112. デート中くらいは良いでしょ?
#颯斗side ────
やっと吐き気や気分が落ち着いて来た。
これならもう動いても大丈夫そうだ。
そう思っていると、みゆりが俺の口元へとポテトを差し出して来た。
「……?」
何の真似だと眉をひそめると、みゆりは「わっかんないかなぁー」と言いながら、さらにポテトを俺の口へと近づけて来る。
「あーん」
「………」
いや、やる訳ねーだろ。
愛莉にも似たような事言われたが、流行ってんのか?
「いらねーよ、全部食え」
「えー?食べると思って大盛りにしたのにぃー。ほら、ナゲットもあるよー」
「だからいら……」
いらねー。
そう言おうとすると、テーブルの上に置いておいたスマホが振動する。
思わずスマホを見ると、着信は愛莉からだった。
(……これは…、さすがに出るとうるさいか?)
テーブルの上に置きっぱなしのスマホは、当然だがみゆりにも見えている。
どうしたもんかとみゆりを見ると、みゆりはあっけらかんと「出ないの?」と不思議そうにしてる。
(……?出て良いのか、……嫌がると思ったが…)
何か企んでやがるのか?
今での愛莉との関係性を鑑みると、どう考えても犬猿の仲だ。
こうして普通に出ないのかと聞かれると、逆に詮索したくなるのも道理だろ。
(まぁ良いか)
俺は何となくみゆりに背中を向けながら電話に出る。
「…どうした?」
『あ、颯斗ー?ごめんね、今大丈夫?』
そう聞かれて、ついみゆりに視線を送る。
…大丈夫かと言われると、あまり大丈夫な状況ではないんだが…。
みゆりは自分のスマホで何かしてる。とりあえず大丈夫そうだ。
「……あぁ、何だよ?」
『今夜のご飯、一緒に食べようと思って。颯斗は何が食べたい?』
「…え、今夜の飯?あー…、いや…」
言葉に詰まる。
状況的に考えれば、みゆりと食べて帰るのが普通だろう。
これは彼氏彼女とか関係なく、こうして友人と遊びに出かけたら、帰る時間的にも、一緒に夕飯食って帰るのが一般的…だよな。
(けど正直、愛莉の飯は捨てがたい……)
みゆりとの外食と愛莉の作る飯を天秤に掛けていると、食事を終えたみゆりがテーブルにテーマパークの地図を広げた。
「真城クンー、次は何に乗るー?」
「……ッ、うるせーぞ!ちょっと待っ…」
何故か今までより大きな声で話すみゆりを諌めようとすると、電話の向こうで愛莉が息を飲む気配が分かった。
#愛莉side ────
今の…みゆりさんの声?
しかも電話の向こうの騒がしさと、『次は何に乗る?』って言うキーワードから想像出来るのは……。
(遊園地……)
…え、颯斗とみゆりさんが?何で?
(いやいや…、何でって……友達同士なら一緒に遊びに行く事もあるわよね…、うん)
でも颯斗は?
颯斗が女の人と遊園地?
(……らしくない……!)
何とか普通の事だと…特別な事じゃないと考えようとしたけど、どう考えてもおかしい。
颯斗が女友達を誘って、遊園地とか行く訳ない。
(…じゃあ…女友達じゃ…ない?)
女友達じゃないなら…何よ?
……彼女?
つい考え込んで黙ってしまうと、颯斗が『おーい?』と声を掛けてくる。
「…え?」
『今夜はちっと予定が入ってんだ、飯はまた今度な』
何でもない事みたいに言ってくる颯斗に、私は「そう」とだけ答えて、返事を待たずに電話を切った。
#みゆりside ────
辺りが騒がしいから愛莉さんの声までは聞こえないけど、颯斗が言った「今夜の飯」と言うキーワードで、愛莉さんが颯斗に今夜何が食べたいかを聞いてるのは分かった。
(……後で改めて、私がいない所で電話を掛け直されるよりは…と思ってだけど…)
せっかく聞こえたキーワード。
利用しない手はない。
私はテーブルの上にパンフを広げると、わざと大きな声で「次は何に乗る?」と颯斗に声を掛けた。
「うるせーぞ!ちょっと待っ…」
待ってろ、とでも言おうとしたのかしらね。
私は颯斗の言葉を待たずに、颯斗の持っているスマホに向かって話を続ける。
「私が決めちゃおうかな、次はクルーズ船にしよっかー」
当然、少しだけ大きな声で話してる。
愛莉さんに聞こえているのかどうかは賭けだ。
颯斗は呆れたみたいに席から立ち上がると、私から少し離れたところで話を再開させている。
(…別に愛莉さんに聞こえてないなら、それはそれで良いわよ)
私はスマホで大和へのメッセ画面を開くと、颯斗が戻ってくる前にと短文メッセを送信した。




