109. 愛莉ちゃんは甘えたい。
もぞもぞとベッドの中から顔を出すと、ちょうど颯斗が1人分の食事運んで来ている所だった。
「…美味しそうな匂いね」
「当たり前だ、誰が作ったと思ってる」
珍しく褒めてるのに、颯斗は顔色一つ変えずにテーブルの上を片付け、運んできた食事を用意する。
「ありがとう、…手間かけたわね。具材はなに?」
「滋養のある野菜だ、…あと肉も少し」
まるで私の心を読んだような返事だ。
ぐうの音も出ずに、私は鍋の蓋を開ける。
「…わぁ」
食べやすいように程よく冷まされたおじやはすごく美味しそうで、私はレンゲでおじやをすくった。
……あれ?
「…具がネギばっかりよ?って言うか、ネギしか見えないんだけど…。お肉入れてくれたのよね?」
「ネギは身体に良いんだ、風邪ひーたらネギ一択だろ。文句言わずに食え」
そう言うと、颯斗は小皿にネギとかキノコとか、ネギとかネギとかネギを入れて、私に差し出してくる。
(どんだけネギ食べさせたいのよ…!!)
まぁ、ネギも嫌いじゃないけど。
でもお肉が食べたいな…と、おじやの中をかき混ぜてお肉を探してると、颯斗は苛ついたように私の手からおじやを奪い取った。
「…何してんだよ、食い物で遊ぶな」
「あ…遊んでたんじゃなくて…」
ほとんど入ってない肉を探してた。と言おうとするが、さすがにせっかく作ってくれたのに文句は言えない。
すると、颯斗は呆れた顔でレンゲを取り、無難な具材をお椀に入れ、私に出してくる。
「ほれ」
「あ…ありが……」
お礼を言って受け取ろうとした時、ふと悪戯心が芽生えた私は、そのお椀を受け取らずにソッポを向いた。
「あーんってやってくれなきゃ食べない」
「…………」
何を言ってるのか理解出来なかったのか、一瞬颯斗が固まる。
「…………は?」
やっと理解したのか、颯斗は眉をひそめて私を見て来るけど、その顔はめちゃくちゃ動揺してるみたいだ。
「あーんってしてくれたら食べる」
「………喧嘩売ってんのか?」
まぁ、そうなるわよね。
だけど、せっかく(?)風邪をひいたんだから、このチャンスを逃すわけにはいかない。
この機会を逃したら、今後颯斗に甘える機会なんて、絶対に訪れない。
「言わなきゃ食べないわ」
絶対に私からは折れないと、頑固にそう言うと、颯斗は眉間をシワを深くする。
「やると思うか?」
「なら片付けたら?」
意地でも食べさせてくれない限り食べない。
そう態度で示すと、颯斗は目を逸らしながらレンゲを手に取った。
そのまま少しだけおじやを掬うと、私の方へレンゲをずい。と出して来る。
「……口開けろ」
「怖い、もっと優しく」
明らかに不機嫌そうな颯斗に、やりすぎかな?も思いつつも何処までやってくれるのかを試したくてそう言うと、さすがに颯斗は持っていたお椀とレンゲを枕元に置いて、私の頬を思いっきりツネった。
「…何度も言わせるんじゃねぇ、身体中の穴という穴にネギ突っ込むぞ」
「…ひ…ひはい(痛い)!ほっへは(ほっぺた)伸びたらほーふんのよ!」
頬をぐいっと摘まれたままだから、上手く喋れずに変な声が出る。
頭を振って颯斗の手から逃げると、私は枕元のお椀とレンゲを手に取った。
「食べる…食べるわよ!」
「最初っから素直に食ってりゃ良いんだよ、このアホが」
睨まれながらおじやを口にすると、ホッとするような優しい美味しさだ。
「…美味しい、颯斗ってホント料理上手なのよね…」
「当たり前だろ、お前より一人暮らしの期間長いんだ」
そう言うと、颯斗はお椀の中のネギを指差す。
「ネギ食えネギ、風邪にも身体にも良いんだ」
「…はいはい、食べるわよ…」
いつからネギ信者になったのよ。
言われるまま、クタクタに柔らかくなったネギを食べる。
…うん、美味しい。
「……さすがの颯斗も病人には優しいのね、まさか心配しておじやまで作ってくれるとは思わなかったわ」
今度仮病でも使ってみようか。
たまに優しい颯斗に会えるなら、寝込むのも悪くない。
そう思ってついニヤニヤすると、颯斗が顔を覗き込んでくる。
「…言っておくが、仮病使っても分かるからな」
…顔に出てたみたい。
私は空咳でごまかして、…それでもついつい笑顔になりながら残りのおじやを完食した。
#颯斗side ────
ガキみてぇなワガママを言う愛莉に飯を食わせて薬を飲ませた後、俺は愛莉の部屋の洗い物や簡単な片付けを終えて、また寝室に戻った。
「おい愛莉、ある程度は片付けておいたから、お前はこのまま寝……」
……ん?
寝てろよ、と声をかける必要もなかったな。
愛莉はもう夢の中だった。
(そういや、腹一杯になるとすぐ寝るの…子供の頃もそうだったな)
熱を見てやるかと額に手をあてると、予想以上に熱い。
さっきよりも熱が上がってるらしい。
(これは夜中に喉が渇いて起きるパターンだな。夜中に目が覚めた時、すぐに飲めるようにペットボトルでも用意しとくか…)
そう思いながら眠る愛莉の顔を見下ろすと、俺はその顔に汗でへばり付いた髪を少し払った。




