13. 愛莉ちゃんは怖がり。
ソファに座ると、私の体重でソファが少しだけ沈み、颯斗が嫌そうに振り返る。
「床に座れ、狭いだろうが」
「嫌よ、颯斗がソファに座れば」
相変わらず大人がいないと冷たい奴だ。
大人が一人でもいると、優等生ぶって笑顔で譲ってくれるくせに。
でも颯斗が私のそばから逃げないなら、これは逆にチャンスだ。
(くらえ!お色気攻撃!)
シャワー直後の少し汗ばんだ肌と、石鹸とシャンプーの匂いがする美少女の誘惑にたえられるか?
「ねぇ、さっきからスマホばっかりじゃん。何見てるの?動画?」
スマホを覗き込むふりをしながら、キャミソールだけの上半身と、ショートパンツから出た太ももを、グイッと颯斗に押し付ける。
「…なんの動画…」
そう言って颯斗のスマホを覗き込んだ私は、声にならない悲鳴をあげて颯斗から離れた。
「な…なな…」
颯斗が見ていたのは、いわゆるホラー動画だった。
…恥ずかしいから秘密にしてるけど、私は小さい頃から怖い物が大嫌い。
「…?なんだよ?…これは最近流行ってる素人動画だよ、本物なのか偽物なのか分からないらしくて、それで人気が出…」
「信じられない!そんなの偽物に決まってるじゃない!幽霊なんかいないわよ!バッカみたい!」
「はぁ?漫画家目指してるくせに夢がねぇな…」
「夢は関係ないでしょ!とにかく幽霊なんかいないの、偽物よ偽物!!」
あー、もう!!
色仕掛け失敗した!!
「まさか愛莉…、幽霊が怖…」
「んな訳ないでしょ!子供じゃあるまいし、そんな馬鹿げた事、信じてないだけよ!」
ダメだ、ムキになったら、ホントは幽霊が怖いって自らバラしてるようなもんだ。
「…くだらない、テレビ見てないなら見て良いよね?」
とにかく早く雰囲気を変えようとテレビをつけると、ちょうどバラエティ番組が映った。
#颯斗side ────
どうにも様子がおかしい。
コイツの事だから、もっと文句を言ってくるかと思ったのに、すぐに興味をなくしてテレビを見てる。
(まさか怖いのか?)
…いや、ガキの頃から、愛莉が怖がりなんて聞いた事がねぇ。
考えすぎだな。
♢♢♢♢♢♢
その日の夜。
俺は寝室で途方に暮れていた。
愛莉が「ここで寝るんだ」と言い張って、ベッドにもぐって出ようとしないからだ。
「…愛莉」
「ソファで寝るなんて嫌よ」
「…はぁー…、じゃあ俺は何処で寝たら良いんだよ」
頭をかきながら深く溜め息を吐くと、愛莉が鼻から上だけを毛布から出して、俺を見つめてくる。
「…一緒でも良いよ?子供の頃は一緒に寝たじゃない」
「ふざけんな、もうガキじゃねーんだ」
「……それって…、私を女として意識してるって事…?」
「ん?なんか言ったか?」
「な…なんでもない!一緒になんて冗談よ!さっさと出てってよ!」
「だから、ここは俺の部屋で、そこは俺のベッドだ」
はっきりと言ってやるが、愛莉はまたしても布団に潜って隠れてしまった。
(…クソ、仕方ねぇか…)
ワガママっぷりはガキの頃から、かなりレベルアップしたらしい。
俺は仕方なく、愛莉の為に出した来客用の毛布を手に、リビングへ向かった。
電気を消してソファに横になり、ホラー動画の続きを見る。
(愛莉のやつめ…。人の好きなモンをバカにしやがって)
ホラー動画や、夏にテレビで特集している怖い話のほとんどが、嘘や偽物である事は俺だって重々分かってる。
それでも怖い話や心霊特集などが大好きなのだ。
あくまでも、ファンタジーとして楽しんでいる。
だがホントにいたら、一度は見てみたいな、うん。
(幽霊…か)
そういえば、聡太も怖い物が嫌いだったな。
少しでも見てしまうと、ガキみてぇに夜に眠れなくなったり、トイレに行けなくなったり…。
聡太の頃は、幽霊を信じているから怖かったんだ。
…もちろん、見た事はない。
そんな事を考えながら、俺はいつしか眠りについた。
♢♢♢♢♢♢
深夜、トイレに行きたくなって目が覚めた。
少しビール飲みすぎたか?
(…ん?)
むくり、とベッドから身体を起こすと、隣の部屋…つまり寝室から物音がする。
(まだ起きてんのかよ、何時だと思ってんだ)
いや、アイツだってもうガキじゃねぇんだから、しのごの言うのもおかしいな、うん。
だがそう思ったのも束の間。
隣の部屋の気配が明らかにおかしい。
部屋の中を行ったり来たりしてる足音と、ドアノブを少しだけ回す音が、ずっと聞こえてくるのだ。
(…?何を挙動不審な…、…ん?)
その時、俺がホラー動画を見てた時の愛莉の様子を思い出す。
(ホラー動画を見た時のあの態度…、もしかして怖い物が苦手だったりするんじゃねぇだろうな)
風呂上がりにガバガバと、アホみたいにジュース飲んでた愛莉の姿を思い出し、少し気になる。
もしかして、トイレに行きたいけど、怖くて部屋から出られないんじゃないか?
(どうする…。気にはなるが、俺の杞憂だったら、様子を見に行っても変態扱いされるだけだぞ)
結局、トイレにも行きたかったし、トイレに行きがてら、少しだけ様子を見る事にした。




