111. 絶叫系は命がけ。
#颯斗side ────
目的地であるテーマパークへ到着すると、まだ開園前だっつーのにすごい人だかりだ。
チケット売り場もものすごい行列になってる。
(…ネットであらかじめチケット買っておいて正解だったな)
あれじゃあテーマパークに入るまでに小一時間くらい掛かりそうだ。
「さっ、真城クン行こー!」
いつもみてぇに腕を絡ませて来ると、みゆりは俺を引くように入り口へと向かう。
俺はみゆりから腕を逃すと、買っておいたチケットを出した。
「お前の分だ」
「ありがとー、いくら?」
「……は?」
え?まさか払ってくれる気あったのか?
普通にたかる気満々かと思ってたぞ?
「…ん?」
つい驚いていると、みゆりは不思議そうに顔を覗き込んで来た。
「…あ…いや、金払う気あったんだな」
「……は?何それ失礼じゃない?まだ彼氏じゃないし、さすがに払わせないって」
「まだっつーか、なる予定ねーけどな」
「先の事は分からないでしょー?それより、ほら!早く早く!!」
結局、みゆりの高いテンションにつられるように、俺はテーマパークのゲートをくぐった。
♢♢♢♢♢♢
両親があまりこういった事に興味がないせいで、ガキの頃からテーマパークとは無縁だった。
もちろんガキの頃は、テレビで見た某ネズミの国や遊園地がまるで夢の国みたいに思えて、家族で遊びに行って来たって話を誰かから聞くたび、正直羨ましかったもんだ。
(……まさか初テーマパークがみゆりと一緒とは…、人生は分からんなぁ)
みゆりはテーマパークには慣れてるらしく、回る順番がどーだ、人気順がどーだと、パンフを見ながら俺に説明してくる。
「…それで、このジェットコースターは絶対乗っときたいんだよね、真城クンってジェットコースター平気?それともダメなタイプ?」
「………」
…どうなんだ?
乗った事ねーから分からない、が正解だが…。
三半規管は強い方だ、乗り物酔いもした事ない。
(……いけるか?)
ネットや動画で見ると怖そうだが、ネタとしてかなり盛ってそうだし。
実の所そんな怖くないだろ、身長制限はあってもガキでも乗れるんだからな。
そう楽観的に考えた俺は、特に深く考える事もせずに頷いた。
「良かったぁ!絶対乗りたかったのよぉ。ほら見て、地上◯◯メートルから落下だって!ワクワクするわねー」
そんな話をしながらジェットコースターの列に並ぶと、他のアトラクションより明らかに列が長い。
(ふーん…、人気の乗り物なのか)
その時、まだほんの少しだけあった不安(初めてだから仕方ねーよな?)も、その行列のおかげで薄れた。
パンフで謳ってる通り、そんなに怖いアトラクションなら、こんなに乗りたがる奴らがいる訳ねーもんな。
そうして、みゆりと他愛ない話をしているうちに順番が回って来た。
♢♢♢♢♢♢
十数分後。
俺はフラフラと目が回りそうになりながら、アトラクションを出て来ていた。
「楽しかったぁー!やっぱり絶叫系は最高よね!」
「…ぅッぷ…」
「……真城クン?」
「……あ、あぁ…すごいスピードだったな…」
「ねー、でも落下も多かったわねぇ。私は落下系よりは猛スピードで走るタイプの方が好きなんだけど…、落下してる時って景色とか見れないじゃない?やっぱり怖くて目ぇ閉じちゃうし」
いや…、俺は落下時以外も目を閉じてました、はい。
……つーか、何の罰ゲームだ。
あんなの好んで乗る奴の気が知れん。
(予想を遥かに超えた衝撃だったな…)
あのあり得ないスピードに加えて、空中で逆さま停止とか死ぬかと思ったぞ。
しかもその直後に、一気に落下と来たもんだ。
舐めて掛かっていたが、ジェットコースター…侮れん。今後は二度と乗らないと心に誓う。
情けないが正直言って、あまりの恐怖に何度か意識を失いかけたし、現在進行形で気持ちが悪い。
(…ぶっちゃけ吐きそうだ……が、みゆりにバレる訳にはいかねぇ…!!ぜってー面白がってまた乗りたいって言い出すに決まってる)
俺は努めて冷静をよそおいながら、みゆりの「少し休憩しよっか」という提案に全力で頷いた。
#みゆりside ────
ジェットコースターを降りてから、颯斗の様子が明らかにおかしい。顔は真っ青だしフラフラしてるし…。
(…隠してるけど絶叫系は苦手…ってところかしらねー)
別に苦手だって良いのに、なんで見栄張りたがるのかしら。
私がからかうとでも思っんのかしらね。
(……失礼ね)
でも、必死で平静をよそおってる颯斗は何だか可愛くて、私は休憩しようかと提案する事にした。
ほとんどのお店が満席だったけど、やっと見つけた席で軽食を頼むと、颯斗は一息つくように水を一気に飲み干す。
「ねぇ、ホントにお腹減ってないの?コーヒーだけ?」
気持ち悪くて食欲なんかないのは分かってたけど、あえて聞いてみると、颯斗は少し落ち着いた顔色で頷いた。
「なら良いけどー」
気持ち悪いのが落ち着いたら食欲も戻るでしょ。
可哀想だし、私は少し颯斗を放っておく事にしてスマホを手に取る。
颯斗とのせっかくのデート、スマホの電源は切っていて全然見てなかったけど、沢山連絡が来てた。
順番に返信していると、頼んだ軽食が到着する。
適当に食べながら颯斗を見ると、やっと通常モードに戻ったみたい。これなら食欲も戻ってるでしょ。
私は持っていたポテトを颯斗の口元まで運んだ。




