110. 約束は守ります。
愛莉が体調を崩してから数日後。
ついにこの日が来ちまった。
みゆりとテーマパークに行く約束をした日曜日だ。
ギリギリまで行きたくなくて(今もだが)、愛莉の風邪がうつってくれたら…なんて思ってたが、現実はそんなに甘くなかった。
かと言って、仮病まで使って約束を反故にするのも気が引ける。
(……最後の最後で突き放せない…、俺の悪い所だな)
仕方なく着替えて鏡の前に立つ。
…大丈夫。鏡に映る俺の姿は、いつもと変わらない。
最近は鏡を見るたびに、自分の顔を確認するようになっちまった。
理由は分からないが、自分という存在が時々誰なのか分からなくなる気がして、鏡に映る颯斗の姿を確認しないと不安になる。
(それもこれも、あの夢…いや、幻のせいだ…)
俺じゃない、もう1人の俺の存在。
その幻のせいで、俺が2人いるみたいな気になるんだ。
…あれか?…あの……正式名称なんか分からねーけど、多重人格とか…そういう?
(…って、んなわけねーよな。アホらし)
俺は俺だ。
もう一度だけ鏡で自分の顔を確認した後、俺はみゆりとの待ち合わせ場所に向かう事にした。
♢♢♢♢♢♢
待ち合わせ場所は駅前にあるファーストフード店。
よく待ち合わせで使われる店で、中に入ると昼前だっつーのに満席だった。
仕方なく店の前で時間を潰す事にする。
別に店内で待ってなくても、ここにいれば見渡しも良い。みゆりも探さずに済むだろう。
スマホで適当なニュースアプリを見ていると、あっという間に時間が過ぎて、みゆりからメッセが入った。
『着いたよ、店の前にいるの見える』
そんな内容を確認してから顔を上げると、みゆりが近づいて来ているのが見えた。
スマホをポケットにしまうと、みゆりが「お待たせー」と隣にやって来た。
「電車の時間調べておいてくれた?」
「あぁ、ちょうどテーマパーク前まで直で行ける電車がもう直ぐだ」
そうして、俺はみゆりと電車に乗り込んだ。
#みゆりside ────
まさかホントに来てくれるとは思ってなかった。
イヤイヤ来てる感は隠せてないけど、まぁ来てくれただけでも大きな進歩って事で。
(前だったら絶対に来なかったもんね。千代音の後ってのがムカつくけど、連絡先もやっと教えてくれたしさ)
一番気になってたのは愛莉の存在だけど…、話を聞いてる感じ、完全に妹としてしか見てないのは確実かしら。
(颯斗本人が全くそういう目で見てないんだから、気にする必要なさそうだけど…、幼馴染って関係は意外と面倒だし…)
大和があの子を気に入ってるなら話は早い。
多少強引な手を使っても、大和とくっつけちゃうのが一番良さそう。
私は隣に立っている颯斗を見ると、その顔を覗き込んだ。
「ねぇ真城クン、今日って愛莉さん何してるの?」
そう言うと、颯斗は少しだけ考えた後に「さぁ?」と肩をすくめる。
…興味なしって感じだけど…、本音としてはどうなのかしらねぇ。
#愛莉side ────
風邪をひいて寝込んでから数日。
やっと喉の痛みも身体の怠さもなくなり完全復活だ。
(あー、健康って素晴らしい…)
颯斗が作り置きしてくれたおかげで、風邪で寝込んでる間の食事も困らなかったし、何かお礼しないと。
(今夜は颯斗が好きな地元の料理でも作ってあげようかな…)
今日は日曜で颯斗も家で暇してるだけだろうし、今夜は夕飯を作って招待してあげよう。
颯斗の好物や好き嫌いなら把握してる。
だけど地元の田舎料理は、煮込んだり時間置いたりと、少し手間が掛かる物も多い。
時計を見るとお昼を少し過ぎた所だ。
自分のお昼ご飯も作らないといけないし、私はさっそく着替えて買い物に出かける事にした。
一度、颯斗の希望も聞いておこうと隣を訪ねたけど留守だった。
日曜だし友達と遊びに出掛けてるのかも知れない。
(食べたい物が分かれば一番良いんだけど仕方ないわね…。…とりあえず煮込みハンバーグ好きだし煮込みハンバーグ…、私がなんとなくシチューとパンを食べたい気分だけど、颯斗は白米食べたいって言いそうだしなぁ…)
頭の中で今夜の献立を考えながらマンションを出ると、すごく良い天気で絶好のお散歩日和だ。
(こんな天気の良い日は外でお弁当食べたりするのも気持ち良さそう)
今頃颯斗は何してるのかしら。
友達って言っても、颯斗の友人関係なんて大和さんしか思い浮かばないけど…。
そこでふと、みゆりさんの顔が浮かんでしまい、私はその顔を振り払うように大きく頭を振った。




