17. この気持ちは止まらない 。
俺に寄り掛かりながら眠る愛莉を見ながら、ぼんやりと自分のことを考える。
(ごめんな愛莉…、お前のよく知ってる幼馴染は…)
俺じゃないのかも知れない。
(颯斗を頼って東京まで来ても…、お前の知ってる颯斗は、童貞のまま事故で死んだ、情けない聡太と入れ替わっちまったんだよ)
俺はちゃんと、颯斗としてお前を知ってるけど、お前は聡太を知らない。
つまりこうやって安心して、お前が寝顔を見せてる相手は、颯斗の姿形と記憶を持っただけの別人なんだよ。
「…はぁ…」
俺…何考えてんだ。
最近は異世界転生ものが流行ってるが、読んだ事はない。
転生先の異世界で目覚めた主人公は、一体どうしてるんだ?
(ざまぁねぇな…、こんな事考えたって、元の颯斗が戻って来る訳じゃねーのに…)
ぼんやりと窓の外を見ると、そろそろ最寄駅に着きそうだった。
#愛莉side ────
いつの間にか寝ちゃってたらしい。
ふと目を開けると、間近に颯斗の顔があって、心臓が跳ねる。
(…ッ!?何…、この状況…?)
どうやら颯斗の肩に寄りかかりながら眠っていたらしい。
高校の頃は電車通学だったから、結構憧れたシチュエーションだ。
(…彼氏と一緒に学校から帰るのとか、どっかの駅でクレープなんか食べて帰ったりするの憧れたなぁ…)
ちらッと視線だけを颯斗に向けると、颯斗はぼんやりと窓の外を眺めていて、私が起きた事に気付いてない。
(…何考えてるんだろ?やっぱりかっこいいなぁ、性格はアレだけど…)
同じ車両に乗っている女の子達が、チラチラと颯斗を見ている。
惚れたゆえにかっこよく見えるのではなく、確かに美形なんだ、コイツは。
(ずっと一緒にいたから、当時は見慣れちゃってたけど、しばらく離れてみると、改めて顔の造形が最高だって分かる…!!)
昔の正統派イケメンな感じも良かったけど、今の少しツンツンした感じもまた良い。
少し性格が変わったけど、颯斗は颯斗だ。
(やっぱり好きだなぁ…。今の私たちって、周りからは恋人同士に見えてるのかな…)
何だか、子供の頃から閉じ込めていた気持ちが、溢れて来そうになる。
今はまだ…、隠しておかなきゃいけないのに。
(…ねむ…)
颯斗を確認すると、まだ起きた事に気付いてない。
…せっかく気付かれていないなら、もう少しだけくっついていたい。
私は颯斗に寄り掛かったまま、このまま降りる駅まで寝たフリをする事にした。
#颯斗side ────
自宅に帰った後、今度こそ寝ると寝室を占領して眠ってる間、愛莉は約束通り、部屋の片付けや掃除をやってくれていた。
夕食の時間には、久々に誰かの手作りを食べられて、結構満足だ。
それに愛莉の作る料理は、地元の懐かしい味がして俺好みでもある。
毎日部屋が片付いて、この飯が毎日食えるなら、ルーシェアも悪くないかも知れない。
(…って、おいおい、ダメだろ。)
冷静に考えろ、いくら幼馴染でも女と二人暮らしなんて出来ない。
女が嫌いとか以前に、倫理的にあり得ない。
この状況は、あくまでも一時的なもんだ。
だから我慢してるんだ。
(…故郷の味を食べて、少し田舎が恋しくなってるのかもな)
って、今考える事はそこじゃない。
愛莉のおじさんがアパートを探してくれるまで、俺達はどうやって寝るのかを考えないといけない。
(…はぁ…。気は進まねーけど仕方ねぇか…)
俺のマンションはバスルームやキッチンを除いて、リビングと寝室しかない。
こいつの事だから、リビングで寝泊まりなんかさせたら、リビング全部を自分の部屋にしかねない。
…よし。
「おい愛莉」
キッチンで洗い物をしている後ろ姿に声をかけると、愛莉は振り向かずに「んー?」と、声だけで返事をしてくる。
「今夜から一緒に寝るぞ」
そんな後ろ姿にそう言うと、愛莉は持っていた食器を落とした。
…おい、割れてねぇだろうな。




