかけは通用しない。
#愛莉side ────
「…?…ん!?」
…今なんて言った!?
思わず洗っていた食器を落としてしまう。
今衝撃的なことを言わなかった…?
「は…、は…!?」
振り返ると、颯斗は平然と私を見てる。
「…あー、言い方悪かったな。同じ部屋で寝るって意味だ。別に同じベッドで寝るわけじゃねぇぞ?布団買ったろ?寝室に敷けば寝られんだろ」
「な…いや、…あ…そ…それも十分に衝撃的なんだけど…」
確かに最初に「一緒に寝る?」なんて、調子に乗ってからかったけど、本当に同じ部屋で寝るつもりなんかなかった。
同じベッドでなくても、同じ部屋で寝るなんて、いびきとか寝言とか寝相とか心配過ぎる!
さすがにハードル高くない!?高いよね!?
「な…何言ってんの!?今日買った布団はアンタのよ!リビングで寝なさいよ!この変態!」
「誰が変態だ!俺はベッドを譲る気はねーの!リビングもお前の部屋みたいにされたら困るし、別に同じ部屋で寝るくらい問題ねぇだろが」
「問題あるに決まってんでしょ!」
「どんな問題だよ」
「アンタと同じ部屋なんて、いつ襲われるか…。心配で寝られやしないわよ」
「誰が襲うか、気持ち悪ぃ事言ってんじゃねーよ」
「気持ち悪いですって!?」
「気持ち悪ぃだろうが。妹襲うなんて、想像するだけで吐き気がするぜ」
「い…妹じゃないじゃない!」
「妹みてぇなもんだろ、お互いガキの頃から知ってんだ」
「…ッ…」
そう言う颯斗の態度に、私に対する感情には妹以上のものがないのだとハッキリ分かる。
(何よ…、少しくらい意識しても良いんじゃないの…?)
ずっと一緒にいたなら分かるけど、颯斗が大学で東京に来てからは久しぶりに会ったんだし、颯斗の記憶の中にある私の姿より、ずっと大人っぽくなったでしょ?
(颯斗のアホ…バカ…、おたんこなす…)
だけど好きだと言う気持ちが、ハッキリと分かった以上、私もこのまま引き下がるわけにはいかない。
(上等じゃない…。あくまでも妹で、女として見られないって言うなら、嫌でも意識させてやるわよ)
お父さんからは夕方に連絡があった。
なるべく早く私のアパートを探すと言っていたから、あまり時間はかけられない。
一緒にこのマンションで暮らせるうちに、颯斗を落として見せる!
#颯斗side ────
翌日、大学構内にある図書館にノートパソコンを持ち込んでレポート作成に取り掛かっていた。
だがどうしても思考がレポートに向かず、俺はパソコンをそっと閉じた。
(……あの女…、今日は来てんのかな)
あの女。とは、もちろん新見晴子の事だ。
好きなわけでは断じてない。
断じてないし、そういう意味で気になっているわけではないが、合コンで見た時の晴子の顔と、俺に軽蔑の視線を向けて来た高校時代の晴子が、どうしても一致しないのだ。
(名前と顔が同じだけの、ただのそっくりさん…なワケねーよな)
名前と顔が同じだけって何だよ。
そりゃもう本人だろうが。
「…はぁ…」
どうして良いか分からない。
別にイケメンになったからって、彼女が欲しいとも思ってないし、そもそも陽キャは苦手だ。
普通の大学生活を送って、可もなく不可もない普通の生活がしたいんだ。
聡太だった頃の悪夢に悩まされるのは嫌だ。
気になっているのは、聡太としての記憶にある新見晴子と、今俺と同じ大学にいる新見晴子の印象の相違。
(だったら、やる事は一つだな)
新見晴子と話をする。
実際に接して、どういう人間なのか判断する。
これしかない。
だがその方法が問題だ。
今の新見晴子を知るにしても、仲良くするつもりはないし、知り合うつもりもない。
ただ話をして、今の新見晴子の人となりを確認したいだけなのだ。
(こう言う時はやっぱりあいつか…)
頭に浮かぶのは、大和のヘラヘラした顔だ。
俺はスマホを取り出すと、大和へと電話をかけた。
大和は数コールで直ぐに電話に出た。
「今大丈夫か?…あぁ、悪いがお前に頼みたい事があるんだ」
#大和side ────
颯斗が俺に頼み事なんて珍しいな。
いや、そもそもアイツから連絡が来る事が自体が珍しい。
まぁ別に俺に出来ることならやるけど…と思いながら頷くと、颯斗はとんでもない事を言い出した。
「新見晴子を落としてくれ」




